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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
砂地を駆ける為に     (承)
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01-18 街角講義

01-18 街角講義

Ver1.1




「……この薬室と呼ばれる部位に弾丸を装填し、引き金と連動している撃針で弾丸後部の薬莢を叩くと弾が発射され――発射薬と雷管が詰まっていた空薬莢を排莢する事で次弾の装填が可能となります」

「――――」


 解説と共にラフィーアが書き終えた2枚目の紙には魔石銃とは比べものにならない程の部品とそれらの動作方法が書き込まれており、グランはその説明からエクスリックスの職人――否、これを量産・運用できる連邦の力を垣間見ていた。


 2人が居る場所はノース・クラウ商業区画に店を構える喫茶店の窓際席であり、小道から始まった個人講義は机を得た事でより本格的なものに発展していた。


「――魔石銃と似ているのは、外観だけか」


 その最中に走った恐れにも似た驚きを落ち着かせるべく、グランは少し前に描かれ、今は机の端に置かれている1枚目の素描(そびょう)を手に取る。


 そこに描かれている魔石銃の見取図には引き金を引けば弾倉に繋がる開閉板が開き、弾倉に詰まった魔石が“刻印”の施された銃身に落ちる事で射出の“刻印(まじゅつ)”が動くという単純な仕掛けであり、情報量の差は歴然であった。


「……各部品に使われている金属も、その構造に最適な鉱物が選定されていますからね……本当に、凄いものです」


 グランの呟きに同意で応えたラフィーアは「……此方は塔から供給される鉱物を取り合いながらやりくりしているのに……」と静かに零してから視線を遠くに向け、そのまま沈黙してしまう。


 『魔術を教えてほしい』


 そんなグランの要望に応えたラフィーアは『座って話せる場所に行きましょう』と提案し、2人は商業区画を横切る大通りに面したこの店に移動する事となった。


「――――」


 しかし、そうして即興の専属講師を続けていたラフィーアであったが、連邦の突撃銃に思う所があるらしい彼女はその説明を終えた所で思考の底へと潜ってしまい、グランの見立てでは暫く戻って来ないように見て取れた。


 こんな状態の“姫”に声を掛ける事が愚かな行為である事をグゥエルナーから教わっていたグランは沈黙したラフィーアを放置する事に決め、ここまでに習った事を纏めるべく思案を巡らせる。


 エクスリックスが使用する魔石銃と魔石砲(長砲型含む)の違いはその大きさが違うだけで構造はほとんど同じものだった。


 それに対し、ファルストリアの使用する武器は魔石銃と外見が似ている物もあれどもその中身は完全な別物であり、その威力や効果を知る為には専門の見識を深める必要があるようだった。


 ちなみにグランが車列内で受け、爆発時に転がされた金属塊――手榴弾と言うらしい――は手投げ式の榴弾であり、歩兵同士の戦闘で特に警戒されている兵器らしい。


 また、同じ車列内でグランが受けた長銃――敵兵が伏せた状態で使っていた武器――は未確認兵器だったらしく、その威力や所見をラフィーアに伝えると、


『……南で魔導騎士が突然倒された原因はこれかもしれませんね。……あとで別個の報告書を作りましょう』


 との答えが返ってきた事から、自分の左肩に受けた手痛い授業料はそれだけの価値があったのだろうとグランの中に幾ばくか残っていた溜飲(りゅういん)を下げていた。


「――榴弾砲の話も、興味深かったが……」


 ここまでの話だけでも有益な情報だったと教えられた事を纏めたグランは、自分達に近付く“気配(いろ)”へと視線を向ける。


「お待たせいたしました」


 その“気配”はラフィーアが着ている組み合わせ(ブラウスとジャンパースカート)に前掛けを加えたような格好の給仕であり、席に座る2人の前に湯呑を置いた彼女は手慣れた所作で茶を注ぎ、一礼を終えてから静かに下がっていく。


「…………届きましたか」


 残された湯呑から薫る葉の匂いは物思いに耽っていたラフィーアを現実へと引き戻し、香りに頬を緩めた彼女は配膳されたそれに口を付ける。


「…………さて。……落ち着ける場所に着きましたし、漸く本題ですね。……魔術を教えて欲しいとの事でしたが、何処から始めましょうか?」

「――基本的な事の確認から始めよう」


 物思いに耽っていた事実をすっぱりと切り捨てたラフィーアの一面をすんなり認めたグランもまた湯呑を傾け、前置き(ことば)を挟んでから確認したい事を纏め上げる。


「魔術は世界に溢れる魔素を元とし、それを自分の体に取り込む事で生み出した魔力を燃料として織り成される奇跡の力。この認識に間違いはないか?」

「……発現した効果を奇跡と称するのが少々古臭い以外は、その通りですね)」

「そうか。――だが、実の所この先が判らない」


 そうしてグランの発した当たり前の事に応えたラフィーアは、そこから続く言葉に『おや、もうですか?』と言いたげな“色”を見せる。


「竜が使う炎息や障壁、人の世に溢れている魔石銃や君が編み出した“風盾”――これらは全て魔術という同じ括りに填められているが…………それは正しいのか?」


 魔術の基本は、先にグランが述べた通り魔力やそれを物質化させた魔石を消費して特定の現象を発現させる技術となる。


 しかし、それらの『魔力(ざいりょう)』と『過程』は全て同じだが、編み出したものの効力の違いは同じ魔術と括るには差が大き過ぎる。


 人の世に出たグランがこの問題にぶつかった時、彼は使用する魔力量で区切っていると考え――人が使える物が人間の言う魔術であると予想したのだが、ラフィーアが魔術陣や炎息を使った事でこの仮説は潰えしまった。


「…………では、竜士様。……此方に触れてみてください」


 グランとしては気になって仕方のないその問題に対し、ラフィーアは何らかの魔術を組みながら言葉を投げ掛ける。


 その誘うような言葉と共差し向けられたラフィーアの手には小さな嵐が渦巻いており、風の効果が『見えない』部分には何の影響も発していないソレは、しかしグランが触れようとすると強い抵抗を示す。


「――限定された暴風か。だが、これならば……」


 グランの指が感じる風の抵抗は強烈であったが、その力を把握した彼が“身体強化”を掛けるとその指は発生源である魔石に触れる事が出来た。


「……魔石に“刻印”したのは“風盾”の前――“矢避け”を強化した魔術です」


 ラフィーアの掌の上で渦巻いていた緑色の暴風はグランが触れた瞬間に霧散し、自分の掌に落ちた魔石を机に乗せた彼女は新たな魔石を取り出しながら説明を始める。


「……魔力を使って自然現象を任意に真似るのが魔術の中でも事象魔術と呼ばれる技術であり、人の世で最も普及している、使い易い魔術です」


 流れるように説明を続けているラフィーアは、言葉を紡ぎながら新しく出した魔石と机に置いていた魔石を両掌で包み込む。


「……魔石銃に使われる“刻印”もこれに当たりますので、人の世界にある魔術の大半は事象魔術(これ)ですね」


 そんな説明を続けながらも尋常ではない“(まりょく)”の流れを発し始めたラフィーアは目を瞑り、次の魔術を組み始める。


「…………我は咎人、なれど風の理を知る者なり」

「――――」


 その最後の(つぶやき)はラフィーアが本気の時に紡ぐただの“言葉”であり、店に居る客達の中でその強大な魔術の兆し(まりょくのながれ)を察する事ができた者達の視線と驚きが窓際(ふたり)に集中する。


「…………では、竜士様。……先程と同じように、これに触ってみてください」


 そうして掲げられたラフィーアの掌の上には1つに融着した緑色の魔石があり、先程の物とは比べ物にならない程に緻密な“刻印”が施されたそれは見るからに異様な雰囲気を発していた。


「――――む?」


 見掛けだけで判断するなら、その魔術は大石になった風の魔石が中空に浮かんでいるだけであったが、それに触ろうと押し込んだグランの右手はある一定の所にまで手を伸ばすと見えない壁があるように進まなくなる。


「――本気を出しても?」

「……お店に迷惑を掛けない程度でお願いします」


 そんな確認を最後にグランは自分が組める限りの“身体強化”を発現させた拳を打ち込んでみるも、その不可視の壁は彼の右手を拒み続ける。


「……今回“刻印”した魔術は“風盾”を強化したもので、竜の操る障壁を模倣した魔術です」

「――――」


 グランとしては満足に動く(みぎて)にも支障が出る事を覚悟していたのだが、ラフィーアが組んだ魔術は進めないのに反動もないという面妖な代物であり、彼はその境界を確かめるように右手で不可視の壁を摩る。


「凄いな」

「……空気も遮断してしまう上に強度でも本物に劣る、即興の紛い物ですよ」


 その感触を確かめるグランが未知の魔術に素直な賞賛を向けるもののラフィーアの応えは冷めたものであり、言葉に含まれる冷たさが空気に溶けた頃、効果を顕現させていた魔石が回収する間もなく崩れ消える。


「……風は触り難い。……その事象が起こす結果のみを凝縮する事で見えない壁を作り出したのが今の魔術の理論で、ここまでくれば概念魔術――竜息と同じ分類に括られる魔術となります」

「――――」


 その解説を前にしたグランは再び黙考する。


「先程、魔石銃も事象魔術と言ったが――それは風の魔力で魔石を投射し、対応する魔石から容易に連想できる効果で相手を害する事からそう言われているのか?」

「……はい、その認識は間違ではないかと」

「――それに対し、君が先程組んだ“風盾”の強化版や竜が使う炎息は『対応する事象』が『無い』魔術である為に概念魔術と呼ばれている?」

「……その認識で間違いないかと」


 そうして導き出した『懸念』を肯定されてしまったグランは、更に黙考し熟考する。


「――もしや、事象魔術と概念魔術の差は評価者の匙加減か?」

「……“風盾”のように中途半端な立ち位置にある魔術は、そうなっていますね」

「――――」


 そうしてグランが絞り出した確認に対し、ラフィーアは彼の『懸念』など『たいした事』ではないように答え――青年はその回答に静かに目を瞑って天を仰ぐ。


「……竜士様は、明確なモノが好きなのですね」

「奸悪ではないと思うが」


 そんなグランの様子を前にしたラフィーアの指摘に、彼は感情を抑えるように目を瞑ったまま静かに言葉を零す。


 基準は裁定の指標となるものであり、明確でなければならない。


 それはグランの故郷である竜の里にあって不変の事象であり、里よりも法規の考察と理解が進んでいると思われた人間の世界であれば『不確かな(そういった)モノ』は無くなっているとグランは考えていたのだが――。


「……だって、バールゴートの所業を確認した時よりも渋い顔をしていらっしゃいますもの」

「――――」


 そうして悩むグランに向けられたラフィーアの言葉は軽く、彼はその指摘通りに強張っていた頬をなぞりながら『裁定者の悩みは何処に行っても尽きない』と自分の認識を改める。


「……それに、自分1人で答えを出す事もされないのですね」

「――――正しさとは、一個体が出していい判断ではない」


 そんな中で続けられるラフィーアの所見はグランの在り方を的確に突いており、竜達のように自分を見透かしてくれているのであれば言葉(かざり)は無用と考えたグランは、自分を動かしている里の(シキタリ)で彼女に応じる。


「…………そう、ですね」

「――――」


 だが、その理論(ことば)はラフィーアから“(あざやかさ)”を失わせ、そんな言葉1つで態度を硬化させた彼女の変化に驚いたグランは“目”に込める魔力を強める。


「――?」


 しかし、冷や水を浴びせ掛けられたように変化したラフィーアの“色”は決して不快なものではなく、考えを深く巡らせている時のような“色”と共に『何か』に思い悩んでいるような態度を前にしたグランは困惑を強める。


「――――もしや、曖昧な事を正す行為は、人間の世界では当然の事ではないのか?」

「……いえ、大丈夫です。……竜士様の言う考えや行動は、間違いではありませんよ」


 その“(へんか)”と態度を見たグランは人間の世界では『この常識』が通用しない可能性に考え着き、その真偽を問い掛けるもののラフィーアは曖昧な返事のまま“思考(いろ)”を深くする。


「…………ただ、あの人が言ったような事を――いえ、昔同じような言葉を聞いた事があったので……少し、驚いただけです」

「――――そうか」


 そんな動揺の末、言い訳のような呟きを零したラフィーアは大きく息を付き、ただそれだけで“(いしき)”を切り替え――。


「…………魔術の事を教えると言いましたので、この件もお話しした方がいいですね」


 そんな前置きを挟んでから講義を再開する。


「……魔導(こちら)の歴史をご存知ない竜士様が疑問に思われるのは当然の事と思いますが、魔術の世界にあっては明確にされると困る人がいたり規格整備にお金が掛ったりするので……事象魔術と概念魔術の明確化は捨て置かれています」

「――正しい事を定めて困るのか?」

「……概念魔術は上位の魔術と認識されていますが、それを行使できなくとも優秀な魔術師は居ますし、概念魔術を組めても見る目のない下衆はいます」


 話を始めてしまえばラフィーアは徐々に調子を取り戻し、語られる経緯もまたグランが納得できるだけの理由が含まれていた。


「――――」


 しかし、それでもグランの中にあるわだかまりは解けきっておらず、彼の表情に現れない程度の不満を燻らせていた。


 そんな頑なさを前にしたラフィーアは「……本当に、あの人のようですね」と言葉を零してから湯呑を傾け、静かに間をとってから口火を開く。


「……線引きを明確にしてしまえば、知識が豊富で教えるのも上手い講師が概念魔術を行使できないが為に蔑ろにされたり――学も品位もない小娘が組めてしまった事で、国を揺るがす程の騒動を引き起こしたりする」

「――――」

「……ここで感情的に反論なさらないのですから、竜士様は優秀ですね」


 『それならば別の規則(シキタリ)を定めればいい』


 ラフィーアの語る(たと)え話にそう返しかけたグランであったが、彼はそれが言葉となる前に自分の矛盾に気付き、そんな協力者の内情を察した少女は満足気な微笑みを浮かべる。


 1つの正しい事を定めようとして、2つの不確かな事が発生する。


 その全てはいずれ正さなくてはならない事ではあるが、竜の里でも徹底出来ていない事をこれだけ多くいる人間に当て嵌めようとすれば、それは担当する者が一生を掛けなければならない程の面倒事になるのは想像に難くない。


 加えて、この話の始まりはグランが長らく続けていた裁定者に関わる者としての個人的な欲求であり、ふと冷静になって全体を見てしまえば、部外者である上に他に成さねばならぬ事がある彼が口を出せる内容では無いと理解できてしまった。


「…………誰もが出来る魔術でない事は確かですが、無用な権威付けで混乱をきたすよりは曖昧なままであった方が何かと都合がいい――それが今の魔導の主流ですので、竜士様も慣れてくださいね」

「――――君は、何の努力もせずに炎息や魔術陣を使えた訳ではないだろう?」

「……そんな努力を一言で流した人が居ましたね」

「――――」

「…………ふふ、ちょっと意地悪でしたか」


 今の自分が居る人間の世界に倣い、自分を曲げる事にしたグランの最後の抵抗を軽くいなしたラフィーアは微笑みを強くし、部外者の戯言だった事を認めたグランは大きく息を付く。


「失礼します。フィッシュフライサンドとチキンサンドになります」

「――む?」

「…………ありがとうございます。……あぁ、少し片付けますね」


 その吐息を最後に自分を納得させたグランと事の推移を注視していたラフィーアの席に頼んでいた料理が届き、これ以上の言葉を持たないラフィーアは配膳を積極的に手伝う事で席に漂う雰囲気の押し流しを図る。


 そうして申し訳程度に片づけられた机に配膳された品々は切込みを入れたパンに幾つかの食材を挟んだ料理であり、左腕が使えぬ今の自分には都合がいいと思うグランの視界に白く細い掌が入り込む。


「……では、いただきましょうか」

「ああ、そうだな」


 そう続けた掌の持ち(ラフィーア)に倣ってグランも同じ品を手に取ると、彼女は何故か満足気な微笑みを零してから手に取ったサンドイッチに口を付ける。


「――――」


 そんなラフィーアの所作(ほほえみ)に疑問しか浮かばないグランであったが、『人間の世界の指標』と定めてはいるものの予想だにしない困惑をも引き起こす元凶である彼女に対し、『此方の考えが及ばないのは当然』と割り切った彼の脳裏に、ふと変わった疑問が(よぎ)る。


 こうして微笑みながら穏やかな色を見せる彼女。


 そして、戦場で冷徹な言葉を向ける彼女。


 どちらが本当のラフィーアなのだろうと思ったグランは、しかし竜の里での経験からどちらも彼女なのだと考え至った事でその間抜けな(よぎ)りを掃いて捨てる。


 竜の里でグランと縁の深い“姫”の内の1体。


 嫉妬に狂い“霊廟の主”もかくやという獰猛さを見せたのも、グランが外竜の討伐で負った傷を舐めてくれたのも同じ“姫”であったように、ラフィーアもまた幾つもの顔を持っているのだろう。


「――――“姫”が不思議なのは、里も人間の世界も同じか」


 手に取った1品目を飲み込んだグランがそんな呟きを静かに零すと、彼の視界の端に映る緑色の瞳が自分を見据えているのに気が付く。


「…………竜士様。……こちらは確認になりますが――」


 その(しせん)に気が付いたグランがその持ち(ラフィーア)を正面に捉えると、彼女はそんな前置きを言葉とし――。


「……その左腕、治る見込みはあるのですよね?」


 声音こそ鈴のように穏やかだが、その奥に揺るぎない確信を潜ませた問いを投げ掛けた。





“風盾”に関する小話。

物理学が発展した後年になると、効果を及ぼせるエネルギー総量の解析が進んだ事で概念魔術として確定される。


追記;

お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2020/08/01 Ver1.0:実装

2020/09/10 後書きに小話を追加

2020/09/18 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2021/03/25 Ver1.1:プロット確認・調整のついでに行った誤字脱字及び調整を反映



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