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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第17話 川沿いの村を数えよ

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(六)注意漏れ

◆ (十一)注意漏れ


理人は別の紙へ表題を書いた。

白倉村の注意漏れ確定記録。

セリアが横から見る。


「対象漏れ、ではないんですね」

「台帳にはあります。水祓い対象にも入っています」


理人は答えた。


「だから、対象漏れではありません」

「注意漏れ」

「はい」


理人は確認した内容を書いていく。

白倉村は現存し、名称も変更されていない。住民がおり、神殿台帳と水祓い対象の双方に含まれている。


一方で、近年の巡回、荷運び、祭礼参加、ギルド依頼に関する記録は薄い。村とカランタを結ぶ定期的な連絡手段も、荷運びの減少に伴って失われつつあった。

村の周囲には、雨期のみ流れる小水路が複数存在する。村では子川と呼ばれているが、神殿台帳とギルド記録のどちらにも記載されていない。一部の子川には詰まりも確認された。

白い石倉は川に近く、床も低い。水に弱い薬草と麦が低所に保管されていた。現地到着後には、上流側から届いたと考えられる濁りと水位上昇も確認した。

それらの異常は、理人たちが到着するまでカランタへ報告されていなかった。


結論。


白倉村は記録上の対象ではあるが、現在の注意対象としては後退していた。

台帳漏れではない。

注意漏れである。

雨期前の優先対応が必要。

リナが最後の部分を読む。


「あるのに、見てなかった」


理人はうなずいた。


「そういうことだ」


神殿だけの問題ではない。

ギルドも、荷運びも、町も、少しずつ白倉村を見なくなった。

村自身も、問題を町へ知らせる経路を失いかけていた。

誰か一人が切ったわけではない。


細い糸が一本ずつ切れた。

気づいた時には、名前だけが台帳に残っていた。

エルネストは、注意漏れという文字を長く見ていた。


◆ (十二)緊急対策記録


緊急対策の記録は、実施済みと継続確認に分けた。

実施済み。


白い石倉では、薬草包みを優先して低所の荷を高所へ移し、麦袋を床から浮かせた。

子川は、詰まった箇所の一部だけを開放し、開放後の流れを確認した。

川沿いの荷道は一時停止し、荷運びを丘側の迂回路へ変更した。川岸には水位確認杭と、濁りを確認するための白布を設置した。

白倉村からカランタへの連絡係を二名決め、ギルドでは荷移動と護衛の依頼を発行した。

神殿は水祓い巡回の順番を変更し、白倉村を優先対象とした。低地側の住民が避難する場所には、村中央の高台を指定した。


継続確認。

雨後の水位と濁り、子川の詰まり、石倉内の湿りを確認する。あわせて、荷役獣の反応、連絡係の往復可否、丘側迂回路の状態も記録する。


理人は、水位杭の印ごとに行動を決めた。

一つ目の印を越えた場合。

白布と子川を確認。


二つ目の印を越えた場合。

石倉の残りの荷を高所へ移す。

川沿いの家へ注意を伝える。


三つ目の印を越えた場合。

低地側の住民を高台へ移動。

川沿いへの立ち入りを止める。


村の年長者が青ざめた。


「そこまで水が来ますか」

「来ると決まったわけではありません」


理人は答えた。


「でも、来てから相談を始めると遅い」


エルネストが静かに尋ねる。


「それが、警告を受け取るということですか」


理人は少し考えた。


「たぶん」


神託文の写しを見る。


「起きることを当てるより、起きた時に何をするか決める方が役に立ちます」


若い神官が息を呑んだ。


「神託を予言より下に置くのですか」


理人は若い神官を見る。


「下には置いていません」

「では、今の言葉は」

「当たったと喜ぶだけの予言より、行動できる警告の方が、人を助けると言ったんです」


若い神官は反論できず、口を閉じた。

エルネストは少しだけ寂しそうに笑った。


「不遜ですね」

「自覚はあります」

「ですが、間違ってはいない」


エルネストはそう言った。


◆ (十三)数えられていないもの


対策が一段落した頃、空は暗くなり始めていた。

白倉村の川は、まだ氾濫していない。


だが、水は朝より濁っている。

水位杭の一つ目の印へ、水が近づいていた。

白い石倉の低い荷は、すでに移されている。

子川の一つは細く流れ始め、倉の前へ溜まりかけていた水は少し引いていた。


エルネストは川辺に立っていた。

理人も隣に立つ。

しばらく、二人とも川を見ていた。

先に口を開いたのはエルネストだった。


「あなたは、神託を当てたわけではありませんね」

「はい」


理人は即答した。


「未来は見えていません」

「では、何をしたのです」

「条件を分けました」

「条件」


理人は指を折った。


「遠い水」


一本目。


「白い倉」


二本目。


「数えられていない川の子」


三本目。


「後から届く濁り」


四本目。


「呼ばれていたのに、現在の注意から外れた村」


五本目。


「それぞれを、現地で確認できる項目に変えただけです」


エルネストは目を閉じた。


「神託を、祈りの文ではなく確認表にした」

「そう言われると、かなり失礼ですね」

「失礼です」


エルネストは言った。


「ですが、粗末にはしていない」


理人は黙った。


「神託を未来予言として待っていれば、私たちは水祓いの順番を少し変えただけで終わっていたでしょう」

「そうかもしれません」

「しかし、あなたは村を並べた」


エルネストは川を見る。


「道を見た。倉を見た。水路を数えた。報告が届いているかを確認した」


理人も濁った水へ目を向ける。


「神託に書いてあったからではありません」

「違うのですか」

「神託に書かれた条件と同じものが、ここにあったからです」

「同じでは?」

「神託の正解は、まだ分かりません」


理人は答えた。


「でも、危険は目の前にあります。なら、神託の正解を待つ必要はありません」


エルネストは長く息を吐いた。


「あなたは、数えられていないものを見つけた」


子川。

白い石倉。

届かなかった報告。

現在の注意から外れた村。


「やはり、神託は予言ではない」


エルネストの声は、とても小さかった。

理人は聞き返さなかった。

聞き返してはいけない言葉のように思えた。



※第17話「川沿いの村を数えよ」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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