01-21 攻勢準備(前)
01-21 攻勢準備――フライアとフラジール
Ver1.1
セントルアーバ基地。
そこはエクスリックス王国の東に広がるザックバール砂漠に接する同王国軍の一大拠点であり、建設計画が発せられてか今日に至るまで、月日が経つ度にその全容を表し始め――。
先頃、この場所が作られた『理由』がその姿を表した事で、セントルアーバ基地はその本懐を漸く発揮し始めていた。
それは潜砂艦の為に建設された広大に過ぎる格納庫であり、“構造強化”の“刻印”が施された石材と木材によって構築された建屋の中には今、1番艦であるフライアのみがその身を横たえ、出撃の時を待っていた。
そして、その格納庫内。先日完成したばかりの船渠の端にて――。
「……竜士様、いつまでこうしているのですか?」
格納庫内を冷風で満たす“自在の風”を留める仕切り布を背に、砂を抜かれた船渠に固定された巨大な船を眺める2人の男女の内、青年の右後ろに控える小柄な少女が静かな問いを投げ掛ける。
「――――こういった査察も、今の自分の仕事だと聞いている」
それに応じた長身の青年は意図して少女の方を見ないようにしながら、面倒事を思考の外に追いやるように自分達の母艦を眺め続ける。
彼等の立場を大きく変化させた戦い――“風盾”を得た機竜がその力を示した戦闘から、既に1ヵ月の時が流れていた。
それは長いとも短いともいえない時間であるが、その渦中に居た彼等の日々は中々に過密であった。
ノース・クラウでの技術交流を終え、セントルアーバに帰還したフライアの乗組員全員に休暇を与えられた所までは順当な流れであったが、そこから後の2週間は激動という言葉が生易しい程の日々が彼等を待っていた。
それはジェフスティア侯爵からフライアの同級2番艦――フラジールが提供された事から始まり、その日を境に同艦の戦力化を成す為の人事異動の嵐が吹き荒れる事となった。
フライアからの引き抜き、配属された人員の再編成に再訓練。
それらは2週間で終わらせられる筈もない激務であったが、そんな嵐もある程度の時間が過ぎれば慣れも生まれ、今日ここに至ってはある程度の落ち着きを見せていた。
「――それに、もう暫くは訓練が許される期間とされている筈だ」
「……ですので、竜士様――戦隊長にはなるべく早くに機竜隊の新しい隊長を定めて頂きたいのですが?」
そんな表面上の静けさの中、副官の指摘に応える青年――グラン・サウスココル『大尉』が発する言い訳のような現状説明に、銀髪の少女からの避けたままにしておきたい課題が突き刺さる。
「――――」
この頼りになる少女――ラフィーア・フィルトメル『中尉』の言動はフラジールに纏わる再編成が始まってから厳しさが増しているとグランは感じており、その変化に恐怖にも似た感情を覚えながらも彼は思考を他所へと逃がし続ける。
今回の再編成自体はグランがセントルアーバに着任した時から予定されていた事であった。
しかし、その内容は理としては納得出来るとしても、現場の立場で考えれば受け入れ難い内容であった。
再編成の基本は潜砂艦の実務経験を獲得しているフライアの人員を引き抜き、フラジールにも分割する事で両艦の運用を止める事無く一定の稼働率を維持するという順当なものであった。
しかし、その穴埋めが新兵ばかりであるという現実はそれを扱う側からすれば大変心許ないものであり、協力者の機嫌が悪いのも長年協同していた古参兵の全てを取り上げられた所為なのではとグランは勘ぐっていた。
尚、フライアから引き抜かれたのは艦長以外の乗務員と竜騎隊を率いていたレイル大尉、そして先にも述べた古参兵に加えて短い間とはいえグランの部下であったウェックス『特務中尉』であり、彼等を中心として新任の艦長と共に新兵達を育てて行くらしい。
他人事としてグランが思い返しただけでも元同僚が苦労しそうな話ではあるが、前途多難なのはフライアに残ったグラン達もそう変わりがない。
フライアに残ったのはここに居るグランとラフィーアに艦長であるフゥーリー中佐。
それに隊長の抜けた3騎の竜騎だけという惨状であり、戦闘に参加する以前に戦場へと辿り着く事すら難しい状態
にあるフライアの近況はは艦の点検と編入された乗組員や新兵の教練を並行して行う日々が続いていた。
「……猶予はフラジールが戻るまでの間しかありません。……引継ぎ等も考えれば、あまり余裕は無いと考えてくださいませ」
「――――ああ」
しかし、現時点ではフライアの実働戦力を引き取ったフラジールが敵補給路への襲撃任務を担っているものの、上層部は両艦の戦力均衡が成されたと考えているらしく――グラン達の再出撃の日は着実に近づいていた。
「――――戦隊長、か」
そうして出口の見えない難題を前に疲れたグランが今日ここに至るまでの状況を思案に乗せた所で、彼はここ最近のうねりの中で自分に宛がわれた立場を呟く。
機竜6機で3倍近い戦車群を撃破した上、当初の作戦をも成功させた戦勲が認められた事で副官であるラフィーア共々昇進したグランを待っていたのはフライアの戦力を統括する立場であり、彼は今後竜騎隊も指揮下に加える事となる。
その結果、実情は心許ない大幅な増派によって書類の山も肥大化したのだが、今回加わった竜騎隊に関わる物は前職の経験によって軽く纏め上げ、枚数だけが増えた機竜隊の分も片づけた戦隊長の仕事は残す所あと1つだけとなっていた。
「……竜騎隊の新しい隊長を決めた時のように、引継ぎの所見や出自で決めてしまえばいいではありませんか」
「――――此方が編入間もない状態で機竜隊を動かせたのは、君がいたからだ。……そのような副官も、指針となる経験もない新人に任せても上手く回るとは思えない」
グランを里で生かした“目”で見なくとも不満を感じられるラフィーアの言葉に、彼は自分の経験によって補強された理で応える。
レイル大尉が外れた事で3騎となった竜騎隊は彼が隊長であった頃よりも管理・統制は楽になっていると考えられ、先日任命した新しい隊長は部隊を上手く回すだろう。
しかし、機竜隊は今回の再編成によって一気に12機にまで増派されており、グランの時には6機ですら手を焼いていた事を思えば右も左も判らないであろう新人にその任を押し付けるのは不可能だと彼は考えていた。
「――――?」
そんな人材不足の打開策を思い悩むグランは再編成が始まった辺りから話し掛けづらくなっている優秀な副官に意見を求めたいと思っていたのだが、当のラフィーアから届く“色”が妙な事に気付いた彼は視線を右に向ける。
すると、その視線の先には頬に赤みが掛かった思案顔で目線を逸らしているラフィーアが居り、グランは彼女の発する“色”が照れとも満足とも見える“情動”だと考え至ったものの、その事実は彼に新たな疑問を浮かばせた。
「――――」
「……竜士様が前線向きの人員である以上、機竜隊長を選出した後に竜士様自身が機竜隊の指揮を執る事には反対致しません」
先程の自分の言葉に変化を及ぼすような要因があっただろうかとグランが思案を捻らせている中、ラフィーアは彼が口にした事のなかった腹案を見事に言い当ててくる。
「ならば――」
「……ですが、隊を預かっている以上――万が一の時の事を考えておかねば無責任と後ろ指を指されてしまいます」
グランはそんなラフィーアの言葉に驚きつつも、彼は説明をする事なく伝わっていた自分の腹案の詰めに掛かろうとするも、その言葉は続いた真っ当な指摘にグゥの音も出ず沈黙する。
「――――『人間の世界』は、なかなかに面倒だな」
グラン自身から見ても、ラフィーアには出会った当初から手玉に取られている感覚を覚えていたものの、最近ではその才に経験が加わる事で自分の思考が筒抜けになっていると感じていた。
同時に、これだけの協同が可能な関係であれば万が一の際の指揮権継承も恙無く行える筈であり、そんな副官を機竜隊の隊長に任命できれば全てが丸く収まるのだが――。
しかし、いくら最適な人材であっても戦場においてグランを乗せている機竜はグランが倒れた時に無事でいられる可能性が低く、いくら有能で信頼が置けたとしてもラフィーアを次席指揮官に据える事は出来ない。
エクスリックス軍を悩ませる人材不足のしわ寄せを押し付けられているグランが思い悩む中、『ピピ』という聞き慣れない音が2人の間に響き、それに覚えがあるらしいラフィーアは自分の腰鎧の内側へと手を伸ばす。
「…………時間ですね。エリオード技術大尉がフライアの機竜格納庫でお待ちになっている筈です」
「――判った」
そうして取り出した指輪のような形の――やけに小さな懐中時計へと視線を向けたラフィーアは次の予定を示し、その言葉に倣ったグランは止まっていた足を前へと踏み出す。
「……事務処理の方は何とかしますので、納得のいくまで考えてくださいませ」
そうしてグランとラフィーアの距離が開いた時、彼女は呟くような提案をグランに届ける。
「――――ありがとう」
それはラフィーアが成せる最大限の譲歩であり、その心遣いを受けたグランが最近になって使い慣れてきた礼で応えると彼女は微笑みと共に目を瞑り、グランの右後ろ(いつものばしょ)に付く。
「…………バールゴートを選んだ時は驚きましたが――次の時も、竜士様の決定に間違いは無いでしょうから」
そうして歩き出したグランに歩調を合わせながら呟かれたのは先日起こった出来事を示した言葉であり、“不満”と“信頼”とが入り混じった“色”を背中に感じながら、彼は今日より少し前のソレを思い返す。
それは、グランが戦隊長を任じられた後――つい先日の事だ。
その時点ではまだ残っていたグランの職務。増員された機竜隊に関わる書類を片付けていた彼の職務室に、扉を叩く音が小さく響く。
「――誰か」
「バールゴート・ラバイス特務中尉であります。――御確認したい事があり、参りました」
そんな用向きの後、「失礼します」と入室した鋭い目元が特徴的な青年の表情は硬く、グランの“目”が映す“色”も緊張と決意の色が強い。
グランの眼前に居る人物は協力者と命を賭けた諍いを起こした人物であるが、“目”に映る今の人間は彼が警戒するまでもない“状態”にある。
「――話を聞く事ぐらいは出来るが、昼までにこの書類を片付けたい。茶を出す必要がある話であれば、午後に時間を作るが?」
「いえ、口頭で済む話ですので――今、僅かばかりの時間を頂ければ十分であります」
それを確認したグランが自分の都合を告げると、バールゴートはグランからしても慣れていなさそうに感じられる敬語で応じてから口火を開く。
「自分をフライア艦載竜騎隊の隊長に指名し、准尉から少尉への昇進と共に指揮権付与の為の特務中尉へ役付けを推薦したのは大尉殿であるとお聞きしました。――僭越ながらその真意をお聞かせ願いたく」
そうして続いたバールゴートの言葉はグランが初めて彼を見た時の言動や“色”が嘘であったかのような反応であり、グランが『当たり前の事を何故問われているのだろうか』と思案を捻っていると、左斜め前に座っているラフィーアの姿がその目に留まる。
「貴官は正式な軍事学を学んでおり、レイル大尉の元でも十分な実務経験を積んでいた」
グランの“目”に映ったラフィーアの“色”にも緊張と困惑が含まれており、彼女をしてもバールゴートと同じような“感情”を抱いている事に疑問を覚えたグランは、多少の迷いを含みながらも上官の責務に則り部下の疑問に自分が成した行動を言葉とする。
「――素行には大分問題があると引継書には記載されていたが、此方……いや、副官と魔術契約書を交わした以上、その問題は今後にあっては改善されると考えている」
「「…………」」
グランとしては理に適った最適な選択であった筈だが、彼の言葉にバールゴートは元よりラフィーアからも気まずそうな“色”が発せられる。
「それとも――他に何かあるのか?」
その反応――特にラフィーアの方――に疑問を覚えたグランは自分の判断の是非を確認する為に問いを投げ掛けるも、質問を向けられた2人からの反応は更なる沈黙であった。
「――――」
グランの判断は先程彼が言葉にした通りであるが、2人の反応を見るに『人間の世界』では異なるのだろうかと青年も思案を巡らせる。
竜の里にあれば、調和を守れないのであれば殺せばいいという認識が常識であり、『人間の世界』においては処するまでに段階があるものの、その処断の可否は当事者同士の話し合いによって解決を見れば止められるとグランは認識していた。
今にして思えばもう随分の昔の事のように思えるバールゴートの行為を軍規に照らし合わせれば、里と同じ極刑もあり得る行為であったらしい。
しかし、その処罰はラフィーアとスクロールを交わした事とレイル大尉の尽力によって取り下げられており、今のバールゴートに猶予は無いものの処分される理由も無く、『次』があれば『人間の世界』の軍規に従って処すればいいとグランは認識していたのだが――。
「「「…………」」」」
しかし、当の本人や『人間の世界の先生』の予期せぬ反応を前にした事でグランが持つその認識は揺らいでおり、彼は自分の認識を検証するべく2人の反応に意識を集中する。
「――――いえ。前々回の襲撃作戦の折には大変ご迷惑をお掛けしましたが、今後はご期待に沿えるよう、鋭意努力します」
「そうか。――他に何かあるか?」
しかし、若干反応が遅れたもののバールゴートの言葉と“感情”は従順なそれを示し、彼の言葉を受けたラフィーアも“害意”を緩めた事で自分の認識が『人間の世界』にあってもそう間違ってはいないと再認識したグランもまた警戒を緩め、会話を進める。
「いえ、お手数をお掛けしました。――今後も、どうかご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」
「判った。――竜騎に関してなら、此方も話が出来るだろう」
「ご配慮に感謝致します。――失礼しました」
そうして グランから見てもぎこちないように感じられる敬礼を最後に身を翻したバールゴートは退室前にもう一礼を加えてから執務室を後にする。
「…………」
「――どうかしたのか?」
「……あとで面倒事にならなければいいな、と」
その背を見送っても尚、微かな“害意”を残し続けているラフィーアの反応が気になったグランが言葉を投げかけると、彼女は自分の心根を落ち着かせるように瞼を閉じ、先を憂うような呟きで応える。
「君との契約に支障が出る事はないよ」
その“色”と言葉が出た経緯までは読めないグランであったが、それだけは断言できる結論を最後に、彼は残る書類を片付けに掛かる。
竜の里に置けるシキタリに則れば、問題は起こらない。
そして、もしも問題が起こったのであれば『人間の世界』の軍規に従って処断すればいい。
グランの認識はそんな単純なものだったが、しかし、この一幕から始まった変化は彼等が思う以上に劇的であった。
「大尉殿、昨日提出致しました訓練計画の進捗はいかがなものでしょうか?」
「特務中尉か。――基地上空での飛行許可は取り付けた。訓練の計画書の提出があれば飛べると聞いたが――そうだったな?」
「…………はい、竜士様」
それから数日後、竜騎隊への新たな運用概要を送った後のバールゴートの反応は、その時点からラフィーアを驚かせるものだった。
グランが作成・送付した概要は本営からの指示――2騎と予備1騎とする案――に反し、フライア隊が編成される以前の3騎編成に戻そうと画策したものであり、プロブ大佐までには了承を取り付けていた彼独自の要望であった。
竜騎の運用は2騎を一組みにしたもの悪くはないが、1騎を予備に回すぐらいなら3騎編成に戻して生存性を上げた方がいい。
それはグランの経験から裏打ちされた理論であったが、以前の決闘の経緯からしてバールゴートの初手は異議や反抗であろうと彼に進言していたラフィーアとソレを受けたグランはその提案通りに幾つかの対案をもって待ち構えていた。
しかし、そんなラフィーアの予想に反し、執務室に届いた書簡は3騎編成に戻す為の慣熟訓練を実施したい旨を記載した要望書であり、その書面はグランと共に内容を確認した彼女を大いに驚かせると共に、当初の予定とは違った意味で彼等の手を煩わせたのだが――。
「ご対応ありがとうございました、さっそく取り掛かります」
そうして正規の手順を踏み、始終丁寧な対応を取り続けたバールゴートはまだ慣れてなさそうな敬礼と共に執務室を退出する。
「…………本心でしょうか、アレは」
「――発している“色”に悪意や害意はなかったが?」
「………………そうでしたね」
グランの言葉、その確信の出所である彼の“目”に対して羨ましそうな“感情”を滲ませたラフィーアは、しかし自分の遺恨を諦めるように目を伏せる。
最適解であり駄目なら切り捨てればいいという投げ遣りと、この程度ならば失敗してもいい経験になる筈という2人の思惑はこうして裏切られる事となった。
それから更に数日後――。
「大尉殿。竜騎隊は今後、どのような方針での運用を――。はい、竜騎隊を連邦竜騎への迎撃以外に運用しないという原則は承知しておりますが、敵補給線への襲撃によって我等の存在が露呈している以上、何もせずに上空に居るのは無駄であると愚考しております」
ノースポイントを中心とした地図――フライアやフラジールの戦闘領域を記したソレを抱えてグラン等の執務室に乗り込んできたバールゴートは、そんな前置きと共に持ち込んだ紙片を執務室に広げる。
「連邦竜騎への警戒を怠る、もしくは迎撃の為の力を保持しておかないのは以ての外ですが、相手の偵察機の排除は今の竜騎隊の本懐にも関わる事ですので、偵察機の排除程度あれば本営への『言い訳』のしようがあると愚考している次第です」
なにも置かれていなかった机に広げられた地図の上に幾つかの予測円を描くバールゴートの行動は、同じく竜騎士であったグランに馴染む動きであり、バールゴートの意図を理解したグランはその提案へと意識を傾ける。
「――しかし、現状では空に居る貴官等と陸にいる此方側とが、敵に悟られ難い形で合図を交わす術がない」
「承知しています。――ですので、ここと、ここ……範囲は暫定的な物ですが、襲撃作戦の推移に問題を起こす可能性がある偵察機等が侵入した場合には先行して排除し、事後連絡する形を取ろうと考えています」
「――――」
そうして続けられた提案に対し、『最近では機竜の事しか考えていなかったな』と今更ながらに思い至ったグランは竜騎を懐かしみながらバールゴートが持ち込んだ新たな構想を一考する。
実地やこれまでの机上演習を鑑みれば、この範囲にまで敵偵察機に入られれば襲撃作戦が露見するのは確かである。
よって、ソレを叩き落とす事自体には何の問題はなく、竜騎による襲撃と誤認させられれば発見された後であっても奇襲性が維持できる副次効果も見込める。
「――――副官と共に検証したい。……準備を頼めるか?」
「了解しました。書類の提出は何時頃までに致しますか」
「――出来上がってから予定を組む事にする」
「ご配慮ありがとうございます、早急に対処致します」
その有効性を認めたグランが続報を求めるとバールゴートは快く反応し、この数日の間で使い慣れている感覚が出始めた敬礼と共に退出する。
「…………ああいった手合いが居るとは聞いていましたが……こうまで変わるものですか」
「此方も意外だったとは感じている。――特務中尉の変化の事をなんというのか、君は知っているのか?」
バールゴートの姿が見えなくなってから気まずそうな“色”を強めたラフィーアの呟きに同意したグランであったが、その言葉に知識の片鱗を見た彼はその内容を知るべく問いを投げ掛ける。
「……? ……竜士様は知らずにあの貴族を焚き付けたのですか?」
「――焚き付けた、とは?」
それに答えたラフィーアの“表情”は呆れに満ちており、その意図が判らないグランがオウム返しによって先を促すと彼女は目を伏せながら静かな溜息を零す。
「……竜士様は、意外と何も考えてな――いえ、契約の形を正しく割り切れる竜士様は凄いな、と感じただけです。……気にしないでください」
「――――そうか」
返答の前半分に不穏な言葉を聞いた気もするが、最終的には妥当と納得の“色”を感じたグランはラフィーアのそれを気にしてはならない機微と判断し、残った引っ掛かりを思案の外に叩き出しながら終わりの見え始めた書類に意識を戻す。
バールゴートの『猛攻』はそれ以降も続き、機竜隊との本格的な協同にも興味を示したのか同兵科の要点を学びに訪ねたり、グランに騎士剣による稽古を申し込んだりといったような精力的な動きを見せる。
そんな日々はバールゴートを隊長に任命する事に否定的だったラフィーアを驚愕せしめるには十分な事実だったらしく、最近では彼が訪ねてくる度に気まずそうな“色”を醸しながら視線を逸らしていた。
グラン『大尉』
特務大尉(実の所は中尉)を任されてから時間を経たずに大尉昇進。
戦闘能力はあれど座学不足で役者不足。副官が居ないと回らないブラック業務です。
ラフィーア『中尉』
周りを考えると比較的順当。
ウェックス『特務中尉』
つい先日まで准尉だったのが少尉への昇進と共にフラジール機竜隊長を任された為に『特務中尉』となる。
尚、頼れる副官は居ない――ド・ブラック業務です。
バールゴート『特務中尉』
ラフィーアの体質目当てに突っかかった結果、決闘に敗北するという憂き目にあった准尉だったのが竜騎隊の隊長を任せる為に少尉昇進と同時に『特務中尉』を拝命。
――経験はありますので何とかなります。
2020/10/10 Ver1.0:実装
2021/03/25 Ver1.1:プロット確認・調整のついでに行った誤字脱字及び調整を反映




