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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第15話 過去は心からの距離で測る

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(三)心からの距離

◆ (七)台帳と注意


理人は、白倉村の名が書かれた三つの記録を並べた。

神殿の写し。

ギルドの一覧。

荷運びの帳面。


「白倉村は、記録にはあります」

「ええ」

「でも、最近の状態を説明できる記録が少ない」


セリアは黙った。

理人は荷運びの帳面を指した。


「荷が減っています」


祭礼参加者の記録。


「町へ来る人も減っている」


水祓い巡回予定。


「対象には入っています。でも、順番は後ろです」


ギルドの依頼票。


「依頼が少ない。だから、冒険者や職員が村の話を聞く機会も少ない」


リナが白倉村の名を見つめる。


「村はあるのに、誰も今のことを知らない」

「そう見える」


理人は答えた。


「台帳にあることと、注意が届いていることは違います」


リナが小さく反応した。


「届いている」


昨日まで考えていた言葉だった。

未来ではなく、遠い。

遠いものとは、まだ届いていないもの。

白倉村は、カランタから川沿いに半日ほどだという。

何日もかかるほど遠くはない。


地図にもある。

台帳にもある。

名前を知っている者もいる。

だが、今の村の状態は届いていない。

村から町へ情報が届いていない。


町から村へ注意が届いていない。

記録の上にあることと、運用の中で見られていることは同じではない。

理人は木片へ書いた。

台帳掲載――あり。

現在把握――不明。


注意到達――低い可能性。

セリアは、その文字を長く見ていた。


◆ (八)心からの距離


理人は、神託文の最後の一節をもう一度見た。

呼ばれし村、呼ばれぬまま残る。

昨日は意味が分からなかった。

過去?

残存?


それだけだった。

だが、今なら少しだけ別の読み方が見える。

過去側の言葉は、消えたものだけに使われるとは限らない。

昔の名前だけを指すとも限らない。

今も存在している。


今も同じ名で呼ばれている。

それでも、現在の会話から外れていれば。

祈りの順番から後ろへ押されていれば。

荷運びが減り、祭礼にも来ず、町の者が最近の様子を知らなければ。

その村は、現在から遠くなる。


時間ではない。

道の長さでもない。

人の関心から。

町の仕事から。

祈りの順番から。


記録を使う者の意識から。

理人は紙の端へ書いた。

過去表現。

その横で手を止める。

少し迷い、続きを書いた。


心からの距離。

さらに、その下へ小さく足す。

社会的な距離。

リナが文字をのぞき込む。


「心から遠いってこと?」

「たぶん、そういうことだと思う」

「村は、半日で行けるんだよ」

「道の距離では遠くない」


理人は白倉村の記録を指した。


「でも、町がその村を今の問題として見ていない。最近どうなっているか、誰もすぐには答えられない。そういう遠さだ」


リナは少し考えた。


「忘れたわけじゃない。でも、思い出さない」


理人は顔を上げた。

その言い方は近かった。


「そうだ。名前は知っている。でも、今どうしているかは考えない」


セリアは何も言わなかった。

だが、目は白倉村の行から離れなかった。

過去は、時間だけで決まるものではない。

今もあるものが、人の心や社会の動きから遠ざかれば、言葉の中で過去の側へ置かれることがある。

理人には、そう読める可能性が見え始めていた。


ただし、まだ可能性でしかない。

だからこそ、見るべき場所が決まる。


◆ (九)村を並べる


理人は新しい紙を用意した。

セリアが何か言う前に、理人は先に口を開く。


「価値は出します」

「先に言えばいいというものではないですよ」


そう言いながらも、セリアは紙を渡した。

理人は上部へ題を書く。

川沿い村落の交流・祈祷対象確認表。

その下へ、確認する項目を並べた。


村名。神殿台帳への掲載。水祓い対象。直近の巡回。巡回の優先度。

荷運び記録。ギルド依頼。祭礼参加。川の異常報告。現在の注意対象。確認の必要性。


「台帳に載っているかだけでは足りないんですね」


セリアが言う。


「はい。今も対象として扱われているかを見ます」


リナが荷運びの帳面を開いた。


「私、荷車の方を読む」

「頼む」


セリアがギルド依頼を確認する。

理人が神殿の写しと照合する。

表は少しずつ埋まっていった。

東川村。


神殿台帳掲載、あり。水祓い対象、あり。直近巡回、近い。巡回優先度、通常。

荷運び、多い。ギルド依頼、多い。祭礼参加、あり。

川の異常報告、定期的にあり。現在の注意対象、高。確認、通常。


南瀬村。


台帳掲載、あり。水祓い対象、あり。直近巡回、近い。巡回優先度、通常。

荷運び、中。ギルド依頼、中。祭礼参加、あり。

現在の注意対象、中。確認、通常。


水原小村。


台帳掲載、あり。水祓い対象、あり。直近巡回、近い。

荷運び、少ない。ギルド依頼、少ない。祭礼参加、あり。

川の異常報告、少ないが届いている。現在の注意対象、中。確認、通常。


そして、白倉村。


台帳掲載、あり。水祓い対象、あり。直近巡回、実施確認できず。巡回優先度、後回し。

荷運び、減少。ギルド依頼、少ない。祭礼参加、減少。

川の異常報告、直近不明。現在の注意対象、低。確認、要確認。


理人は、四つの村を並べた表を見た。

白倉村だけが、存在しないわけではない。

対象から正式に外されてもいない。

だが、今の接触が薄い。

存在しているのに、現在の注意が届いていない。


神託の言葉が、少しだけ別の形を取った。

呼ばれし村。

呼ばれぬまま残る。

古くからある村にも祈りを忘れるな。

神殿の読み方も、間違いとは限らない。


だが、別の意味もあり得る。

かつて対象として呼ばれた村。

今も残っている。

しかし、今は実際の注意対象として呼ばれていない村。

理人は白倉村の確認欄へ、もう一度書いた。


要確認。



※第15話「過去は心からの距離で測る」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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