(三)答えが返る形の問い
◆ (十一)同じ型の見落とし
エルネストは地図を広げた。
「白倉村だけなら、局地的な問題です」
王都。カランタ。川沿いの村。灰境地帯。
大小の町が地図に並ぶ。
「ですが、同じことが他の土地でも起きているなら、一つの村の問題ではありません」
理人はうなずいた。
白倉村は台帳にあった。
水祓い対象にも入っていた。
神託にも触れられていた。
それでも、現在の注意は届かなかった。
情報がなかったのではない。
途中で止まっていた。
「一つ目は、白倉村と同じ型の見落としが、ほかにもあるかを確認すること」
理人はノートへ書く。
白倉村型の見落とし。
広域確認。
◆ (十二)行動へ変わるまで
「二つ目は、神託や記録が、現地の行動へ変わっているかです」
エルネストが続ける。
神託は降りている。台帳もある。巡回の決まりもある。依頼票も作られている。
だが、それが現地確認へつながっているとは限らない。
巡回日が前倒しされるとは限らない。荷が移されるとは限らない。連絡役が決まるとも限らない。
「神託があることと、人が動くことは別です」
理人は言った。
「ええ。そして、あなたはそこを見ました」
白倉村で理人が行ったことは、奇跡ではない。
数え直した。杭を立てた。布を吊った。役割を決めた。
小さな改善だった。
だから、別の土地でも確認できる。
◆ (十三)問いの材料
「三つ目は、ここで問うための材料を集めることです」
エルネストは中央神殿の地下を指すように、床へ視線を落とした。
端末は問いに応じた。
だが、問いが粗ければ返答も粗い。
白倉村という地名。古い呼び名。神託文の原文。巡回記録。依頼票。実際に起きたこと。
いつから、誰が、何を見落としていたのか。
それらがなければ、照会は形にならない。
「答えを探すためではありません」
エルネストは言った。
「答えが返る形の問いを作るためです」
理人は三つの目的を書いた。
一、白倉村型の見落としが広域にあるか確認。
二、神託と記録が現地行動へ変わっているか確認。
三、中央神殿で照会するための具体材料を収集。
最後に一行加える。
女神の意図とは断定しない。
神殿側の依頼として扱う。
◆ (十四)地方の聖所
エルネストは、地図のいくつかの町へ印を付けた。
「それとは別に、確認していただきたい場所があります」
「どこですか」
「地方神殿の奥にある聖所です」
理人は新しい見出しを書く。
エルネストが説明する。
地方の神殿には、中央神殿地下の石台と似たものが残されていることがある。
神託石。祈祷台。古い祭壇。奥の聖所。女神の座。
呼び名は土地によって違う。
「端末ですか」
エルネストは少し迷った。
「あなたの言葉で言えば、その可能性があります」
「神官が祈れば応答する?」
「いいえ」
エルネストは首を横に振る。
「普通の神官が祈っても、沈黙したままです」
◆ (十五)囲われた石
「参拝者が触れた場合は?」
「何も起きません」
「では、なぜ神殿の奥へ置かれているんです」
「中央神殿の地下にあるものと、形が似ているからです」
答えは単純だった。
何であるかは分からない。
使い方も分からない。
だが、中央神殿の降託の間にあるものと似ている。
似ている以上、ただの石として捨てることはできない。
神殿は壁で囲い、守り、聖所とした。
理人は書く。
地方神殿類似聖所。
中央神殿地下構造物と類似。通常祈祷時、応答なし。参拝者接触時、反応なし。用途不明。
「動かない端末か」
「端末であるならば、ですが」
エルネストは慎重に答えた。
理人は、端末の後ろへ疑問符を付けた。
※第22話「勇者では救えない時代」は全五回です。
続きます。
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