(五)答えではない紙
◆ (二十一)帰りの馬車
王都の白い石壁が遠ざかる。
理人は馬車の中でノートを開いた。
まず、自分の疑問を書く。
一、なぜ言語理解支援すらなかったのか。
二、この程度の改善が、女神が気にするほどのものなのか。
三、そもそも、何が問題とされていたのか。
次に、中央神殿端末について整理する。
一般権限で応答あり。理人固有ではない。
祈祷入力、神託応答、照会応答が成立。
差分は入力形式。
さらに、各地を確認する目的を書く。
白倉村型の見落とし。
神託と記録の実務変換。
照会材料の収集。
最後に、地方聖所の欄を作った。
起動条件。未確認。
◆ (二十二)変わる景色
王都から離れるにつれ、道の景色が変わる。
白い石の建物から、木造の倉庫へ。
巡礼者の列から、荷運びの声へ。
整えられた街道から、深い車輪の跡が残る道へ。
理人は、少しだけ息を吐いた。
ここでなら、物事は書ける形になる。
誰が運んだか。何が足りないか。いつ止まったか。どこへ届いていないか。
中央神殿で聞いた言葉は、大きすぎた。
勇者。女神。介入判断。危機種別。
だが、現地へ戻れば、それは依頼票や台帳や巡回日へ変わる。
理人は手元の書状を見る。
これは答えではない。
次の確認を始めるための、一枚の紙だった。
◆ (二十三)カランタの門
カランタの門が見えた。
倉庫。厩舎。ギルドの掲示板。小さな神殿分院。
王都とは違う。
だが、中央神殿で見た仕組みが、別の形で置かれているようにも見えた。
台帳。依頼票。祈り。神託。人から人へ渡る情報。
どこか一つが止まれば、その先へは届かない。
馬車が門を通る。
リナが、理人の鞄を見る。
「荷物、増えたね」
「紙だけだけどな」
「その包みは?」
理人は、エルネストから受け取った書状を見せた。
「地方の神殿に入れてもらうための紙」
「命令?」
「違う」
理人は少し考えた。
「閉まっている部屋の前まで行くための紙だ」
◆ (二十四)開ける紙ではない
リナは書状を見つめる。
「部屋を開ける紙?」
「扉は開けてもらえる」
「じゃあ、開ける紙だ」
「中にあるものが返事をするかは別だ」
リナは少し考えた。
「扉を開ける紙で、中の石を起こす紙じゃない?」
「そういうことだ」
言い直してもらうと、理人にも分かりやすかった。
神殿の扉は開く。
だが、その先にあるものが端末かどうかは分からない。
端末だったとしても、動くとは限らない。
動いたとしても、理人の問いに答えるとは限らない。
神殿側の許可。端末側の起動条件。開示権限。問いの内容。
別々に確認する必要がある。
◆ (二十五)持ち帰ったもの
理人はギルドへ戻ると、机の上へ資料を並べた。
自分の疑問。各地を確認する目的。中央神殿端末の記録。地方聖所の所在一覧。エルネストの書状。比較用の確認表。
理人は地方神殿類似聖所確認表と書く。
一、中央神殿地下の石台と形が似ているか。
二、地方での呼び名。
三、通常の祈祷に応答するか。
四、参拝者が触れた時に反応するか。
五、勇者や聖女が応答を得た伝承があるか。
六、聖所へ立ち入れるか。
七、照会形式が成立するか。
八、起動条件は何か。
最後の二項目は空欄だった。
◆ (二十六)まだ役割ではない
理人は表の下へ書き加える。
照会可能性。未確認。起動条件。未確認。現地確認。必要。
勇者ではない。加護もない。魔法もない。
だから、剣を抜くことは求められていない。
だが、勇者では救えないものがあるなら、それを見る者は必要になる。
理人は、エルネストの言葉を思い出す。
勇者では救えない時代。
まだ、それが正しいかは分からない。
時代というほど広い問題なのか。
各地に同じ見落としがあるのか。
そもそも、自分が必要とされているのか。
何一つ、確定していない。
理人はそれを役割とは書かなかった。
確認対象とだけ書いた。
◆ (二十七)ログ
ログ
勇者呼出:不成立
地方接続点:候補記録
起動条件:未充足
注記:
照会対象の拡張要求を確認。通常祈祷では反応しない接続点候補を記録。
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