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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第4話 信用は初期装備に含まれない

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(一)履歴がない

◆ (一)九つある


翌朝、南の棚には飼料袋が九つあった。


山科理人は、しばらくその前で立ち止まった。


九。


昨日の朝は十二。

昼に三つ運んだ。

なら、夕方に残るべき数は九。


計算上は合っている。


問題は、昨日の夕方には八つしかなかったことだ。


理人はもう一度数えた。


一。

二。

三。

四。

五。

六。

七。

八。

九。


九つある。


昨日の差分は、消えていた。


いや、消えたのではない。


戻されたのかもしれない。

数え間違いだったのかもしれない。

別の棚にあったものを誰かが移したのかもしれない。

昨日の八つの方が、理人の見間違いだった可能性もある。


だから、断定はできない。


だが、ひとつだけ分かる。


誰も、昨日の八つについて説明しなかった。


誰も、昨日の湿った袋について記録しなかった。


何かが起きたかもしれない。

だが、何も起きなかったことになっている。


理人は棚を見た。


九つの袋は、何も言わない。


当然だ。


袋は証言しない。


証言するには、記録がいる。


◆ (二)問題なし


倉庫番は、いつも通り帳簿板を持っていた。


何かを書いている。

いや、書いているように見える。


理人には読めない。


読めないものは、存在しないのと同じではない。

だが、読めない以上、検証できない。


倉庫番は南棚を見た。


袋を見た。


それから何事もなかったように、別の作業者へ指示を出した。


リナは水桶を運んでいる。


昨日、湿った袋を避けた荷役獣は、今朝は普通に飼料を食べていた。


それもまた、問題を見えにくくしていた。


今は食べている。

だから問題はない。


そう処理される。


理人は、前世の資料を思い出した。


確認済み。

問題なし。

一時的な移行影響。


便利な言葉だった。


何かを説明したように見えて、何も残さない言葉。


「ここにもあるのか」


理人は小さく言った。


世界が変わっても、問題が消える仕組みは似ている。


見ない。

書かない。

説明しない。


それでも現場は回る。


回っているように見える。


だから、止まりかけているものほど、外からは分かりにくい。


理人は南棚の九つの袋を見た。


数は合っている。


今だけを見れば。


◆ (三)履歴がない


理人は、もう一度だけ試すことにした。


南棚を指す。


「サル」


袋。


次に、昨日を示そうとする。


太陽が沈むしぐさ。

寝るしぐさ。

朝になるしぐさ。


倉庫番は面倒そうに眉を寄せた。


理人は石を並べた。


十二。

三つ移す。

九。

昨日の夕方は八。

今は九。


差分。


説明したかったのは、それだけだった。


だが、説明は形にならない。


倉庫番は、理人の並べた石を見下ろした。


それから、棚にある九つの袋を指す。


何かを言う。


たぶん、


ちゃんと九つあるだろう。


そういう意味だった。


理人は首を振った。


違う。


今の数ではない。


昨日の履歴が問題なのだ。


だが、「履歴」という言葉がない。


理人は自分の頭を指した。

昨日の方向を指した。

石を指した。

棚を指した。


倉庫番の表情が固くなった。


リナが近くで手を止める。


理人は、そこで気づいた。


このまま続けると、リナが巻き込まれる。


昨日、石を拾ったのはリナだ。

湿った袋を避けたのもリナだ。


倉庫番から見れば、理人に変なことを吹き込まれた見習いに見えるかもしれない。


理人は口を閉じた。


石を拾い、脇にどける。


「分かった」


もちろん、通じない。


だが、理人が引いたことだけは伝わった。


倉庫番は短く何かを言い、仕事に戻った。


リナは、理人を見ていた。


不安そうだった。


◆ (四)お前のせいだ


倉庫番はリナを呼んだ。


短い言葉だった。


リナの肩がわずかに跳ねる。


理人には内容は分からない。


だが、声の温度は分かった。


注意。

警告。

面倒ごとに近づくな。


そういう声だった。


リナは小さくうなずいた。


視線が下がる。


倉庫番は理人を一度だけ見た。


その目で、理人は理解した。


お前のせいだ。


はっきり言われたわけではない。


だが、そういう意味が含まれていた。


理人の胸の奥が冷えた。


前にも見たことがある。


問題を見つけた人間が、問題の一部として扱われる瞬間。


本音のデータを出した現場リーダー。

自由記述欄に本当のことを書いた作業者。

遅れを遅れと書いた担当者。


彼らは嘘をついたわけではない。


ただ、見えたものを見えたと書いた。


それなのに、いつの間にか責められる側に回っていた。


理人は拳を握りかけた。


だが、すぐに開いた。


今ここで怒っても、リナを守ることにはならない。


むしろ、リナの立場を悪くする。


理人には、まだ信用がない。


信用のない怒りは、ただの危険行動だ。



※第4話「信用は初期装備に含まれない」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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