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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第11.5話 最後まで聞かないと条件が分からない

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(二)エルとエルカ

◆ (四)最後の一語


理人は、木片に短い文を書き分けた。

夕方。北の道。行く。

そこまでは同じ。

最後に、別の印をつける。

行く。行かない。行くなら戻る。行く前に見る。行ったら逃げる。


最後の一つで、意味が変わる。

リナはそれを見て、少し笑った。

当たり前だと言いたげだった。

理人も分かっている。

日本語だって、最後まで聞かなければ分からない文は多い。


だが、依頼票や撤退条件では、笑い事ではない。

途中まで聞いて分かった気になれば、死ぬ。


「最後まで聞かないと、条件が分からない」


理人は小さく言った。

リナは、言葉の意味までは分からなかったかもしれない。

だが、理人が大事なことを言っているのは分かったらしい。

彼女は、木片の最後の印を指した。

そこ。


そう言うように。

理人はうなずいた。

そうだ。

最後のそこだ。

否定。条件。命令。保留。後で確認。


どれも、文の後ろに来やすい。

そして、後ろに来るものほど、判断を変える。

理人は木片に、最後、と書く代わりに、終端を示す小さな線を引いた。

ここまで聞く。

ここまで読んでから判断する。


それは、思った以上に重要だった。


◆ (五)誰が見たか


もう一つ厄介なのは、誰が、だった。

ギルドでは、よく主語が落ちる。

見た。戻った。逃げた。怪我をした。倒した。

誰が見たのか。誰が戻ったのか。誰が逃げたのか。誰が怪我をしたのか。


話している者同士には分かる。

その場にいた者には分かる。

だが、後で紙だけを見る者には分からない。

理人は、依頼票の余白に小さな欄を足した。

見た人。報告した人。戻った人。


セリアがそれを見て、ため息をついた。


「また欄が増えました」


理人はうなずいた。


「増える」

「減らす気は?」


理人は少し考えた。


「あとで、減らす」


今は無理だ。

何を省いてよいか分からないうちは、省いてはいけない。

セリアは苦笑した。


「その言い方だけは、ずいぶん上手になりましたね」


理人は少しだけ困った顔をした。

褒められているのか、呆れられているのか。

どちらも、たぶん正しい。

リナが横から木片をのぞく。


「見た人、書くの大事」


理人はうなずいた。


「誰が見たか。後で、違う」

「うん。犬が吠えたのを見たのが私か、大人かで、言われ方が違う」


リナは、少しだけ真面目な顔で言った。

理人は手を止めた。

それは、リナの実感だった。

誰が見たかで、記録の扱いが変わる。

それが良いか悪いかではない。


現実に、変わる。

だから、書く必要がある。

主語は、ただの文法ではない。

記録の重さを決めるものでもあった。


◆ (六)エルとエルカ


その日の昼、若い冒険者が撤退条件の紙を見て首を傾げた。

理人にも、少し分かる。

紙にはこういう意味のことが書かれている。

小型魔物を二体以上見たら、荷車を守って戻る。

そこで出てくる音があった。


「エル」

見る。

それは、理人も覚えている。

だが、紙の中では、少し形が違っていた。

「エルカ」


見る、ではない。

見たら。見れば。条件になる。

小型魔物。二体。エルカ。荷車。守る。戻る。


単語を並べただけでは、順番が分からない。

小型魔物を見てから戻るのか。

戻る途中で小型魔物を見た場合なのか。

荷車を守るのが先なのか。

逃げるのが先なのか。


カイルが若い冒険者の頭を軽く叩いた。

たぶん、最後まで読め、という意味だ。

理人は、紙を見直した。

条件。行動。優先順位。

それを分けて書かなければならない。


理人は、撤退条件の紙を三つに分けた。

もし。その時。先にすること。

セリアが横から見て言った。


「子供向けみたいですね」


理人はうなずいた。


「子供向け、強い」


セリアは、少し考えてからうなずいた。

否定しなかった。


分かりやすい紙は、賢い人間のためだけにあるのではない。

疲れた人間。焦った人間。怖がっている人間。言葉に自信のない人間。

そういう人間が間違えないためにある。


理人は、自分のためにもその欄を分けた。

もし。その時。先にすること。

単純な三つの欄が、長い文章よりずっと強く見えた。



※第11.5話「最後まで聞かないと条件が分からない」は全五回です。

続きます。



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