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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第11話 新人死亡率という名の請求書

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(一)紙の山

◆ (一)何人、戻らない


新人が何人死んだのか。

山科理人の問いに、ギルドの空気が止まった。

大声ではなかった。

理人の現地語も、まだ滑らかではない。

それでも、意味は伝わった。


「新人。どの依頼。何人、戻らない」


リナが、足りないところを補う。


「新人が、どの依頼で戻らなかったか。理人は、それを知りたいんだと思う」


セリアはすぐには答えなかった。

答えたくなかったからではない。

答えられなかったからだ。


死亡報告はある。未帰還の記録もある。遺品回収の依頼もある。報酬未払いの帳簿もある。

だが、それらは別々の棚にあった。

死者は記録されている。

しかし、死亡率としては数えられていない。


セリアは、奥の棚を見た。

古い依頼票の束が積まれている。

誰も好んでは見ない紙の山。


理人は、その棚を見て思った。

請求書だ。

誰かが払わずに済ませてきたものが、紙の束になって積まれている。


ギルドの中では、まだ人の声がしていた。

依頼を探す者。報酬を受け取る者。受付を急かす者。笑う者。怒る者。


けれど、理人の周囲だけ、そこから切り離されたように静かだった。

ミナは、撤退条件の紙を握ったまま立っている。

カイルは壁にもたれ、理人とセリアを見ている。

リナは、理人の隣で息を詰めていた。

理人はもう一度、言葉を探した。


「どの依頼。何人。戻らない。見たい」


セリアの表情がわずかに険しくなる。

怒っているのではない。

その問いを、今まで一つの問いとして受け取ったことがなかった顔だった。


◆ (二)答えられない理由


セリアは有能だった。

理人にも、それは分かっていた。

依頼を受ける者をさばく。帰還確認をする。報酬を渡す。苦情を受ける。死亡報告を処理する。依頼主への連絡をする。

彼女は、それを毎日やっている。

だからこそ、すぐには答えられない。


仕事が多すぎる。

記録が多すぎる。

そして、記録の目的が違いすぎる。


死亡報告は、死亡を伝えるためのもの。

未帰還記録は、戻っていない者を残すためのもの。

遺品回収依頼は、遺品を探すためのもの。

報酬未払いの帳簿は、金を処理するためのもの。


どれも必要だ。

だが、どれも新人死亡率を見るためには作られていない。


理人はセリアを見る。

セリアは険しい顔をしていた。

怒っているのではない。

自分が知らなかったことに、腹を立てている顔だった。


理人は、その顔を知っている。

前の世界にもあった。


日々の仕事は回している。

報告書も作っている。

帳票も残している。

それなのに、ある日、別の問いを投げられる。


この工程では、どこで一番手戻りが起きているのか。

この不具合は、どの条件で増えているのか。

この遅れは、誰のせいではなく、どの構造で生まれているのか。

その瞬間、記録が足りないことに気づく。


記録していなかったわけではない。

ただ、その問いに答える形では残していなかった。

セリアは、まさにその顔をしていた。


理人は責めるつもりはなかった。

むしろ、責めてはいけないと思った。

ここで責めれば、次から記録は隠れる。

人が死んだ記録でさえ、都合のいい形に変わる。

それだけは避けなければならない。


◆ (三)紙の山


セリアは奥へ行った。

しばらくして、両腕に紙の束を抱えて戻ってきた。

それだけでは終わらなかった。


さらに木札の束。

未帰還者の紐付き札。

遺品回収依頼の控え。

報酬未払いの記録。


机の上に置かれるたび、重い音がした。

それは、人の死の音ではない。

ただの紙の音だ。

だが、理人には軽く聞こえなかった。


リナも黙っていた。

ミナは少し離れた場所から、その紙の山を見ている。

カイルは壁際に立っていた。

いつものように斜に構えた顔をしている。

だが、目だけは笑っていなかった。


セリアは紙の束を指した。

何かを言う。

リナが訳す。


「全部じゃない。古いものは奥。名前が重なっているものもある。未帰還のままのものもある」


理人はうなずいた。

完璧ではない。

それでいい。

完璧を待っていたら、何も見えない。


理人は、机の上に置かれた紙を見た。

日付の古い依頼票。端が擦り切れた木札。誰かの名前が刻まれた札。赤い紐でまとめられたもの。黒い印のついたもの。


戻った者。戻らなかった者。死んだと分かった者。死んだかどうかも分からない者。

それらが、同じ机の上に初めて並んだ。


セリアは、近くにいた職員へ何かを言った。

職員は渋い顔をしたが、奥からさらに数枚の記録を持ってきた。

理人はそれを見て、静かに息を吐いた。


紙はある。

記録もある。

足りないのは、つながりだ。



※第11話「新人死亡率という名の請求書」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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