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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
砂地を駆ける為に     (承)
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01-10 地上の戦場

01-10 地上の戦場

Ver1.3




 エクスリックス王国が潜砂艦の戦力化によるファルストリア連邦深部への直接攻撃によって戦争の終結を目論んでいるのに対し、連邦はジャルダイム大陸を東から西へと順当に進出する事による確実な勢力拡大の方針を明確にしていた。


 その動きを象徴するのがザックバール砂漠の北端に全容を現しつつある港湾要塞、ノースポイントである。


 これはファルストリアがザックバール派遣軍の前線基地を壊滅させ、同地の過半を勢力圏に収めると同時に建造が始められたジャルダイム史上最大規模の軍事施設であった。


 その建設地はエクスリックスの北を守る竜騎隊の翼が届かぬ場所が選ばれており、ザックバールを往来する人間が皆無である事はファルストリアの行動を妨害する者が居ない事を示し、その過酷な環境は連邦の動きを監視しようとする王国軍にも大きな負担を強いていた。


 勿論、その砂塵と高温はファルストリア側にも降り掛かっていたのだが、連邦はその工業力に支えられた莫大な物資によって劣悪な環境を捻じ伏せており、昨今に置いてはその拠点機能を稼働させつつあった。


 対するエクスリックス側は竜騎が届かぬ事で絶対的な火力・突破力不足に陥っており、平地に置ける火力で圧倒するファルストリア側が王国北部を攻略する為の足掛かりを築いているのをただ見ている事しか出来なかった。


 そう――“正面から”は。






 ザックバール砂漠の北――ノースポイントよりも更に東に位置する砂上。


 空の中にあるような風もなく、地表にあってはただ熱のみが滞留するザックバールの環境は西と東の違いがあっても変わる事はなく、照らす太陽はこの地に足を踏み入れた者達を等しく炙っていた


「――プロブ大佐は策士だな」


 そんな代わり映えのしない風景の中、エクスリックス王国軍が初めて足を踏み入れた領域で洩れ出た青年の呟きが徹甲弾と曳光弾の雨によってかき消される。


 砲火に晒されている事からも判る通り、機竜の首に跨る緑髪の青年――グラン・サウスココルが居るのは戦場であり、今までの布鎧とは明確に異なる金属鎧の重さに辟易しながらも、彼はこの場に至った状況の再確認を続ける。


 『射程で劣る機竜を用いて、視界と射角の通る砂上に在る戦車を排除しろ』


 その命令は『遮蔽物のない場所で隠れん坊を行い、勝利せよ』と言っているに等しい無謀なものであったが、この厄介事を押し付けられたザックバール派遣軍にはそれを実現する為の妙案があった。




 そもそもザックバール派遣軍が達成するべき目的は『フライア級の数が揃う前の時間を得る事』であり、それを真面に達成しようとするのであれば何れかの時に『防衛戦』を行わなければならない事が問題となっていた。


 であれば――『防衛戦』を発生させずに『時間を得る』事が出来ればザックバール派遣軍は当面の目的を達成できる。


 言葉にするのは簡単だが、実現は不可能に思える方針。


 しかし、その答えは王国側の明確な脅威となりつつあるファルストリア連邦の一大拠点――ノースポイントにあった。


 ソレは力押しとも言える補給線によって砂漠の端を侵食しながら拡大を続ける不合理な港湾要塞であったが、その根幹をなす物資の供給路は無防備に等しい状態のまま運用されていた。


 その在り様は小規模な部隊にすら制圧されかねない程に脆弱なものであったが、合理主義を尊ぶファルストリアがそんな状態を放置しているのには勿論理由があった。


 それはこのザックバールの環境にあり、既に稼働を始めているノースポイントの広大な警戒範囲の外側を回り込み、その後背を突く事が実現不可能な絵空事と断じたファルストリアは基地機能の拡充と周囲警戒に注力し、西に引き籠るエクスリックスの動きを阻害する事に力を注いでいた。


 そんな彼等の判断は正しく、従来のエクスリックス軍では砂上を大きく迂回してから襲撃を成し、帰還を果たす事は不可能であったが――今のザックバール派遣軍にはソレを成せる潜砂艦(しゅだん)があった。


 『出来ない事を求められたのであれば、“出来ない事”をしなくて済む状況にすればいい』


 プロブ大佐の策は竜に近い発想で考えるグランでは思いもつかなかった妙策であり、華々しさを求める方針が強い貴族なら見向きもしないであろうそれは、現実に即した有効な策だった。


 しかし――。


『駄目だ、接近する前に撃たれる……!』

『一時後退指示を――! ……っ、退がります!』


 グラン乗機と示し合わせて突撃していた部下(しんぺい)達の機竜――グランという余分な重りの代わりにリュウダン砲を背負った標準仕様――のソレ等は、攻撃目標周辺から殺到する迎撃火線に恐れをなしてその射程外へと退避していく。


「――――」


 中距離以内において有効なその火力(リュウダン)に『晒された事』もあるグランとしては、味方となれば心強いモノになると期待していたものの――照準の甘いソレを使い熟すには彼等の練度は足りなかったらしい。


 そうして視界の端に映る2体の灰色が指揮官(グラン)の許しもなく退いていくのを横目に捉えた彼は、その目元を鋭くしながらもこの戦場の確認を続ける。


 工業国であるファルストリアと言えども戦車の数には限りがあり、彼等の本土とノースポイントとの間を休みなく走り回っている補給部隊を襲撃するのであれば機竜だけでも成功の可能性があるとされた。


 加えてザックバール派遣軍の当面の目的はノースポイントの完成を遅らせる事にあり、たとえ輸送部隊を取り逃がしても後方が安全でないと知らしめる事でその長大な補給路に護衛を付けさせ、莫大な消耗を強いるという成果を得られる“失敗の無い”作戦であった。


 勿論、潜砂艦の存在が露見する事を少しでも遅らせるのであれば襲撃対象を殲滅できる事に越した事はなく、グランも部隊を分ける事で包囲殲滅を狙っていたのだが――。


「――――遠いな」


 急加減速を繰り返す乗機に揺さぶられるグランが遠くに視線を向ければ長大な荷台を幾つも引いた大型の牽引車両とその護衛である対空戦車2両が見て取れ、その僅か2両から放たれているとは思えぬ弾幕が彼等に降り掛かっていた。


 それがこの戦場の経緯と戦況であり、グランの預かるフライア艦載竜機隊の第1小隊を構築する3体の機竜と1人の魔導騎士(かれ)は今、ザックバール派遣軍が狙う目標との交戦を続けていた。


 グラン等の襲撃に対抗しているファルストリア側の対空戦車の総数は4両だが、2両は車列の反対側を警戒している事から実質的な戦力差は3対2。


 加えて敵方の戦力である対空戦車は滞空する竜に抗ずる為に運用される車両であり、用途外の運用方で使われている兵器を相手にしているというにグラン達は完全に抑え込まれていた。


『……駄目ですね。……こちらに火線が集中する前に下がります』

「――機竜は1発だけなら戦車のシュホウにも耐えられると聞いた気がするが、君もあの新兵達も、なぜ火力に劣るアレを相手に突入を切り上げるのだ?」


 そうしてグランがこの戦場の経緯を確認し終えたのと同じくして、急加減速と乱数軌道を繰り返しつつも後ろ飛びを加える事で退避へと指針を変えた自分の乗機に対し、彼は何処かで聞き齧った理論を確認する。


『……竜士様の認識は、少し間違っていますね。……その戦訓を正確に述べると『搭乗者が生きていられる』です』


 その問いに応える拡声器からの声は少々不機嫌なように聞き取れ、彼女――今は乗機(きりゅう)の中に居るグランの副官、ラフィーア・フィルトメル少尉は後退を継続しながら言葉を続ける。


『……確かに、対空戦車(いまのあいて)の25mmなら竜士様の仰る事もやれなくはありませんが……機体が動かなくなってしまえば未帰還確実となりますし――』


 同時に、説明を続けながらも車列から距離を取っていた乗機は唐突に足運びを変え、敵集団と対面状態だった機首を横に向ける事で並走状態とし――。


『……あの程度の練度で、それができるとは思えません』


 走りながら右手を車列に指向したグランの乗機はこの距離では届くだけで精一杯の魔石砲を発砲し、放たれた魔石が非装甲部(じゃくてん)に入り込む事を願いながら逃げる牽引車に追い縋る。


「――地上は厳しいな」


 学んでいた知識に多くの楽観が含まれていた事、そしてラフィーアが厳しい言葉を向けている部下達に視線を飛ばしたグランはその実情を静かに呟く。


 先程仕掛けた突撃は敵に考える隙を与えない事によって反撃を阻害し、同時に殺到する事で計算上の被弾率を減じ、同時に1体でも機竜の間合いに到達してしまえば勝利の天秤を自分達へと大きく傾かせる定石であった。


 しかし、その結果は燦々なもので、たとえ最も有効な最善手であってもそれが実際に動かせる手段とはならない事をグランは身を以て学ぶ事となった。


『……機竜に乗れているだけ恵まれていますよ? ……歩兵や魔導騎士の方々は、生身で砲兵を守らなければならないのですから』


 それはグランが指揮官となるのに必要な経験であり、続けられるラフィーアの言葉は竜騎士(とくべつ)であったグランが今も尚『特別』な場所に居る事を改めて示していた。


「――そうだな」


 ファルストリアが用いる凶悪な火力を受けても生き残れる機竜を足に使い、人が持てる最大の守りである竜血石まで所持しているグランの防御力は竜騎士のそれと大差なく、確かにこれだけの力を持ちながら不足と言うなら戦人を名乗る事自体を辞めた方がいいだろう。


「――先回りしている第2小隊が敵の進路上に出るまで、あとどの位だ?」

『…………およそ400』


 そうして手持ちの戦力を再確認したグランは次の方針を組み始め、彼の問い掛けに『何か』を確認したような間を置いたラフィーアは随分と細かな数字で応える。


「――」


 その『何か』が気になったグランであったが先ずは得られた時間に集中し、事前情報と照らし合わせれば車列からの急報を聞き付けたであろう『偵察機』なるものがここに着くのは、別働隊が到着するよりも後になるだろうと当たりを付ける。


「――――」


 奇襲というモノは敵を集めない事、敵に知られない事が肝要と言われており――部下達が突撃を中止したように、離脱出来ない状況になる事が一番不味い。


 そして、近づかなければ出番のないグランに代わって牽制を続けているラフィーアは車列から付かず離れずの位置取りと被弾を許さぬ回避行動を続けており、あと6分強の時間を無傷で凌ぐのは容易いだろう。


「もう一度突撃を仕掛け、成否を問わず別働隊が牽引車の動きを止めたら撤退。――で、どうだ?」

『……妥当な所ですが、このまま遠方から牽制を続ける手もありますよ?』


 しかし、グランは黙考の末に攻勢を提示し、その蛮勇に対して拡声器からは試すような問いが返ってくる。


「別働隊が動き易いようにしたい。――後方から回り込むようにして、連中の注意を引いてくれ」


 2人が軍属にある以上、命令に疑問を呈したラフィーアの行動はグランにその気があれば厳罰に処す事もできる対応であったが、ラフィーアを『人間の世界の指標』と認識しているグランは彼女の問い掛けに出来うる限りの言葉で応える。


『……了解です。…………今後、同じような件で私が抗名したら、叱責してくださいね』


 それはどちらが上官なのか判ったものではないやり取りであったが、グランの対応はラフィーアを満足させるものだったらしく、指示を受けた彼女は機竜を軽やかに操り全速へと至る為の助走を開始する。


『……右腕で指示、左回しで回してから突撃指示を』

「――判った」


 その加速に置いていかれそうになる自分の身体を前へと押込んだグランの耳にラフィーアの言葉が届き、反動に耐える彼は既に力を張っている四肢を強引に動かす事でその内容を果たし、振り上げて宙に円を描くように回した右腕を目標へと振り下ろす。


 それを客観的に見れば、『先行した当機を囮とし、別方向から突入せよ』となるのだが――。


『……あまり期待は出来ませんが』

「――厳しいな、君は」


 恐慌状態に陥り、怯んでいる新兵の不甲斐なさを隠しもしないラフィーアの言葉を責めるように、25mmと言うらしい弾丸の擦過音がグラン達に追い縋ってくる。


 それらの過半が空を切るのは突撃を続ける乗機が突進力に緩急と方向転換を混ぜる事で敵射線との接触を最小限に留めているからであり、その回避行動を乗り越えた砲弾も竜血石の障壁に弱められた後に“干渉”と“構造強化”の“刻印”が重ね掛けされたグランの金属鎧を叩く事で力尽きる。


「――――」


 その砲火に晒されているグランは、“身体強化”を十全に扱えない魔導騎士であれば簡単に振り落とされるであろう強烈な加減速に辟易しながらも、グゥエルナーと共に在った頃には感じる事のなかった反動に『竜は様々な魔術を使ってくれていたのだな』と思う。


「――?」


 そんな戦場にあっては不釣り合いな思い出がグランの脳裏をよぎった瞬間、それよりも更に場違いな気付きが彼の脳裏に走る。


 否、戦場という極限状態であるが故に冴えわたっているからなのだろうか――グランの思考に混じった疑問は、大きな結果を求めてその答えに手を伸ばす。


「――――竜は、技術として魔術を使わない……なら――っ」


 その疑問が言葉となった時、グランの胸に竜血石の障壁を抜けた幾つもの弾頭が届き、機体を叩く快音と金属鎧越しの重い衝撃が“身体強化”を成している彼の身体に響く。


「――――」


 それは戦場にそぐわない思考をしたグランを咎めるような痛みであったが、しかし、その衝撃によって彼の気付きは言葉に至る。


『……少々、当たりましたが――大丈夫ですか?』

「――ラフィーア、魔術に守りの力……そう、何か飛び道具を弾くような術は無いのか?」

『…………昔、“矢避け”と呼ばれる術がありましたが……25mmは元より、歩兵の銃弾(7.62)も防げない代物ですよ?』


 攻撃を受けたであろう協力者(グラン)の身を案じた言葉を無碍にされたラフィーアは、言葉を尖らせながらも知識の端にある骨董品の名を彼に提示する。


 その言葉には戦闘という極限状態の最中に言う質問ではないという微かな非難と、そんな便利な術があればエクスリックスは竜騎を使っていない、といったていの感情も加えられていたが――。


「それは人の魔力で成したからだろう?」

『……っ』


 グランが気付いたその理論に、聡明な女魔術師は機竜の拡声器越しにも判る程に息を呑む。


 技術としての魔術を知らぬ竜が生み出した竜血石は魔力を通す事で障壁を発し、その不可視の力場は銃弾を容易く弾き、砲弾の威力すら軽減する。


 だが、それは『どうやって』飛来する物体を弾いているのか。


『……竜士様の竜剣に“矢避け”の魔術を印し、竜晶の魔力を通してみます』

「この距離なら直撃でも何とかなったんだ。――真正面で試すぞ」


 ラフィーアの言葉に確かな手応えを感じたグランは方針を伝えながら機竜の右足に括り付けた竜剣を引き上げ、刃渡り3mにもなる巨大剣を“身体強化”と“干渉”の魔術で扱い、その切っ先を対空戦車に向ける。


 仮説や新説は実証をもって確かな現実とするのが世の理であり、経験と学識という異なる観点からその真理を掴んでいた2人は革新的に思えたソレを速やかに試してしまう。


 その蛮勇にも等しい挑戦の足掛かりとして突撃の足を緩めた機竜とその首に跨るグランに、彼等を守る障壁を抜かんとする対空戦車の砲火が殺到する。


 若さゆえの無謀、戦場にあって我が身を軽視した者の末路は悲惨なモノとなるのが世の常であるが――。


『…………どうでしたか?』

「――成功だ」


 弱き人間が研鑽の末に編み出した手法を、全てを有する竜の力で成した“魔術”はそんな理を覆し、障壁を突破せんと殺到した無数の砲弾がグランの突き出した竜剣の“矢避け”によって逸らされる。


「このまま突っ込め」

『……了解です』


 そうして新たな術を得た機竜は、再び加速する。


 歩ように踏み出した1歩目は2歩目で速足へと転じ、3歩目が次に至る助走となる事で4歩目からは首元に跨るグランを置き去りにするかのような突撃が再開される。


 その回避を考えていない加速を前に、それしか成せぬ対空戦車はただ正確に25mmキジュウを撃ち続け、この戦乱の中で少なくない数の機竜を鉄屑へと変えていた弾丸の雨がグランと機竜(ラフィーア)に殺到する。


『……っ!』


 だが、彼等は止まらない。


 寧ろキジュウが足止めにもならぬ事を知ったその加速は速度を増すばかりであり、待ち構える対空戦車は迫り来る彼等の守りを越えるべく砲弾を撃ち続けるが、それに迫る灰色は怯みもしない。


「――どうする?」


 しかし、“この新しい守り”にも問題はある。


 敵の方向に切っ先を向けていなければ効力を発揮しない事から“矢避け”の発動中は竜剣を振るえず、ましてや刺突だけで戦車の類を無力化する事は難しい。


『……飛びますよ』


 その問題に対し、ラフィーアは機竜が戦車に勝る優位性によって解決を図る。


 グラン等の眼前に迫っている敵は対空戦車と称されている兵器であるがその火砲は機械の補助を得た人の手で対象を追尾する人間の技であり、至近距離で跳躍した機竜の機動を追える俊敏さを持っていない。


 そんな対空戦車の機能的な欠点を突いたラフィーアの判断により飛び上がった灰色の影に追い縋ろうとした鉛弾の雨は何もない青空を撃ち抜き、程無くして銃座はグラン達を見失う。


 対するグラン達は対空戦車の背後に降り立つが――。


「――旋回」


 その距離は砲塔に切っ先も届かぬ程に遠く、グランは腕を伸ばす事でその間合いを強引に広げ、旋回の流れに乗るように振り回された竜剣によって対空戦車の後方を切り飛ばす。


「もう一度」


 その一撃により戦車の足である履帯と転輪の幾つかを切り裂いたグランは同じ事の繰り返しを命じ、旋回の足運びによって距離を詰めたベネイアは動けなくなった対空戦車の中心へとグランの刃を届ける。


「1つ。――次だ」

『……了解。……次は上手くやります』


 そうして機竜隊として初めての撃墜数を数えたグランは速やかな転進を命じ、それに応えたラフィーアは機体の旋回力を初速へと転ずる事で残りの1両に向かって突撃を再開する。


 その加速に引っ張られながらもグランは竜剣を乗機の機首より前へと突き出し、“矢除け”を発動させてから暫くすると漸く敵方からの迎撃が再開されるが、“魔術”を巡らせた後となっては何もかもが遅すぎる。


 迫り来る曳光弾諸共、殺到する砲弾を弾き散らしながら距離を詰めた乗機は先と同じように跳躍し、最後の火線から逃れた機竜は自分を見失った獲物へと急襲する。


「――2つ」


 今度の落下軌道はグランが竜剣を振るうには近すぎる間合いだったが、腕を引いて柄を引き寄せた彼は竜剣に魔力を上乗せし、技量で『切る』のではなく刃を軌道に『乗せる』事で対空戦車の砲塔と車体を縦に割り裂く。


「――後ろの2人には荷台と随伴歩兵をヤらせる。俺達はこのまま反対側の対空戦車を切りに行くぞ」

『……了解。……最短路をとりますね』


 砂地深くにまでめり込んだ竜剣を引き上げたグランは次の指示を発し、それを受け取ったラフィーアは返答と共に『障害排除。蹂躙戦に移行せよ』の信号弾(あおいろ)を打ち上げる。


「なに――」


 しかし、命令の半分を果たした後に続いたラフィーアの言葉と挙動に不穏なものを感じ取ったグランが疑問を呈した時――彼等は既に空の只中にあった。


「お……っ!?」


 それが車列形成する荷台の上を飛び越えている最中なのだとグランが認識した時、彼を乗せた機竜は反対側に布陣する対空戦車の間へと着地する。


「――っ! 左のに走れ!」


 そのあまりにも豪胆なラフィーアの判断にグランをしても一瞬戸惑いを浮かべてしまったが、僅かながらでも『慣れ』のあった彼は同じように呆けていた対空戦車の車長達よりも早く決断を下す。


 それに対し、車列の前と後ろを警戒していた対空戦車の砲身はあらぬ方向を向いており、その間に降り立った乗機を撃つ為には銃座を動かす為の時間が必要となり――この至近距離にあってはその隙はあまりにも致命的だ。


「――3つ。次だ」


 最初の目標とした対空戦車の脇を走り抜けるように切り抜け、その車体を両断したグランは言葉と共に反動に備える。


「む――?」


 しかし、ラフィーアの事だから反転して一気に決めてしまうのだろうと考えたグランの予想に反し、乗機はその速度を維持したまま円弧を描くような大きな旋回軌道を取る。


 その予想に反した動きに戸惑ったグランであったが、乗機と接しっている自らの下肢から響く衝撃にハッと我に返り 竜剣を残る対空戦車に向ける事で“矢除け”を発動させる。


『……少し、強引に過ぎました』

「いや、謝るのは此方の方だ。――俺がもっと早くに構えていれば、当たる事もなかった」


 状況を把握したグランが乗機を見渡せば非装甲部位を穿たれた機竜の尾の大半が千切れ飛んでおり、その損傷は竜血石の障壁を容易く抜かれる近距離での危険性を雄弁に物語っていた。


「――――まだ、やれるな?」

『……勿論です』


 しかし、手痛い反撃を受けたものの態勢さえ整えてしまえば優位は乗機にあり、竜剣の切っ先を向け“矢避け”を発動出来た時点でグラン達に負けはない。


「位置取りは任せるぞ」


 対空戦車から“矢避け”に殺到する25mmや右の視界を埋める荷台の列から顔を出し始めた随伴歩兵が撃ち据えるショウジュウを機竜が弾き散らす中、グランは優秀な乗機に仕上げを命じる。


 最後の目標は荷台と並走している為に取り付ける面が大きく減ってしまっているが、ラフィーアの技量であれば荷台を蹴ってでも切れる場所に降りてくれる。


 そんな確信の下、グランは何を仕出かすか予想の付かないラフィーアの動きに応えられるよう意識を引き絞るものの――。


「――――?」


 その研ぎ澄まされた“(かんかく)”はグランの思惑とは裏腹に“見知った色”が頭上に集まりつつある事を伝えてくる。


「――っ、離れろ!」

『……?』


 その事実を前にしたグランは、まさかという疑念よりも自分を生かし続けた“目”を信じ、意外過ぎる命令を受けたラフィーアも協力者である彼の言葉によく反応し、思考が困惑に染まる中でも機竜はつんのめるように急制動を掛け――。


 その眼前に、炎息(ブレス)の光が突き刺さる。


「――バールゴード、か」


 その光は対空戦車を上から撃ち抜いた魔術の光であり、グランが空を見上げれば敵の竜騎に備えている竜騎士の片割れの影があった。




お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2019/06/25 Ver1.0

2019/11/16 Ver1.2:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2020/09/18 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2020/11/06 Ver1.2:23話作成の合間に直したバージョンに更新。

2021/03/09 Ver1.3:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

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