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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第15話 過去は心からの距離で測る

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(五)過去は心からの距離で測る

◆ (十三)神殿分院へ


セリアは三つの紙を順番に重ねた。

神託文中の未来・距離表現に関する仮対応表。

川沿い村落の交流・祈祷対象確認表。

川沿い村落の対象漏れに関する確認提案報告書。

紙の端をそろえる。


紐を通し、ほどけないように結ぶ。


「分院へ渡します」


理人はうなずいた。


「お願いします」

「ただし、すぐに動くとは限りません」

「分かっています」

「神殿は、神託の解釈へ外から口を出されることを嫌います」

「それも分かっています」

「魔物除け札の記録で、あなたの名前は分院にも残っています。完全に知らない相手として捨てられることはないと思いますが」


理人は、以前提出された暫定記録を思い出した。

魔物除け札の外形補正に関する暫定記録。

魔法を使えないよそ者が、札の線へ口を出した記録。

少なくとも、名前だけは残っている。

リナがセリアへ尋ねた。


「どうして、この紙は無視しにくいの?」


セリアは報告書を持ち上げた。


「神託が間違っているとは書いていないからです」

「それだけ?」

「現場の記録がついていることも大きいです。白倉村が危険だとも書いていない。ただ、最近の情報が薄いから確認してほしいと書いてある」


リナは少し考える。


「見に行って、何もなかったら?」

「何もなかったと分かる」


理人が答えた。

リナはうなずいた。


「それなら、記録が増えるね」

「そうだ」


異常がなくても、確認には意味がある。

問題があることを証明するためだけに見るのではない。

問題がないことを確認するためにも見る。

セリアは紙束を抱え、ギルドを出た。

向かう先は、カランタ神殿分院。


理人とリナは、その背中を入口から見送った。

報告書は軽い。

三枚の薄い紙だ。

だが、記録されたものは、誰かの手に渡った瞬間から、なかったことにはしにくくなる。

理人は木片へ、もう一度村の名を書いた。


白倉村。

まだ危険があると決まったわけではない。

神託の意味が分かったわけでもない。

ただ、見るべき場所が一つ、記録の上に現れた。


◆ (十四)過去は心からの距離で測る


その夜も、雨は降らなかった。

町の空気は湿り、遠くの森の上で低い雷が鳴っていた。

理人は倉庫の入口から空を見上げる。

未来を当てたわけではない。

神託を解いたわけでもない。


神の言葉の正しい意味を見つけたわけでもない。

ただ、言葉の中で遠くへ押しやられていたものを、記録の上へ戻した。

過去は、消えたものとは限らない。

過去は、昔にしか存在しないものとも限らない。

今もそこにある。


名前も残っている。

人も暮らしている。

それでも、現在の問題として扱われなくなったもの。

人の会話から外れたもの。

仕事の順番から後ろへ押されたもの。


祈りや確認が届かなくなったもの。

そういうものが、言葉の中で過去の側へ置かれることがある。

過去は、時間だけで測られるのではない。

心からの距離で測られることがある。

人が何を見ているか。


何を見なくなったか。

何を呼び、何を呼ばなくなったか。

そこまで含めて見なければ、現在に残っている過去を見落とす。

理人は仮対応表の最後へ、一行を書き足した。

過去表現――時間だけではなく、現在の注意対象からの距離を含む可能性。


まだ仮説だった。

だが、仮説は確認表になった。

確認表は報告書になった。

報告書は、神殿分院へ渡った。

理人は白倉村の名を見た。


半日ほどの道。

地図の上では、それほど遠くない。

だが、人の心と記録の運用からは、遠くなっているかもしれない。

外で、また低い雷が鳴った。

雨はまだ来ない。


だからこそ、来る前に見なければならないものがある。


◆ (十五)ログ


ログ


過去参照:再分類

対象範囲:拡張

到達記録:未照合


注記:

既存台帳と現行運用の差分を検出。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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