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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第6話 記録した者を罰するな

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(一)責任の流れ

◆ (一)木片がない


翌朝、木片はリナの手元になかった。

最初に気づいたのは、山科理人だった。

いつもなら、リナは朝の作業前に木片を取りに来る。


朝の印。棚の印。袋の印。数の欄。


まだ粗末な記録だ。

だが、二人にとっては、同じものを同じように見るための約束だった。


その木片がない。

理人は倉庫の隅を見る。

ない。

棚の裏にもない。

干し草の横にもない。


次に、リナを見る。

顔色が悪かった。

その時点で、理人は何かが起きたと分かった。

倉庫の中央で、倉庫番が木片を持っていた。


煤で描かれた袋の絵。太陽の印。リナの耳の印。点の印。横線の印。丸で囲んだ小さな印。


昨日まで、理人とリナだけのものだった記録が、大人たちの目に晒されていた。

倉庫の空気が、朝の作業場のものではなくなっている。


荷運びの男たちは手を止めていた。

水桶を運んでいた者も、こちらを見ていた。

荷役獣だけが、何も知らない顔で鼻を鳴らしている。


理人は、木片を見た。

小さな記録。

小さすぎる火種。

昨日の夜には、そう思っていた。

だが、火はもうついていた。


◆ (二)差分が読まれる


倉庫番は木片を振った。

何かを問い詰めている。

理人には、すべては聞き取れない。

だが、単語はいくつか分かる。


袋。数。違う。薬草。犬。リナ。


リナの名前が出た。

それだけで十分だった。


倉庫番は南棚を指した。

次に、木片を指す。

そこには、夕方の印と、袋の数が残っている。

八。

だが、今朝の南棚には九つある。


さらに、薬草箱の記録。

夜前。薬草箱。包み、六。


犬が吠えた。

理由を示す欄には横線。

丸で囲んだ小さな印。

見た人、リナ。


倉庫番は薬草箱を開けた。

中の包みを数える。

一。二。三。四。五。

五つ。


誰かがざわついた。

リナの肩が小さく震えた。


理人は、木片を見る。

記録は、完全ではない。


大袋と小袋はまだ混ざる。薬草包みの種類も分けきれていない。湿りの判断も曖昧だ。犬が吠えた理由も分からないままだ。


だが、何もなかったわけではない。

何かが合っていない。

それだけは、もう見えてしまっていた。

そして、見えてしまった瞬間、問題は別の形に変わる。


何が起きたのか。

ではない。

誰が書いたのか。

倉庫の大人たちの目が、木片からリナへ移った。


◆ (三)曖昧な印


倉庫番は、木片の一点を指した。

点の印。

リナが小さく身を縮める。

その印が何を意味するのか、理人は知っている。

たぶん。


確定ではない。

そう見える。

けれど、まだ断定はできない。

そういうものを置くための印だった。


倉庫番は次に、横線の印を指した。

不明。

見た。

だが、理由は分からない。

まだ説明できない。


そういうものを残すための印だった。

さらに、丸で囲んだ小さな印を指す。

後で確認。

倉庫番は鼻で笑った。


言葉は全部分からない。

だが、意味は分かる。


たぶんとは何だ。

不明とは何だ。

後で確認とは、今は確認していないということだろう。

そんなものを記録と呼ぶのか。


男たちの何人かが、似たような顔をした。

曖昧なものを残す意味が分からない。

理人は、奥歯を噛んだ。

それは違う。


曖昧だから残したのだ。

分からないことを、分かったように書かなかったのだ。


湿っているかもしれない。

だが、腐っているとは断定できない。


犬が吠えた。

だが、理由は分からない。


包みが六つあった。

だが、同じ種類かどうかはまだ分からない。


だから、たぶん。

だから、不明。

だから、後で確認。

それは弱い記録ではない。

嘘にしないための印だ。


だが、理人の言葉はまだ足りない。

ここで怒鳴っても、届かない。

それでも、黙っているには、あまりにも嫌な流れだった。


◆ (四)責任の流れ


倉庫番はリナを指した。

リナは何かを言おうとした。

だが、声が出ない。

倉庫番の声が強くなる。


書いたのはお前だろう。

数を間違えたんじゃないのか。

犬が吠えたなど、何の記録になる。

よそ者に変なことを教えられたのか。

倉庫の物に触ったのか。


すべての言葉が分かったわけではない。

だが、理人には分かった。

責任が、リナの方へ流れている。


誰かが言った。

薬草包みが一つ足りない。

その直後、別の男がリナを見る。

目つきが変わった。


数を間違えたのではなく、関わったのではないか。

その疑いが、空気に混ざった。


リナは首を横に振った。

小さく。

何度も。

だが、声が小さい。

見習いの少女の声は、倉庫の大人たちの声にすぐ埋もれる。


理人は、その光景を見ていた。

見たことがある。


世界は違う。

倉庫も違う。

言葉も違う。

それでも、これは知っている。

問題を見つけた人間が、問題の原因にされる瞬間だ。


差分が見えた。

だから、差分を作った人間を探す。

本当は違う。

まず見るべきなのは、どこで変わったかだ。

だが、人はしばしば、最初に見えた人間を責める。


記録した人間。

報告した人間。

見つけてしまった人間。

今、その場所にリナが立たされていた。



※第6話「記録した者を罰するな」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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