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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第22話 勇者では救えない時代

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(二)勇者では救えない時代

◆ (六)小さすぎる改善


理人は二つ目の疑問を書く。


「白倉村でやったことは、確かに必要でした」


エルネストがうなずく。


「ええ」

「でも、俺がやったのは小さな改善です」


村の人数を数え直した。巡回を前倒しした。水位杭を立てた。白布を吊った。荷を移した。連絡役を決めた。


どれも、特別な力を必要としない。

勇者が剣を抜いたわけでもない。

聖女が奇跡を起こしたわけでもない。


「大事ではあります」


理人は言った。


「でも、外の世界から人間を流し込んでまで気にすることには見えません」


若い神官が息を呑んだ。

エルネストは止めなかった。

理人はノートへ書く。

この程度の改善が、女神が気にするほどのものなのか。


◆ (七)何が問題なのか


理人は三つ目の行を空けたまま考える。


「魔王がいる。瘴気が広がる。戦場が崩れる」


エルネストは黙って聞いていた。


「そういう危機なら、勇者や聖女を呼ぶ理由は分かります」


敵がいる。

倒すべきものがある。


だが、理人が見てきたものは違った。

記録が粗い。巡回が遅れる。神託が行動へ変わらない。依頼票が現地とずれる。台帳にある村へ、注意が届かない。

問題ではある。

放置すれば、人も死ぬ。


だが、白倉村一つでは小さすぎる。

カランタの記録改善だけでも弱すぎる。

理人は三つ目を書く。

そもそも、何が問題とされていたのか。


答えは出ない。

だから、疑問として残した。


◆ (八)神官長の依頼


エルネストが、ゆっくりと口を開いた。


「私は、女神の意図を知りません」


若い神官たちが、エルネストを見る。

中央神殿の神官長が口にするには、重い言葉だった。


「神官長であっても、女神の考えを代わりに語ることはできません」


エルネストは理人へ向き直る。


「ですから、これからお話しすることは神託ではありません」

「女神からの命令でもない?」

「はい」

「中央神殿として決定したことでもありません」


エルネストは一度、石台を見た。


「私からの依頼です」


理人はノートの端へ線を引く。

神託ではない。

命令ではない。

神官長個人からの依頼。


「あなたに見てほしいのは、女神が何を考えているかではありません」


エルネストは言った。


「私たちが、何を見落としてきたのかです」


◆ (九)敵のいた時代


降託の間を出ると、エルネストは理人たちを小さな記録室へ案内した。

壁には古い神託文と、勇者の記録が並んでいる。


「かつての危機は、分かりやすい形をしていました」


エルネストが言う。

魔王。瘴気。大軍。魔物の群れ。封印の破綻。


実際には、もっと複雑だったのかもしれない。

だが、伝承には敵がいた。

倒すべきものがあった。

勇者は敵を倒した。

聖女は傷を癒やし、瘴気を祓った。


「敵がいるなら、勇者でよかったのでしょう」


エルネストは机の上へ白倉村の記録を置く。

台帳には村の名がある。水祓いの対象にも入っている。神託も降りていた。神殿もギルドもあった。


それでも、村には注意が届かなかった。


◆ (十)勇者では救えない時代


「今見えている問題は、敵という形をしていません」


エルネストは言った。

理人は白倉村の記録を見る。


敵ではない。

だが、危険はある。

剣で斬る対象ではない。


だが、放置すれば人が死ぬ。


「勇者では救えない時代なのかもしれません」


エルネストの言葉は、記録室へ静かに落ちた。

理人は、すぐには答えなかった。

勇者では救えない。

だから自分が必要だ。

そこまで短く結びつけるには、根拠が足りない。


「時代全体の問題かどうかは、まだ分かりません」


理人は言った。


「白倉村一つで決めるには早すぎます」


エルネストはうなずく。


「だから、見てほしいのです」


一つの村だけの不備か。

それとも、同じ型の見落としが各地にあるのか。



※第22話「勇者では救えない時代」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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