(四)紙と現場
◆ (十一)紙と現場
その日、理人はギルドで信用されたわけではなかった。
セリアは名前を教えた。
荷運びの男は、少し安心した。
リナは隣で、依頼票の文字を読んでくれた。
だが、それだけだ。
ギルドにいる冒険者たちは、理人を知らない。
受付の奥の職員も、理人を知らない。
掲示板の前で依頼を選ぶ若者たちも、理人を知らない。
倉庫で守った記録は、ここでは何の証明にもならない。
信用は、持ち運べない。
それでも、見方は持ち運べる。
朝と夕。
前と今。
紙と現場。
依頼票と実際の危険。
差分を見る。
理人は、壁に貼られたゴブリン討伐の依頼票を見上げた。
初心者可。
危険度低。
そこには、何体いるのかも、どこまで行くのかも、いつ戻るべきかも書かれていない。
理人は小さく息を吐いた。
「次は、これか」
リナが、少し嫌そうな顔をした。
その反応だけで、理人には十分だった。
ゴブリン討伐は、初心者向けではない。
少なくとも、この紙のままでは。
理人は、掲示板から少し離れた。
ギルドの中では、相変わらず声が飛び交っている。
依頼を受ける者。
報酬を受け取る者。
職員に詰め寄る者。
誰もが忙しい。
誰もが、自分の紙を見ている。
そして、その紙の外側にあるものを、全員が見ているわけではない。
理人は、ゴブリン討伐の依頼票をもう一度見た。
紙が嘘をついているとは限らない。
ただ、今を見ていない。
それだけで、人は危ない場所へ行く。
◆ (十二)ログ
ログ
分類:維持
周辺変動:増加
再照合:未実行
適合率:不明
注記:
前状態を基準とした判断が継続。
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※ネタバレ範囲にご注意ください。
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