(四)次に見るもの
◆ (十五)未開示の場所
理人はノートの新しいページへ、開けなかった項目だけをまとめた。
流入主体。流入理由。勇者呼出対象外の理由。加護が付与されていない理由。言語理解支援が付与されていない理由。勇者呼出判定不成立の理由。介入判断規則。上位命令。
すべて、情報がないとは言われていない。
返されたのは、
開示権限がありません。
という言葉だった。
リナがページをのぞく。
「分からないことばっかり」
「でも、分からない場所は分かった」
理人は答えた。
「前よりは進んでる」
エルネストがうなずく。
「無知なのではなく、未開示」
「はい」
存在するかどうかも分からない情報を探すのと、存在するが閉じられた情報を開くのとでは、進め方が違う。
次に探すべきなのは、答えではない。
開くための条件だった。
◆ (十六)ここにいる
しばらく、誰も話さなかった。
白い女性だけが、静かに待っている。
リナは理人の袖を握ったままだった。
「理人は、ここにいるよ」
理人はリナを見る。
「うん」
「元の体は、もう動かないんだよね」
「そうみたいだ」
「でも、理人はここにいる」
リナは少しだけ強く袖を握る。
「それは、なくならないよね」
理人は答えるまでに時間がかかった。
「なくならない」
口にすると、ようやく息が入った。
エルネストが深く頭を下げる。
「山科殿。あなたの記録へ立ち会ったことを、軽く扱いません」
「お願いします」
「神殿に残すべき記録と、残してはならない情報を分けます」
理人はうなずいた。
記録は必要だ。
だが、残せばよいわけではない。
情報は、持つ者によって人を守りも、傷つけもする。
◆ (十七)次に見るもの
理人は新しいページを開いた。
次に見るべきもの。
一、勇者呼出判定が不成立になった理由。
二、危機種別評価とは何か。
三、現地対応可能性評価とは何か。
四、勇者では対応できない危機があるのか。
五、魔王は現在の危機の主要因なのか。
六、勇者を呼ぶことで悪化する条件があるのか。
七、制度、物流、記録、神託運用の不足は、危機評価に含まれるのか。
書き終え、筆を止める。
魔王。勇者。危機。現地対応可能性。
ようやく、一つの線が見え始めていた。
勇者がいない理由は、勇者が不要だからとは限らない。
勇者だけでは足りないのかもしれない。
勇者を呼ぶという方法そのものが、今の問題に合っていない可能性もある。
理人は白い女性を見る。
「勇者呼出判定が不成立となった理由を、照会します」
『当該照会には、危機種別評価および介入判断規則が含まれます』
「分かっています」
理人は答えた。
「開示範囲判定から始めてください」
◆ (十八)閉じないノート
『開示範囲判定を開始します』
白い女性は、変わらず穏やかに微笑んでいる。
理人はノートへ目を落とした。
原世界肉体状態。生命活動停止。勇者呼出対象。否。加護・支援。付与なし。言語理解支援。付与なし。魔力経路接続。なし。
自分は勇者ではなかった。
女神から力を与えられた者でもなかった。
言葉も、自分で覚えた。
記録も、自分で残した。
何もなかったからこそ、見えたものもある。
言葉が通じない不便さ。情報が落ちる怖さ。制度の外に置かれる危うさ。
理人は、自分の名前を見る。
山科理人。
この世界へ来た理由は、まだ開かない。
勇者ではない理由も、まだ開かない。
だが、勇者呼出判定が不成立だったことは分かった。
次の問いも決まった。
理人はノートを閉じなかった。
まだ、閉じる時ではなかった。
◆ (十九)ログ
ログ
個体履歴:部分開示
原世界状態:確定
対象個体支援:付与なし
勇者呼出判定:不成立
注記:
対象個体に死亡認識が発生。
介入判断領域への照会要求を確認。
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