↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第14話 未来形ではなく、遠いということ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/115

(二)水祓い神託

◆ (三)リナの普通の言葉


リナの話し方も、以前とは少し変わった。

いや、変わったように聞こえるだけかもしれない。

最初の頃、リナは理人に向かって、できるだけ短い言葉を選んでいた。

袋。

馬。


こっち。

違う。

たぶん。

後で見る。

理人が聞き取れるように、言葉を削ってくれていたのだ。


当時の理人は、それがリナの普段の話し方だと思っていた。

だが、荷役獣に話しかける時や、セリアに自分の観察を伝える時、リナはもっと長く、もっと細かく話していた。

どの荷役獣が。

いつから。

何を嫌がり。


どの方向を見て。

その前に何があったのか。

リナは、最初から細かな違いを言葉にできていた。

理人が、それを受け取れなかっただけだ。

この一か月で、理人は少しずつ長い文を追えるようになった。


リナも、それに合わせて普通の速さと表現で話すようになっている。

もちろん、神殿の古い言葉や、細かな祈りの言い回しになると、リナも首を傾げる。

それでも日常の会話なら、もう理人に合わせて言葉を削る必要はなかった。

理人は、そのことに少し遅れて気づいた。

リナの言葉が急に増えたのではない。


自分が、ようやくリナの普通の言葉に追いつき始めただけだった。


「理人、聞いてる?」


理人は顔を上げた。

リナが呆れた顔をしている。


「聞いてる」

「聞いてなかった顔だった」

「考えていた」

「前も、聞いてない時にそう言った」

「今回は本当に考えていた」


リナは疑わしそうな顔をした。

その日、カランタ神殿分院の鐘が鳴った。

いつもの時刻ではない。

長く、間を置いて三度。

リナが窓の外を見る。


「水祓いの神託だ」


雨期の始まりを前に、古い言葉が町へ告げられる日だった。


◆ (四)雨の前


雨の匂いが、町の石畳に残るようになっていた。

朝方は晴れている。

だが、昼を過ぎると雲が厚くなる。

夕方には、遠くの森の上で鈍い雷が鳴った。

まだ本格的な雨期ではない。


それでも、空も、川も、町の人々も、すでに雨を待つ形へ変わり始めていた。

倉庫では麻袋を高い棚へ移す。

厩舎では濡れた飼料を避ける場所を空ける。

屋根職人は、晴れているうちにと呼び止められる。

荷運びの男たちは、川沿いの道を使うか、遠回りして丘側へ回るかで言い合っていた。


「東の道は早い」

「雨が来たら車輪が埋まる」

「まだ降ってないだろ」

「降ってから変えたら遅いんだ」


その横で、ギルドには川沿いの護衛依頼が増えていた。

雨期の前に物を運びたい者が多い。

同時に、雨期の前だからこそ道の状態を気にする者も多い。

そんな日の昼前、神殿分院の鐘が鳴った。

町の広場に、神殿の者が立つ。


白い布を肩にかけた神官が、古い巻物を手にしていた。

その後ろには、若い神殿の者が数人いる。

町の者へ意味を伝える役目なのだろう。

セリアがギルドの入口から広場を見た。


「水祓いの神託ですね」


理人は聞き返す。


「毎年あるんですか」

「雨期の前には。川沿いの村へ祈祷に行く前に、町にも告げます」

「神託を、町全体に?」

「秘めるものではありません。水や雨に関わることですから、荷運びや農家にも知らせます」

「内容は毎年同じですか」

「古い神託は同じです。説明の仕方は、その年の神官によって少し変わりますけど」


リナが横から続ける。


「年寄りの人たちは、毎年聞きに行くよ。荷運びの人たちも一応聞く。川の話だから」

「リナは意味が分かる?」

「全部は分からない。古い言葉が多いから」


セリアも苦笑した。


「私も、写しを読んだだけでは困ることがあります。ギルドでは、荷運び向けの注意だけ別に書いています」


理人は広場の方を見た。

神託。

その言葉には、まだ慣れない。

だが、町の前で読み上げられ、道や荷運びの判断に使われるなら、それは情報でもある。

理人は、リナとともに広場へ向かった。


◆ (五)水祓い神託


神官は、集まった人々を見渡した。

巻物を開く。

周囲のざわめきが少しずつ小さくなった。

神官の声は低く、ゆっくりしている。

日常では使わない古い言い回しが混ざっていた。


理人は、すべてを追うことはできなかった。

だが、一か月前なら音として流れていた言葉の一部が、今は意味を持って耳に残る。

神官は読み上げた。


「遠き水、白き倉に触れ」


遠き水。

白き倉。


「川の子ら、数えられぬまま眠る」


川の子ら。

数えられぬまま。

眠る。


「後なる濁りは、雨とともに来たり」


後なる濁り。

雨とともに来たり。


「呼ばれし村、呼ばれぬまま残る」


呼ばれし村。

呼ばれぬまま残る。

理人は眉を寄せた。

神官の隣に立っていた若い者が、町人にも分かる言葉へ言い換える。


「いずれ川沿いに水の災いが訪れる。水祓いを怠らず、神の守りを求めよ」


町人たちは深くうなずいた。

何人かは胸の前で祈りの形に手を組む。

荷運びの男は、面倒そうに頭をかいた。


「結局、川沿いは気をつけろってことか」


隣の男が答える。


「雨の前は毎年そうだ」

「白い倉って何だ」

「知らん。昔の倉じゃないか」

「川の子って魚か?」

「村の子どもかもしれん」

「眠るって死ぬってことか?」

「縁起でもないこと言うな」


人々は意味を確かめ合う。

誰も、原文を完全に理解しているわけではない。

理人は隣にいるリナを見た。

リナも首を傾げていた。


「分からない?」

「全部は。遠い水は分かる。でも、何が遠いのかは分からない」

「後なる濁りは?」


リナは少し考えた。


「あと。向こう。まだ来てない。そういう感じ」


一つに決まらない。

理人は、もう一度神官の言葉を頭の中で並べ直した。

神殿側の説明は分かりやすい。

いずれ水害が来る。

だから、水祓いをする。


だが、原文にあった言葉は、本当にそれだけだっただろうか。



※第14話「未来形ではなく、遠いということ」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。