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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第10話 撤退条件を笑う者から死ぬ

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(四)戻らなかった者

◆ (十一)戻りやすい紙


セリアは、依頼票を掲示板へ戻さなかった。

代わりに、別の束へ移した。

確認待ち。

おそらく、そういう扱いだ。

理人には文字は読めない。


だが、置かれる場所が変わったことは分かった。

カイルは理人の横に立った。


「紙だけで森は歩けない」


リナが訳す。

理人はうなずいた。

それは正しい。

カイルは続けた。


「だが、紙があると戻りやすい」


リナが訳した。

理人は少しだけ目を細めた。

それは、かなり大きな評価だった。

セリアも、理人を見た。

まだ信用ではない。


だが、昨日までの怪しい異邦人を見る目とは少し違う。

彼女は依頼票の端を指した。

それから、理人が描いた戻る矢印を指す。


「これは、他にも使えるか」


リナが訳した。

理人は、すぐには答えなかった。

使える。

たぶん。

だが、使い方を間違えれば、ただの面倒な紙になる。


撤退条件は、人を臆病にするためのものではない。

帰って報告するためのものだ。

理人は、ゆっくりうなずいた。


「使える。でも、全部同じ、違う」


リナが訳す。

セリアは小さくため息をついた。

また面倒なことを言われた。

そういう顔だった。

だが、彼女は紙を捨てなかった。


カイルは、掲示板から外された依頼票を見た。


「次に行く奴は、少しはましな紙を持てるな」


リナが訳す。

理人は、何も言わなかった。

まし。

その程度でいい。

まずは、空白よりましならいい。


◆ (十二)反発


撤退条件の紙は、すぐにギルドで噂になった。

新人を甘やかす紙。逃げる理由を作る紙。報酬を減らす紙。

そう言う者もいた。


一方で、別の者は言った。

戻ってくるなら、悪くない。

死体を拾いに行くよりはましだ。

カイルは何も言わなかった。

セリアは忙しそうに紙を整理していた。


ミナは、依頼票の裏に描かれた戻る矢印をじっと見ていた。

青年たちは、まだ納得していない。

理人は、その反応を見て思った。

一枚の紙で、文化は変わらない。

撤退を恥だと思う空気は、まだ残っている。


依頼を未達で戻ることへの不安もある。

報酬が減る問題もある。

面倒な確認を増やしたくない者もいる。

それでも、今日一つだけ変わった。

戻った者が、ただの臆病者として扱われなかった。


見たものを持ち帰った者として扱われた。

それは、小さな変化だった。

そして、たぶん大きな変化の入口だった。

理人はギルドの掲示板を見た。


依頼票はまだ多い。危険度の印も多い。初心者可の文字もある。戻る条件が書かれていない紙は、まだ何枚もある。

一つ直しても、終わりではない。


紙は増える。

反発も増える。

それでも、戻った者がいる。

それだけは、もう消えない。


◆ (十三)戻らなかった者


その夜、理人はギルドの隅で、依頼票の写しを見ていた。

文字はまだ読めない。

だから、リナが読めるところを読み、理人が印をつける。


ゴブリン。薬草採取。荷運び護衛。行方不明者捜索。遺品回収。低危険度。初心者可。人数。報酬。


理人は、依頼票の端に小さな印を置いていく。

戻る条件が必要な依頼。

人数確認が必要な依頼。

時間制限が必要な依頼。


だが、途中で手が止まった。

依頼票だけでは足りない。

どの依頼で、誰が戻らなかったのか。

それを見なければならない。


理人はセリアを見た。

セリアは疲れた顔で、別の依頼票を整理している。

このギルドには、きっと記録がある。


帰還確認。未帰還。死亡報告。報酬未払い。遺品回収。


だが、それが一つにつながっているとは限らない。

理人は小さく言った。


「新人、何人死んだ?」


リナが息を呑んだ。

その問いは、ギルドの空気を少し冷たくした。

セリアの手も止まった。

理人は、言葉を探す。


「どの依頼で。何人。戻らない」


セリアは、しばらく黙っていた。

そして、奥の棚を見た。

そこには、古い依頼票の束が積まれていた。

誰も好んでは見ない紙の山。

戻らなかった者の記録が、そこに眠っていた。


◆ (十四)ログ


ログ

分岐条件:追加

帰還率:未評価

局所判断:変化

反発係数:上昇

注記:

中断を失敗とする分類は継続。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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