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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第8話 ギルドの依頼票は壊れている

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(一)受付の女性

◆ (一)信用は持ち運べない


ギルドでは、山科理人はまた何者でもなかった。

カランタの倉庫で少しだけ信用を得た。

リナが隣にいる。

荷運びの男も、一応は紹介してくれた。


それでも、受付の向こうにいる人間から見れば、理人はただの言葉の怪しい異邦人だった。

倉庫で何をしたかなど、知らない。

木片の記録など、見ていない。

リナを守ったことも、関係ない。


信用は、場所を移るたびに目減りする。

理人は、ギルドの中を見回した。

壁には依頼票が並んでいる。

紙。

木札。


紐で束ねられた古い依頼。

報酬らしき数字。

赤や黒の印。

冒険者たちの声。

倉庫とは違う。


だが、匂いは少し似ていた。

忙しい場所の匂い。

紙があり、人が動き、誰かが何かを判断している場所。

つまり、間違いが溜まる場所だった。


理人は、壁の前で足を止めそうになった。

だが、すぐに思い直す。

読めない。

文字は、まだところどころしか分からない。


印の意味も、すべて分かるわけではない。

ここで分かったふりをすれば、倉庫の記録よりよほど危ない。

リナが隣で、少し緊張した顔をしていた。

倉庫では、リナは木片を持つ側だった。


だが、ここでは違う。

ギルドは、リナにとっても少し遠い場所らしい。

声が多い。

知らない大人が多い。

壁に貼られた紙も多い。


理人は、もう一度受付を見た。

倉庫で得た信用は、ここにはない。

あるのは、よそ者の顔と、怪しい片言だけだった。


◆ (二)荷車と護衛


荷運びの男は、一枚の依頼票を受付へ差し出した。

それから、理人を指す。

受付の女性は眉を寄せた。

当然だ。

理人は冒険者ではない。


ギルド職員でもない。

文字もろくに読めない。

なぜこの男に見せるのか。

受付の女性の目が、そう言っていた。


荷運びの男は、短く説明した。

リナが横で聞き取り、理人へ小さく伝える。


「明日の荷車。村へ行く。護衛、ギルドから出る」


理人はうなずく。

そこまでは聞いている。

リナは続けた。


「前は、低い危険でよかった。でも、今は道が違うかもしれない」


荷運びの男は、町の外へ続く道を指す。

雨の後。

崩れた道。

遅れる荷車。

最近見た小型魔物。


彼はそれを一つずつ、身振りと短い言葉で示した。

そして最後に、依頼票の危険度欄を叩いた。

そこには、前と同じ印がある。

低危険度。


荷運びの男が理人に期待していることは、ようやく分かった。

この紙が、今の道に合っているか。

それを見てほしいのだ。

理人は依頼票を見る。

文字は読めない。


だが、欄の形は見える。

行き先らしき欄。

荷の種類らしき欄。

人数。

報酬。


危険度。

整っている。

倉庫の木片より、ずっときれいだ。

だが、そのきれいさが、逆に危うく見えた。


整った紙は、正しそうに見える。

正しそうに見えるものは、疑われにくい。

理人は、紙の端に置かれた低危険度の印を見た。

前は、それでよかったのかもしれない。


だが、今もそうだとは限らない。


◆ (三)受付の女性


受付の女性は、理人ではなく荷運びの男を見た。

理人に直接話しても、面倒だと判断したのだろう。

正しい判断だった。

彼女は依頼票を指し、何かを言う。


リナが小さく訳した。


「これは、前にも出した依頼。道も、村も、同じ。だから危険も同じ」


理人は依頼票を見る。

なるほど。

前回と同じ道。

前回と同じ村。

前回と同じ荷。


だから、同じ危険度。

処理としては分かる。

前の世界でもよく見た。

前回と同じなら、今回も同じ。

そう扱えば、仕事は速い。


受付の女性は悪意でそうしているわけではない。

むしろ、たくさんの依頼を回すには、そうしなければならないのだろう。

だが、荷運びの男が言いたいのは、そこではない。

前回と同じ依頼。

それは正しい。


だが、前回と同じ状況ではない。

理人は、道を指した。

次に、依頼票を指す。


「前。今。違う」


受付の女性が、理人を見る。

怪しい異邦人を見る目だった。

理人は、もう一度言った。


「道、変わる。紙、同じ」


リナが現地語で補った。

受付の女性は、すぐには返事をしなかった。

受付台の向こうには、ほかにも人が並んでいる。

冒険者らしき若者が、報酬袋を待っている。


別の男が、壁の依頼票を指して何かを尋ねている。

奥の机では、職員が木札を仕分けている。

受付の女性は、忙しい。

忙しい場所で、怪しいよそ者の片言を丁寧に聞く余裕など、普通はない。


それでも彼女は、依頼票を手元から退けなかった。

完全に追い払うほどではない。

だが、信用したわけでもない。

理人は、その中間の空気を感じた。


ここが最初の関門だった。



※第8話「ギルドの依頼票は壊れている」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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