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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第15話 過去は心からの距離で測る

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(四)確認提案報告書

◆ (十)メモでは足りない


確認表を見終えたセリアは、しばらく黙っていた。

やがて、ゆっくり息を吐く。


「これは、ギルド内のメモでは済みませんね」


理人は顔を上げた。


「神殿へ渡しますか」

「少なくとも、分院には渡すべきです」

「神託解釈として出すのは危険では?」

「だから、神託解釈として出さなければいいんです」


セリアは確認表を指した。


「これは記録照合の結果です。台帳に載っている川沿いの村のうち、近年の接触が薄い場所を、雨期前に確認すべきだという提案にできます」


理人は紙を見た。

神託の意味を決める。

神殿の読み方を間違いだとする。

白倉村に危険があると断定する。

そこまで書けば、反発される。


そして、まだ証拠もない。

だが、記録が薄い場所を確認する。

雨期の前に、現在の状態を見に行く。

それなら、神託の正解を決めなくてもできる。


「報告書にします」


理人が答えると、リナが尋ねた。


「白倉村を見に行って、って書くの?」

「優先して確認する候補として書く」

「危ないかもしれないって?」

「危ないとはまだ分からない」

「でも、強く書かないと後回しにされない?」


理人は少し考えた。

リナの心配は正しい。

弱く書けば、読まれても動かないことがある。

だが、強く書きすぎれば、根拠のない断定として退けられる。


「確認が必要だという部分は強く書く」


理人は答えた。


「危険だという部分は書かない」


セリアが小さく笑った。


「ずいぶん実務的ですね」

「強く書く場所を間違えると、全部読まれなくなります」

「それも、元の世界で?」

「何度か失敗しました」


理人は新しい紙を手元へ寄せた。


◆ (十一)確認提案報告書


理人は表題を書いた。

川沿い村落の対象漏れに関する確認提案報告書。

書いてから、対象漏れという言葉の横に補足を加える。

記録上の漏れではなく、運用上の注意漏れ。

セリアがその一文を確認し、うなずいた。


「それなら、台帳の不備を責めているとは取られにくいです」


理人は本文を書き始めた。

水祓い神託において、未来の災いとして読まれている表現には、遠方、未到達情報、未確認対象を含む可能性がある。

また、神託文中の「呼ばれし村、呼ばれぬまま残る」という表現について、消失した村、旧名でのみ残る村、統合された村、写しの誤りを候補として記録照合を行った。

現時点で、神託との直接的な対応を示す廃村または改名村は確認できていない。

一方、川沿い村落の交流・祈祷対象確認表において、白倉村は神殿台帳および水祓い対象に含まれているものの、近年の巡回確認、荷運び、祭礼参加、ギルド依頼、川の異常報告に関する記録が薄い。


このため、白倉村は記録上の対象ではあるが、現在の注意対象としては後退している可能性がある。

神託文中の過去側表現は、消失または改名だけではなく、現在の交流、祈祷、巡回、報告から遠ざかった対象を示す可能性がある。

ただし、神託解釈としては未確定である。

雨期前に、白倉村を含む接触頻度の低い川沿い村落について、現在の状況を優先確認することを提案する。

本提案は、神託解釈の断定ではなく、記録照合に基づく現地確認の提案である。


理人は一度、筆を止めた。

断定していない。

神託を否定していない。

神殿の仕事を責めてもいない。

それでも、何を確認すべきかは書かれている。


理人は最後へ一文を書き加えた。

祈る前に、まず数えるべき対象がある。

書いてから、少し強すぎるかと思った。

セリアへ紙を向ける。


「消した方がいいですか」


セリアは最後の一文を読んだ。


「これだけ読むと、神殿に喧嘩を売っていますね」

「消します」

「待ってください」


セリアは報告書全体を読み返した。


「前の部分で、祈祷を否定していないことは分かります」

「では?」

「最後に置くなら、意味は通ります。祈る対象を確認しろという話ですから」


理人は筆を置いた。

リナはその一文を、ゆっくり読んでいる。


「数えるって、村を?」

「村だけじゃない」


理人は答えた。


「今も連絡があるか。誰かが見ているか。報告が届いているか。それを数える」

「呼ばれてるかを数えるんだ」


理人は、少しだけ考えてからうなずいた。


「そうかもしれない」


ただの違和感だったものが、表になった。

表が、確認提案になった。

意味が分からない言葉が、次に取る行動へ変わった。


◆ (十二)名前を残す


セリアは報告書を最初から読み直した。

記録の出所。

確認した範囲。

見られなかった記録。

まだ分からないこと。


断定していないこと。

一つずつ確認していく。


「神殿の正式な巡回記録は未確認、と明記します」

「お願いします」

「白倉村の危険を示す直接の報告も、現時点ではない」

「はい」

「荷運びの減少が、異常によるものか人口減少によるものかも不明」

「それも入れてください」


セリアは紙の余白へ書き足した。

理人は、自分に都合の悪い不明点ほど残す必要があると思っていた。

確認できなかった記録を、確認したことにしてはいけない。

異常の証拠がないなら、ないと書く。

白倉村が何の問題もない村である可能性も残す。


それでも、確認が必要だという判断は変わらない。

確認していないからだ。

セリアは最後の欄を指した。


「作成者の名前を入れます」

「俺の?」

「あなたの仮対応表と照合結果をもとに作った報告書です」

「セリアさんの名前も必要です」


理人が答えると、セリアは一瞬目を止めた。


「私は提出者として入ります」

「リナも観測と荷運び記録の照合をしています」


リナが顔を上げる。


「私も?」

「手伝っただろう」

「でも、私は読んだだけだよ」

「読んで、違いを見つけた」


セリアは少し笑った。


「では、照合協力として入れましょう」


報告書の末尾に名前が並ぶ。

作成者――山科理人。

提出者――セリア。

照合協力――リナ。

理人は、その三つを見た。


誰が書いたか。

誰が提出したか。

誰が記録を確認したか。

主語を落とさない。

後で紙だけが残っても、誰へ確認すればよいか分かるようにする。


それは、神託の大きな言葉よりも、ずっと小さな欄だった。

だが、理人には重要だった。



※第15話「過去は心からの距離で測る」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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