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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第18話 神託が降りる場所

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(六)神託の運用と地下

◆ (十三)神託の運用


「神託は、どのように降りるのですか」


理人が尋ねると、エルネストは少し歩みを緩めた。


「祈祷による問いに、古い言葉で応じられます」

「古い言葉」

「今の民が日常で使う言葉とは異なります。神託原文を読むため、神官は古い言葉を学びます」


理人はノートを開いた。


祈祷による問い。

古い言葉による回答。


「声で聞こえるのですか」

「声として聞こえることがあります。石の上へ文字として現れることもあります」

「同じ問いなら、同じ方法で返る?」

「いいえ」


エルネストは首を横に振った。


「声だけの時もあります。文字だけの時もあります。お姿を伴って応じられることもあります」


リナが顔を上げる。


「女神さまが見えるの?」


エルネストは迷わず答えた。


「ええ」

「神官長も見たことがある?」

「お姿を拝したことはあります」


その声には迷いがなかった。

女神が現れることを、エルネストは疑っていない。


その姿を見た。

その言葉を聞いた。

だからこそ信じている。


理人はノートへ書いた。


女神の姿を伴う応答あり。

声、文字、姿。

応答形式に差異。


「姿が現れた時も、古い言葉で話すのですか」

「はい」

「立ち会った神官が、それを記録する」

「原文を残します」

「複数人で意味を確認する」

「はい」

「その後、現在の言葉へ直す」


エルネストは少し間を置いた。


「正確には、神託として公開できる形へ整えます」


理人の筆が止まった。


「原文を、そのまま出すわけではない」

「古い言葉のままでは、多くの者には理解できません」

「意味を補うことも?」


エルネストは、すぐには答えなかった。


「必要だと判断された場合には」


理人はノートへ書いた。


神託原文。

古語。

立会神官が記録。

複数人で解釈を照合。

現在語へ変換。

公開文として整理。


「神託も、運用されるんですね」


理人が言う。


「ええ」


エルネストは静かに答えた。


「神託が正しくても、それを扱うのは人間です」

「読み替える時に、意味が狭くなる」


エルネストは少し間を置いた。


「そして、長く運用されるものは歪みます」


その言葉は、神殿だけを責めたものには聞こえなかった。

神官長自身も、その運用の中にいる。


女神の姿を見た。

古い言葉を聞いた。

それを現在の言葉へ直した。

分院へ送った。

人々が理解できるように、意味をまとめた。


その積み重ねのどこかで、警告が予言へ変わった可能性を疑っている。


◆ (十四)降託の間へ


通路の突き当たりに、古い扉があった。

扉には女神の紋章が刻まれている。

だが、理人には紋章よりも、その周囲に走る細い線の方が気になった。


装飾ではない。

扉の縁を通り、壁へ伸びている。

線の太さが一定だ。

交差する場所には、小さな金属片が埋められている。

何かの接続線のように見える。


エルネストが鍵を取り出した。

石と金属を合わせたような鍵だった。

鍵穴へ差し込む。

回すというより、押し当てる。


扉の線が淡く光った。

リナが理人の袖をつかむ。


「今、光った」

「見えた」


若い神官が息を詰めていた。

中央神殿の者でも、ここから先へ入る機会は少ないらしい。


「ここから先は、中央神殿でも限られた者しか入りません」


エルネストが言った。


「入室記録を」


記録係の神官が紙を取り出した。


降託の間への入室記録。

神官長エルネスト・ワルト、立会い。

山科理人、入室。

リナ、同行。

目的、神託降下設備の確認。


記録係の筆が、そこで止まった。


「備考は」


エルネストが少し考える。


「外部者につき、記録扱い注意」


理人はその言葉を聞いた。


外部者。


今も、それは変わらない。

神官長に同行している。

中央神殿へ入るための旅装を着ている。

ここへ入る記録も作られた。


それでも、神殿の内側の者になったわけではない。

むしろ、外側だから呼ばれた。


記録係がリナを見る。


「リナ殿の所属は」


リナが困った顔をする。


「所属?」

「ギルド職員ではありませんね」

「違う」

「神殿でもない」

「違うよ」


理人が言った。


「照合協力者でお願いします」


記録係が理人を見る。

エルネストがうなずく。


「そのように」


リナ、照合協力。

それが記録された。


エルネストが扉を開ける。

冷たい空気が流れてきた。

地下へ続く階段がある。


地上の白い石ではない。

灰色の石。

ところどころに、細い金属の線が走っている。


灯りは少ない。

だが、完全な暗闇ではなかった。

壁の奥で、淡い光が脈を打つように揺れている。


リナが声を抑えた。


「ここ、神殿っぽくない」

「俺もそう思う」


理人は壁を見る。


魔法陣に似ている。

だが、魔物除け札の線とは違う。

祈りの模様には見えない。


何かを流すための経路。

一つの場所から別の場所へつなぐ線。

途中で分かれ、また合流している。


階段を下りるたび、礼拝堂の空気が遠ざかっていく。


祈りの場所から。

記録の場所へ。

さらに、その下にある場所へ。



※第18話「川沿いの村を数えよ」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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