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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第22話 勇者では救えない時代

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(一)なぜ言葉がなかったのか

◆ (一)開かない理由


白い女性は、穏やかな微笑みを崩さなかった。


『開示範囲判定が完了しました』


理人は筆を構える。


『勇者呼出判定が不成立となった理由は、現在の照会権限では開示できません』


予想していた返答だった。

それでも、理人はノートへ書いた。

勇者呼出判定不成立。理由。開示不可。


「危機種別評価は」

『一部制限対象です』

「現地対応可能性評価は」

『一部制限対象です』

「開示できる範囲は」


白い女性の輪郭が、わずかに揺れた。


『現在の照会に対する応答を終了します』


白い光が薄くなる。

長い髪も、白い衣も、慈悲深い表情も、石台の上へ溶けるように消えた。


最後に残った光も消える。

降託の間に、地下水の音が戻った。


◆ (二)残った記録


誰もすぐには口を開かなかった。

勇者呼出判定。不成立。加護・支援。付与なし。流入理由。開示権限なし。

理人は、白い女性が消えた場所を見ていた。

自分が勇者ではないことは、驚くほど自然に受け入れられた。

剣はない。魔法もない。言葉すら与えられていなかった。女神に選ばれた記憶もない。勇者であるはずがない。


引っかかっているのは、別の部分だった。

現地不足補助個体。記録密度不足。制度定着不足。神託実務変換不足。危険条件照合能力不足。

意味は分かる。

自分がしてきたことにも合っている。

だからこそ、合いすぎていた。


◆ (三)勇者ではない者


エルネストが、静かに口を開いた。


「あなたは、勇者ではありませんでした」


理人はうなずく。


「はい」

「加護もない。支援もない。言葉も、魔法も、武器も与えられていない」

「確認できました」


理人の声は落ち着いていた。

納得したわけではない。

分かったことを、分かった範囲で整理しているだけだ。

エルネストは続ける。


「それでも、女神はあなたを分類しました」


理人は少し視線を上げた。


「分類したというより、そう表示しただけです」


エルネストは否定しなかった。


「ええ。表示した」


石台を見る。


「では、私たちはその表示を、どう扱うべきなのでしょう」


理人は答えなかった。

現地不足補助個体。


今の行動を並べれば、そう呼べる。

だが、今の行動に付いた名前が、最初からの目的とは限らない。


◆ (四)応答した理由


理人はノートに新しい見出しを作った。

中央神殿端末。


「ここは、俺だけに反応したわけではありません」


エルネストが理人を見る。


「神官が祈れば、これまでも神託は降りた」

「はい」

「違ったのは、反応したことじゃない」


理人は書く。

一般権限で応答あり。理人固有ではない。


「俺が祈らなかったことです」


リナが首をかしげる。


「祈らなかったから、話せたの?」

「祈りと違うものを入れた」


理人は答えた。


神託を求めなかった。

慰めも、未来の言葉も求めなかった。

応答形式を確認した。

照会対象を指定した。

表示の指示を出すよう求めた。


「祈祷入力ではなく、照会入力」


エルネストがその言葉を繰り返す。


「それが、返答を変えた」

「たぶん」


理人は、たぶんと書き添えた。


◆ (五)なぜ言葉がなかったのか


理人はノートを閉じなかった。


「各地を見ろというなら、なぜ言葉を与えなかったんです」


エルネストは黙る。


「記録を読み、村人から話を聞き、現地を確認する。そういう役割を期待していたなら、言語理解支援くらいあってもいい」


この世界へ来たばかりの頃を思い出す。

水。袋。箱。馬。待て。危ない。

単語を一つずつ拾った。

袋と箱の違いから覚えた。

昨日と少し前と昔の違いを、顔色や声の調子から探した。


否定や条件が、言葉の最後に来ることを、何度も間違えながら覚えた。


「それが必要だったのか、ただ何も与えられなかっただけなのか」


理人は一行書いた。

なぜ言語理解支援すらなかったのか。


「今は、分かりません」



※第22話「勇者では救えない時代」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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