↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第11話 新人死亡率という名の請求書

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/115

(二)偏り

◆ (四)汚い記録


記録は、予想通り汚かった。

同じ依頼なのに、書き方が違う。

ゴブリン討伐。森の小鬼退治。畑荒らし退治。小型魔物駆除。

同じものかもしれない。

違うものかもしれない。


新人という言葉も曖昧だった。

初めて依頼を受けた者。登録から一月以内の者。下級札を持つ者。経験はあるが、この支部では初めての者。

どれを新人と呼ぶのかが、揃っていない。


未帰還も曖昧だった。

死んだのか。逃げたのか。別の町へ行ったのか。まだ捜索中なのか。

死亡報告がある者もいれば、遺品だけ戻った者もいる。

報酬未払いで残っている者もいる。


理人は、頭を抱えたくなった。

だが、驚きはなかった。

データはだいたい汚い。


倉庫でもそうだった。

ギルドでも同じだった。

違うのは、ここで汚れているものが、人の生死に近いことだけだ。


理人は、紙の端に印を置いた。

確定。不明。たぶん。後で確認。


この四つだけでも、場の空気が少し変わる。

セリアは、たぶんの印を見て眉を寄せた。

カイルは鼻を鳴らした。

ミナはじっと見ている。

理人は、セリアに向けてゆっくり言った。


「分からない。消す、違う」


リナが訳す。


「分からないものは消さない。分からないまま残す」


セリアは、すぐには返事をしなかった。

だが、紙を取り上げることもしなかった。

理人はそれで十分だと思った。


きれいな数字を作るために、汚い記録を捨ててはいけない。

汚いと分かるように残す。

そこから始めるしかない。


◆ (五)三つに分ける


理人は、机の上を三つに分けた。

帰還。未帰還。死亡または死亡に近い記録。

正確ではない。

だが、最初は粗くていい。


リナが名前を読む。

セリアが依頼名を補う。

理人が印を置く。


一つ。

二つ。

三つ。


名前が重なれば、同じ人物か確認する。

依頼名が違えば、内容を聞く。

戻ったか。戻らなかったか。誰と行ったか。新人か。経験者はいたか。


何度も詰まった。

リナが読めない字もあった。

セリアが記憶で補うこともあった。

カイルが横から、「そいつは戻ってない」「そいつは別の町へ行っただけだ」と言うこともあった。


完璧な表ではない。

だが、紙の山は少しずつ形を変えた。

ただの過去の束から、問いに答えるための形へ。

理人は、石を置きながら小さく言った。


「まず、見えるようにする」


リナはうなずいた。


「見えたら、少し怖いね」


理人は手を止めた。

その通りだった。

見えない方が楽なものは、たくさんある。


リナは、名前を読むたびに少しずつ声が小さくなった。

知らない名前のはずだった。

けれど、戻らなかったと聞くたびに、その名前はただの文字ではなくなる。


誰かが受付に来た。

誰かが依頼票を受け取った。

誰かが森へ行った。

誰かが戻らなかった。

その流れが、紙の間から立ち上がってくる。


理人は、リナに無理をさせすぎていないかと一瞬思った。

だが、リナは紙から目をそらさなかった。

彼女は小さく言った。


「読む」


理人はうなずいた。


「頼む」


その言葉は、今度は現地語で言えた。


◆ (六)記憶も記録する


カイルは、いくつかの名前で口を挟んだ。


「あいつは新人扱いじゃない。前の町で二年やってた」


別の紙では、首を横に振った。


「それは死んだんじゃない。報酬で揉めて支部を変えた」


また別の名前では、少し黙った。


「そいつは……森で見つかった。遺品だけな」


セリアの手が止まる。

リナも、読む声を少し落とした。


理人はカイルを見る。

カイルの記憶は貴重だ。

だが、記憶だけでは危ない。


理人は、その横に小さな印を置いた。

たぶん。

カイルが眉を上げる。


「俺の言葉が信用できないってか」


リナが訳す前に、理人は首を横に振った。


「大事。でも、記録、違う」


リナが少し考えて訳す。


「カイルの話は大事。でも、紙にないから、確定にはしない。たぶんで残す」


リナがそう訳すと、カイルはしばらく理人を見た。

それから、鼻を鳴らした。


「面倒な男だな」


少し間を置いて、彼は机の上の紙を見た。


「だが、“たぶん”は大事だ」


リナが目を上げる。

カイルは、古い依頼票の束を顎で示した。


「一つだけなら、ただの勘違いかもしれない。見間違いかもしれない。臆病者の言い訳かもしれない」


そこで、カイルは指先で机を軽く叩いた。

一度。

二度。

三度。


「でも、“たぶん”が重なってきたら別だ」


リナは、その言葉を理人に訳した。

理人は、カイルを見た。

この男は、分かっている。


確定していない話を、確定したように扱う危うさも。

確定していないからといって、全部捨てる危うさも。

カイルは肩をすくめた。


「森で長生きする奴は、だいたいその“たぶん”で引き返す」


リナが訳すと、理人はゆっくりうなずいた。


「それは、いい記録になる」


カイルはまた鼻を鳴らした。

今度は、少しだけ機嫌がよさそうだった。


◆ (七)偏り


夕方までかかって、ようやく最初の形が見えた。

完璧ではない。

抜けもある。

重複もある。

未確認もある。


それでも、傾向は出た。

過去半年。新人が含まれる依頼。そのうち、戻らなかった者がいる依頼。


数は、多すぎると言うほどではない。

だが、少ないと言えるほどでもなかった。

問題は、偏りだった。


高危険度の依頼ではない。

低危険度。初心者可。短時間。低報酬。

そういう依頼の中に、戻らなかった者が混じっている。

特に多いのは、森に入る依頼だった。

ゴブリン討伐。薬草採取。行方不明者捜索。遺品回収。


理人は石を並べた。

依頼の数。戻った数。戻らなかった数。新人が含まれていた数。死亡が確定した数。未帰還のままの数。

数字は粗い。

だが、十分だった。


セリアは、その石を見て黙っていた。

ミナは口元を押さえた。

カイルは、壁にもたれたまま目を細めている。


理人は思った。

これは、請求書だ。

誰か一人に突きつけるためのものではない。

ギルドという仕組みが、後回しにしてきたものの請求書だった。


理人は、危険度の印を指した。

低い。


次に、戻らなかった者の石を指す。

多い。


それから、森の依頼を指す。

集中。

リナがそれを言葉にする。


「低い危険の依頼なのに、新人が戻っていないものがある。特に森へ行く依頼に集まっている」


セリアは返事をしなかった。

返事の代わりに、石を見続けた。



※第11話「新人死亡率という名の請求書」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。