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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第18話 神託が降りる場所

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(三)勇者のいない時代

◆ (六)書きながら聞く世界


「出発しましょう」


エルネストが言った。

理人とリナは馬車へ乗った。

車輪が動く。

門が遠ざかる。


理人は一度だけ振り返った。

朝の薄い霧の向こうに、カランタの屋根が並んでいる。


中央神殿へ。

神託が降りる場所へ。


馬車は南へ進んだ。

灰境地帯から離れるほど、道は広くなっていく。

荷車の数が増え、道沿いの祠も大きくなる。

村と村の間隔も短い。


理人は新しいノートを開いた。

最初のページに、日付を書く。


出発地。

カランタ。

目的地。

アルウェイン王国王都、中央神殿。


エルネストが向かいの席からそれを見た。


「本当に、まず書くのですね」

「忘れるので」

「多くの者は、旅の始めに祈ります」

「俺は、まだ祈り方を知りません」


エルネストは少しだけ笑った。


「では、書きながら聞いてください」


理人は筆を構えた。


「何をですか」

「あなたがこれから見るものを理解するために、最低限必要なことを」


エルネストは窓の外へ目を向けた。


「この世界を、私たちはアルトレイアと呼びます」


理人は書いた。


世界名。

アルトレイア。


「人間領の中心は、アルウェイン王国。王都は、その中心です」


人間領。

アルウェイン王国。

王都。


「北には北魔領があります。人間側はそう呼びますが、あちらにも暮らしがあります。ただ、人間領より魔力が濃く、魔物も多い」


北魔領。

魔力濃度、高。

魔物、多。


リナが尋ねる。


「魔王がいるところ?」

「ええ」

「魔王が魔物を作ってるの?」

「すべてではありません」


エルネストは答えた。


「魔物には、魔力の乱れから生じるものも多い。魔王は大きな脅威ですが、魔物そのものの原因とは限りません」


理人の筆が止まった。


「それは、神殿の公式な説明ですか」


エルネストはすぐには答えなかった。


「民へ告げる言葉は、もっと単純です」

「魔王が悪い、と」

「その方が、恐怖に名前を与えやすい」


理人はノートに書いた。


魔王。

脅威ではある。

魔物の単一原因ではない。

民向け説明は単純化。


◆ (七)勇者のいない時代


リナが理人の字を見る。


「また難しく書いてる」

「あとで見ても間違えないようにしてる」

「私は、魔王が全部作ってるわけじゃない、でいい?」

「今はそれでいい」


エルネストは理人のノートを見た。


「単純な説明を嫌いますか」

「必要な時もあります」


理人は答えた。


「でも、単純な説明だけを残すと、対策まで単純になります」


魔王を倒せば、すべての魔物が消える。

そう信じれば、魔力の乱れも、土地の変化も、記録の欠落も見なくなる。

原因を一つにまとめると、動きやすい。

間違っていた時には、別の原因が残る。


理人はその横へ線を引いた。

エルネストは何も言わなかった。

ただ、少しだけ目を伏せた。


「この世界には、勇者の伝承があります」


しばらくして、エルネストが言った。


「魔王を討ち、邪神を封じ、瘴気を払った者たちです」

「今は、勇者はいないんですか」

「少なくとも、中央神殿が認める勇者はいません」


リナが不安そうに尋ねる。


「魔王がいるのに?」


エルネストは窓の外を見た。


「それも、私が疑問に思っていることの一つです」


理人の筆が止まる。


「伝承どおりなら、魔王が現れれば勇者が必要になる」

「ええ」

「でも、勇者は現れていない」

「ええ」

「なら、今の魔王は勇者が必要な脅威ではないか、勇者が現れる条件が別にある」


エルネストは理人を見る。


「あなたは、すぐ条件に分けるのですね」

「分けないと確認できません」


理人は書いた。


勇者、現在なし。

魔王、存在。

勇者出現条件、不明。

魔王のみが条件ではない可能性。


まだ仮説だった。

線も薄く引く。


「中央神殿には、過去の勇者の名を刻んだ碑文があります」


エルネストが言った。


「あなたには、それも見てもらいます」

「神託が降りる場所の前に?」

「はい」

「なぜです」

「あなたなら、名前を見るかもしれないからです」


理人は意味を測りかねた。

名は読むものだ。

だが、エルネストは見ると言った。

その違いも、ノートの端に残した。



※第18話「川沿いの村を数えよ」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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