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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第9話 ゴブリン討伐は初心者向けではない

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(二)条件が強い

◆ (四)普通という分類


セリアが近づいてきた。

彼女は依頼票を取り、内容を確認する。

それから、理人ではなくリナに向かって説明した。

リナが訳す。


「ゴブリンは低級魔物。新人が最初に受ける依頼としては、普通」


普通。

理人はその言葉を聞いて、うなずいた。

普通であることは、分かる。

前の世界でも、普通という言葉はよく使われた。


普通の工程。普通の遅れ。普通の在庫差異。普通の不良率。

普通は便利だ。

いちいち考えなくて済む。

だが、普通は時々、見直されないまま残る。


セリアは続けた。


「全部を細かく書く余裕はない。依頼は多い。報酬も低い。村も急いでいる」


リナの訳はところどころ欠けていたが、意味は分かった。

セリアは無能ではない。

むしろ、よく分かっている。

依頼票に何でも書けるなら苦労はしない。


情報を集めるにも人手がいる。

危険度を上げれば報酬も変わる。

報酬が上がれば村が困る。

初心者向けの依頼が減れば、新人が困る。


問題は単純ではない。

理人は、だからこそ危ないと思った。

複雑だから、古い分類が残る。

忙しいから、低危険度のまま流れる。


そして、誰かがその紙を信じて森へ行く。

理人は依頼票の危険度を指した。


「ゴブリン、低い。たぶん」


リナが訳す。

セリアは怪訝そうに理人を見る。

理人は、首を横に振らない。

低級魔物という分類そのものを否定したいわけではない。


そこを間違えると、話は届かない。

理人は依頼票の余白を指した。


「でも、条件、ない」


リナが訳す。

セリアの眉間のしわが少し深くなった。

理人は思った。

ここから先は、倉庫より難しい。


倉庫では、袋が目の前にあった。

石を並べれば差分を見せられた。

だが、ここにゴブリンはいない。

森もない。


足跡もない。

あるのは、紙だけだ。

だからこそ、紙が弱いと危ない。


◆ (五)カイル


「ゴブリン一匹なら、新人でもいける」


低い声が横から入った。

理人は振り向いた。

壁際に、くたびれた革鎧の男が立っていた。

年は三十代半ばくらい。


無精ひげ。

手入れされた短剣。

新品ではない外套。

立ち方に隙が少ない。


若い冒険者たちは、少しだけ姿勢を正した。

男は掲示板の依頼票を見る。

それから、理人を見る。


「だが、巣なら別だ」


リナが小さく訳してくれる。

男は続けた。


「森で、数が分からない。村から遠い。日が落ちる。そういうのは初心者向けじゃない」


理人は、その男を見た。

この男は、理人の味方ではない。

たぶん、理人のことも信用していない。

だが、今の話については、同じものを見ている。


理人は依頼票を指した。


「名前?」


リナが聞く。

男は少し面倒そうに答えた。


「カイル」


理人はうなずいた。


「カイル」


カイルは鼻を鳴らした。


「紙を読むより、森を見ろ」


リナが訳す。

理人は少しだけ笑いそうになった。

それは、理人が言いたかったことに近かった。

セリアは、カイルを見た。


「また余計なことを」


そんな響きだった。

カイルは肩をすくめる。


「余計かどうかは、森で決まる」


リナが小声で訳す。

理人は依頼票を見た。

受付の事情。新人の事情。村の事情。冒険者の現場感覚。

全部が、ここに集まっている。


だから紙一枚で単純に決めるのは危ない。


◆ (六)条件が強い


理人は、依頼票を指した。


「ゴブリン」


次に、指を一本立てる。


「一」


カイルを見る。

カイルはうなずいた。

一匹なら、まだ分かる。

理人は、次に指を五本広げた。


「たくさん」


カイルは肩をすくめる。

それは別だ。

理人は両手で丸を作った。

巣。


リナが訳す前に、カイルが顔をしかめた。


「巣なら新人だけで行くな」


リナが訳した。

理人はうなずく。

次に、足元を指した。

近い。


それから、遠くを指す。

遠い。

森を指す。

見えない。


空を指す。

夕方。

カイルは腕を組んだ。


「遠い森で、数が分からず、日が落ちるなら、ゴブリンでも死人が出る」


その言葉に、新人の少女が小さく身じろぎした。

青年たちは黙った。

セリアも、依頼票を見ている。

理人は、ようやく少しだけ言葉を組み立てた。


「ゴブリン、弱い。たぶん」


リナが訳す。


「でも、条件、強い」


リナはそこで一度止まった。

自分でも少し変な言い方だと思ったのだろう。

理人は首を横に振らなかった。

それでいい。


敵が弱くても、条件が強ければ危険になる。

雨。森。夕方。距離。数。巣。逃げ道。経験者の有無。

それらが重なれば、低級魔物でも低危険度ではなくなる。

理人は、依頼票の危険度を指した。


「敵だけ、見る。違う」


次に、余白を指す。


「条件、見る」


リナが訳す。

カイルは短く笑った。

馬鹿にした笑いではなかった。


「よそ者のくせに、面倒なことを言う」


リナが訳す。

理人は肩をすくめた。

それは否定できなかった。



※第9話「ゴブリン討伐は初心者向けではない」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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