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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第14話 未来形ではなく、遠いということ

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(四)未来形ではなく

◆ (九)遠い感じ


リナは、神託文の一語を指した。


「この言葉、明日とか次の雨とか、そういう意味だけじゃないと思う」


理人は顔を上げる。


「未来だけではない?」

「うん。未来も入ると思う。でも、それだけじゃない」


リナは少し考えた。

言葉を探す時の顔だった。


「遠い、に近い気がする」

「場所が遠い?」


セリアが尋ねる。


「場所も。まだ来てないものも遠い。見えてないところも遠い。聞いてない話も遠い」

「聞いていない話?」

「誰かは知ってる。でも、こっちまで来てない。そういう時も、この感じに近い」


理人は、木片の「遠い?」の横に線を引いた。

まだ聞いていない話も遠い。

情報が届いていない。

確認する者の手が届いていない。

話している場所から見えない。


それは、時間の未来とも、空間の遠方ともつながっている。


「神殿では未来の言葉として使うことが多いんですか」


セリアは写しを見ながら答えた。


「少なくとも、この神託ではそう教わります」

「日常では?」


リナが答える。


「ずっと先の予定にも使う。でも、遠い村の話にも使うことがある。あと、まだ誰も見ていない場所とか」

「同じ言葉で?」

「まったく同じじゃないよ。後ろの言葉で少し変わる。でも、似てる」


理人は神殿側の「いずれ」へ印を重ねた。


「未来と訳すと、少し狭いのかもしれない」

「狭い?」

「未来と読めば、来るのを待つことになる」


理人は次に、木片の「遠い」を指した。


「遠いと読めば、場所を探すことになる」


さらに「未到達」を指す。


「まだ届いていないと読めば、情報を確認することになる」


リナがうなずいた。


「うん。その方が近い気がする」


セリアは難しい顔で紙を見た。


「同じ言葉でも、読み方によって行動が変わりますね」


理人はうなずいた。

そこが問題だった。


◆ (十)かもしれない


理人は、神殿側の訳に並ぶ言葉を見ていた。

いずれ。

後に。

来たる。

どれも未来に見える。


だが、未来だけとは限らない。

理人は、自分の言葉へ置き換えて考えた。

もしかしたら、明日、雨が降るかもしれない。

これは未来の話だ。

まだ起きていない。


だから確定していない。

もしかしたら、ここから見えない場所で、もう何かが起きているかもしれない。

これは未来の話ではない。

すでに起きている可能性がある。

ただ、ここからは見えていない。


だから確定していない。

もしかしたら、どこかからの知らせが、まだ町に届いていないだけかもしれない。

これも未来の話ではない。

知らせるべき何かは、すでに存在している可能性がある。

ただ、まだ届いていない。


だから確定していない。

時間は違う。

一つ目は未来。

二つ目は、今すでに起きているかもしれない遠方の出来事。

三つ目は、今すでに存在しているかもしれない情報の未到達。


だが、日本語ならすべて「かもしれない」で表せる。

話している本人から見れば、同じ位置にあるからだ。

まだ確定していない。

まだ手が届いていない。

まだ自分の中に入ってきていない。


理人は神託文の語をもう一度見た。

神殿は未来として訳している。

それは間違いではないのかもしれない。

未来は、話している者にまだ届いていない。

だが、その言葉が示すものは、未来そのものではなく、話者から見てまだ届いていない領域なのではないか。


時間的に遠い。

空間的に遠い。

確認から遠い。

情報の到達から遠い。

そのすべてが、似た言葉の中に押し込まれている。


理人は木片に書いた。

未来、ではなく。

遠い。

さらに、その横へ書き足す。

未到達。


セリアがそれを見て首を傾げる。


「未来ではなく、未到達?」

「そうかもしれません。未来だから届いていないこともある。場所が遠いから届いていないこともある。まだ誰も見ていないから届いていないこともある」


リナが神託文を見ながら言った。


「全部、まだ手の中にない、って感じかな」


理人はリナを見た。


「その言い方が近いと思う」


未来の出来事は、まだ手の中にない。

見えない場所の出来事も、まだ手の中にない。

今すでに存在している情報でさえ、届いていなければ手の中にはない。

神託が言っているのは、未来を待てということではないのかもしれない。

まだ届いていないものを探せ。


そういう警告である可能性もある。


◆ (十一)未来形ではなく


理人は、写しの横に三つの欄を作った。

神殿側の訳。

言葉から受ける感覚。

別の可能性。

最初の語。


神殿側の訳では、いずれ。

理人は、その横へ未来と書きかけた。

だが、手を止めた。

未来では、少し雑だ。

リナが言った遠いを書く。


その横へ、さらに小さく足す。

未確認。

未到達。

次の語。

後に。


理人はまた止まった。

後。

時間の後ろ。

だが、古い文の中では、その語は濁りにかかっている。

後なる濁り。


濁りが、後にある。

それは、未来に発生する濁りなのか。

遠い上流から遅れて届く濁りなのか。

雨の後に観測される濁りなのか。

すでに存在するが、今いる場所では確認されていない濁りなのか。


次の語。

来たり。

神殿側では、これから訪れるものとして訳されている。

だが、どこかからこちらへ到達するという意味なら、時間だけの話ではない。

水が流れて来る。


濁りが川を下って来る。

知らせが町へ来る。

人が村から来る。

来るという言葉には、移動と到達が含まれる。

理人は木片へ書いた。


未来形ではなく、遠いということ。

セリアが、その文字を声に出して読んだ。


「遠い、ですか」

「まだ仮説です。未来の話として読めるのは分かります。でも、未来だけとは限りません」

「遠い場所や、届いていない情報も含んでいるかもしれない」

「はい」


理人は神託の写しを指した。


「そう読めば、来るのを待つだけではなく、確認するという行動に変わります」


セリアは紙を見た。


「水祓いを否定する話ではないんですね」

「否定する理由はありません。祈祷にも、水路の確認にも意味があるかもしれない」

「ただ、待つだけでは足りないかもしれない」

「そうです」


神託が未来の水害を警告しているなら、備える。

遠い場所の異常を示しているなら、見に行く。

情報の未到達を示しているなら、記録を集める。

どれも水祓いをやめる理由にはならない。

むしろ、何を確認すべきかが増える。



※第14話「未来形ではなく、遠いということ」は全七回です。

続きます。



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