タイトル未定2026/09/23 18:29
◆ (十三)神殿からの使い
その日の夕方、冒険者ギルドへ神殿からの使いが来た。
受付にいたセリアが文書を受け取る。
一度目を通し、理人を呼んだ。
理人は、リナとともに受付へ向かった。
「神殿からです」
セリアが紙を差し出す。
理人は黙って読み始めた。
川沿い村落の再照合。
白倉村を優先確認候補に含める。
雨期前巡察の日程を前倒しする。
必要な場合、山科理人の同席を妨げない。
確認結果を中央神殿へ再報告する。
理人は最後まで読み、最初へ戻った。
分院へ出した報告書が、中央まで届いた。
中央で読まれた。
そして、現地確認という形で戻ってきた。
リナが横から文面をのぞき込む。
「一緒に行けるってこと?」
「行けとは書いていない」
理人は答えた。
「でも、来るなとも書いていない」
セリアが言う。
「神殿の文書としては、かなり踏み込んでいます。正式な巡察へ外部の人を関わらせることは、普通ならありません」
「神託の読み方を認めたわけではないですよね」
「認めてはいません」
セリアは紙を指した。
「現地で確認しろと言っているだけです」
理人はうなずいた。
それでいい。
むしろ、その方がよかった。
正しいと認められるより、確認される方がいい。
白倉村に何もなければ、何もないと分かる。
異常があれば、その時に記録すればいい。
神託を解いたわけではない。
未来を当てたわけでもない。
ただ、確認すべき対象を示した。
それだけで、神殿が動いた。
「分院から、明日の朝に話を聞きたいそうです」
セリアが続けた。
「巡察の確認項目も決めることになります」
理人は文面をたたんだ。
「なら、表を持っていきます」
リナが聞く。
「前の確認表?」
「それと、空欄の紙も」
「どうして空欄?」
「現地で増えるからだ」
セリアが小さく笑った。
「最初から増える前提なんですね」
「今ある項目だけで足りるとは思えません」
理人は、窓の外を見た。
雨期前の空は、低く、重い。
まだ災いは起きていない。
少なくとも、カランタには届いていない。
白倉村で起きていないとも限らない。
起きているとも限らない。
だから、見に行く。
理人は紙を持ち直した。
「数えに行きましょう」
リナがうなずく。
セリアも、静かにうなずいた。
◆ (十四)まだ届いていない
その夜、中央神殿では、エルネストが最後の祈りを終えていた。
カランタでは、理人が確認表へ新しい項目を書き足していた。
川の水位。
濁り。
流れの速さ。
白い倉の位置。
荷の内容。
水に触れた跡。
村から町への連絡手段。
最後に町へ来た者。
最後に神殿が訪れた日。
同じ夜。
離れた場所で、二人は同じ紙の先を見ていた。
エルネストは、神託を予言として待つことをやめた。
理人は、神託を解いたと思うことを避けた。
二人が選んだのは、確認することだった。
神託は、予言ではない。
少なくとも、それだけではない。
まだ人間へ届いていないものを、見つけるための警告かもしれない。
ならば、警告を受け取った者がするべきことは、一つだった。
祈って待つだけではない。
届いていない場所へ行く。
見えていないものを見る。
数えられていないものを数える。
白倉村。
地図にはある。
台帳にもある。
だが、今の状態はまだ届いていない。
理人は確認表の最後へ書いた。
現地照合――未実施。
その横へ、もう一つ。
明朝、神殿分院。
雨はまだ降っていなかった。
◆ (十五)ログ
ログ
外部解析:記録
神託解釈:未確定
確認指示:発行
注記:
予言待機から対象照合へ遷移。
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