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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第2話 宇宙人と遭遇したと思え

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(二)見ていただけ

◆ (四)水と名前


少女は、荷車の横に吊ってあった水袋を取った。


男がすぐに止める。


「リナ」


その音だけは、理人の耳にも残った。


リナ。


少女の名前らしい。


リナは男を見る。


「少しだけ」


男は渋い顔をした。


それでも、水袋を奪い返しはしなかった。


リナは木の椀に水を注いだ。


直接こちらには渡さない。


数歩離れた場所に椀を置き、それから下がる。


賢い。


理人はそう思った。


距離を保っている。

こちらが飛びかかれば、男たちが止められる。

でも、水は飲める。


理人はゆっくり手を伸ばした。


槍の先が少し動く。


理人は止まる。


一拍置く。


それから、椀を取った。


水だった。


本当に水かどうかは分からない。

毒がある可能性も、ゼロではない。


だが、ここで疑って飲まない方が危険だ。


理人は少しだけ口に含んだ。


冷たかった。


喉が、それを水だと認識した瞬間、身体が勝手に続きを求めた。


だが、一気には飲まない。


ゆっくり飲む。


飲み終えると、理人は椀を地面に戻した。


そして、頭を下げた。


「ありがとう」


通じない。


それでも言った。


少女、リナは首を傾げた。


理人は自分を指した。


「リヒト」


もう一度。


「リヒト」


リナは少し考えた。


「リ……ト?」


「リヒト」


「リト」


理人は、訂正しようとしてやめた。


今はそれでいい。


リナは自分を指した。


「リナ」


理人はうなずいた。


「リナ」


初めて、一つだけ対応した。


自分の名前。

相手の名前。


会話とは呼べない。


だが、対応表の一行目としては十分だった。


◆ (五)捕縛ではなく、自由でもなく


男たちは話し合っていた。


理人には、何を言っているのか分からない。


ただ、視線の向きでだいたい分かる。


連れていくか。

置いていくか。

縛るか。

殺すか。


そこまで露骨ではないにしても、選択肢はそれに近い。


理人は黙っていた。


余計なことを言えば、状況が悪くなる。

言葉が通じないなら、沈黙も情報になる。


やがて、年長の男が理人を指した。


次に、荷車の後方を指す。


それから、自分の目を指し、理人を指す。


見張る。


たぶん、そういう意味だ。


理人はゆっくりうなずいた。


自分を指す。

荷車の後ろを指す。

歩くしぐさをする。


年長の男は、短く何かを言った。


許可か命令かは分からない。


どちらにせよ、拒否する理由はなかった。


理人は荷車の後方、少し離れた位置についた。


近すぎない。

遠すぎない。


逃げる気がないことを示すには、ちょうどいい距離。


リナが時々こちらを振り返った。


犬も振り返る。


犬は、まだ吠えない。


理人はその犬に向かって笑いかけそうになり、やめた。


笑顔が友好表現とは限らない。


歯を見せることが、威嚇になる文化や動物もいる。


「異世界、面倒だな」


小さく言う。


リナが振り返る。


理人はすぐに口を閉じた。


通じていない。

だが、声の調子は伝わるかもしれない。


リナは少しだけ首を傾げ、それから前を向いた。


◆(六)見ていただけ


道は思ったより悪かった。


木の根。

ぬかるみ。

小石。

轍。


荷車が揺れるたび、積み荷が少しずつずれる。


理人は、その揺れを見ていた。


左の荷車。

後ろから二段目。

麻袋が一つ、少し外側に寄っている。


一度目の揺れで、端が出た。

二度目で、紐が浮いた。

三度目で、袋の角が荷台の縁にかかった。


「まずい」


理人は思わず声を出した。


男が振り返る。


槍の穂先が動く。


理人は手を上げた。


違う。

敵意ではない。


理人は荷車を指した。

次に、揺れる麻袋を指した。


男は顔をしかめる。


理人は自分の腰のあたりで、紐を締めるしぐさをした。


伝わらない。


なら、実物だ。


理人は近づきかけて、すぐ止まった。


勝手に荷車へ近づくのは危険だ。


手を上げたまま、麻袋を指す。


「袋。落ちる。落ちる」


日本語だ。


通じない。


だが、リナが動いた。


彼女は理人の指の先を見た。

荷車を見る。

荷役獣の歩調を見る。

次の石を見る。


そして、声を上げた。


「止めて」


荷車が止まる。


男が荷台を見る。


麻袋は、あと少しで落ちるところだった。


男たちは理人を見た。


理人は何も言わなかった。


言えば、余計な意味が乗る。


ただ、手を上げたまま、少しだけ肩をすくめた。


リナが麻袋を押し戻す。


それから、理人を見た。


今のは何だろう。


そういう目だった。


理人は麻袋を指し、次に目を指した。


見た。


それだけを伝えたかった。


リナは完全には分かっていない。


だが、何かを見ていたことだけは分かったらしい。



※第2話「宇宙人と遭遇したと思え」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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