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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第14話 未来形ではなく、遠いということ

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(三)未来なのか

◆ (六)毎年のこと


神託の読み上げが終わると、人々は少しずつ散っていった。


「今年も水祓いか」

「川沿いは大変だな」

「雨が増える前に荷を動かすか」

「白い倉って、どこのことだ」

「毎年似たようなことを言ってるだろ」


誰も大きく騒がない。

恐れていないわけではない。

ただ、慣れている。

雨期の前に神殿が神託を読み、水祓いを行う。

川沿いの村へ神官が向かう。


荷運びは道を変える。

農家は水路を見る。

それは、町にとって季節の流れの一部だった。

神殿側も、ただ古い言葉を読み上げて終わるわけではない。

祈祷の準備をする。


村へ向かう者を決める。

水路の掃除を呼びかける。

川沿いの者へ注意を促す。

悪意があるわけではない。

神託を利用して人を怖がらせたいわけでもない。


毎年行ってきた務めを、今年も果たそうとしている。

だからこそ、読み方は固定されていた。

古くから未来の水害を警告する神託。

そう読まれてきた。

今年だけ別の意味を考える理由は、神殿側にはない。


セリアが理人の横へ来た。


「気になりますか」

「分かりません。ただ、いくつかの言葉が引っかかります」

「神託の言葉ですか」

「神殿の説明の方もです」


セリアは少し考えた。


「写しなら、分院からギルドにも来ます。荷運びや護衛依頼に関係する部分だけですが」

「見せてもらえますか」

「確認してみます」


理人はうなずいた。

聞いただけでは足りない。

似た言葉なのか。

同じ言葉なのか。

どこにかかっているのか。


文字で見なければ追えない。

理人は広場の端へ移動し、木片を取り出した。


◆ (七)未来なのか


理人は、聞き取れた言葉を木片へ書いた。

遠き水。

白き倉。

川の子ら。

数えられぬまま。


眠る。

後なる濁り。

雨とともに来たり。

呼ばれし村。

呼ばれぬまま残る。


そして、神殿の若い者が使った言葉。

いずれ。

後に。

来たる。

理人は、その三つへ線を引いた。


未来を示す言葉。

そう聞こえる。

いずれ災いが来る。

後に水が濁る。

来たる雨に備える。


それなら、神殿の説明は自然だった。

だが、本当に未来だけなのか。

理人は、言葉を覚え始めた頃のことを思い出した。

同じ過去でも、言い方が違った。

近い過去。


遠い過去。

自分が見た過去。

誰かから聞いた過去。

触れたくない過去。

時間だけではなく、話している者からの距離が混ざっていた。


なら、未来も同じではないのか。

近い未来。

遠い未来。

予定されている未来。

起こるか分からない未来。


自分から見えていないもの。

人がまだ確認していないもの。

情報が届いていない場所。

それらが、一つの「これから」にまとめられている可能性がある。

理人は、木片の端に書いた。


未来?

その横に、もう一つ書く。

遠い?

さらに、その横へ小さく足した。

未到達?


リナが横からのぞき込んだ。


「未到達って?」

「まだ届いていないこと」

「何が?」

「それを考えている」

「分かってないんだ」

「分かっていたら、疑問の印はつけない」


リナは納得したようにうなずいた。


「じゃあ、後で確認だね」

「そうだ」


理人は、木片に丸い印を置いた。


◆ (八)三つの文


夕方、セリアがギルドの奥から薄い紙を持ってきた。


「分院から届いた写しです。荷運びと護衛依頼に関係する部分だけですが」


理人は受け取った。

紙には、三つの文が並んでいる。

古い神託文。

神殿側の言い換え。

ギルドで使う実務上の注意。


古い神託文は、理人にはまだ難しい。

だが、神殿側の言い換えなら読める。

そこには、次のような意味が書かれていた。

後に水は濁る。

いずれ川沿いの村に災いが訪れる。


来たる雨に備え、白き倉を守れ。

呼ばれし村にも祈りを忘れるな。

さらに実務上の注意として、川沿いの道、荷物の防水、増水時の迂回について書かれている。

理人はしばらく黙って紙を見た。

原文。


神殿の解釈。

実務への置き換え。

伝わる間に、意味が少しずつ絞られている。


古い文の「遠き水」は、「いずれ来る水の災い」になった。

「後なる濁り」は、「後に水は濁る」になった。

「雨とともに来たり」は、「来たる雨に備えよ」になった。


分かりやすい。

だが、分かりやすくした分だけ、別の読み方が消えている。

理人は「後に」「いずれ」「来たる」へ印をつけた。

セリアが見て尋ねる。


「そこですか」

「はい。未来の警告として読めるのは分かります。でも、この三つが本当に同じ種類の未来なのか気になります」

「同じではない?」

「原文では、かかっているものが違います」


理人は順番に指した。

水。

濁り。

雨。

村。


「全部を未来の災いにまとめていいのか、まだ判断できません」


セリアは神託文を見た。


「古い神殿語の細かな違いは、私にも分かりません」

「リナはどう思う?」


理人が聞くと、リナは古い文をじっと見た。

読める部分を、口の中で小さく繰り返している。



※第14話「未来形ではなく、遠いということ」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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