(二)何も与えられていない
◆ (六)直接介入記録
理人は、しばらく間を置いてから尋ねた。
「俺の原世界での生命活動停止に、あなたは関与しましたか」
白い女性は穏やかに答えた。
『当該生命活動停止に対する直接介入記録はありません』
理人は書いた。
生命活動停止への直接介入記録なし。
少なくとも、残された記録上では、目の前の相手が理人を直接死なせたわけではない。
「俺がここへ流入したのは、生命活動が止まった後ですか」
『はい』
「誰が、俺をここへ流入させた」
白い女性の光が、わずかに硬くなる。
『開示権限がありません』
理人の筆が止まった。
初めてではない拒否だった。
だが、今度は自分がここにいる理由へ、直接突き当たった。
「流入させた理由は」
『開示権限がありません』
理人はノートへ書く。
流入主体。開示不可。流入理由。開示不可。
情報がないわけではない。
ある。
ただし、自分には開けられない。
◆ (七)今の分類
理人は問いを変えた。
「現地運用分類の根拠を、開示可能な範囲で」
白い女性が答える。
『倉庫記録改善』
『依頼票運用補助』
『魔法陣外形補正補助』
『神託文照会補助』
『未到達危険条件抽出』
『白倉村緊急対応補助』
理人は順に写した。
そこに並んでいるのは、自分が実際にしてきたことだった。
倉庫の木片を揃えた。依頼票の項目を見直した。魔物除け札の形を比べた。神託を現地確認へ変えた。白倉村で、見落とされた条件を拾った。
「今の俺の扱いとしては、間違っていない」
理人は言った。
エルネストが尋ねる。
「納得できませんか」
「きれいすぎるんです」
「きれいすぎる?」
「今までやったことを並べれば、この分類になります」
理人はノートへ書く。
現地運用分類。実績とは一致。流入理由とは別。
「今どう扱われているかと、なぜ来たかは同じとは限りません」
◆ (八)付与なし
理人は、勇者碑文の前で聞いた加護を思い出した。
危機に応じた力。聖剣を扱う力。瘴気を払う力。傷を癒やす力。
「俺に、加護や支援は付与されていますか」
白い女性が答える。
『当該個体への危機対応加護、付与記録なし』
理人は書いた。
危機対応加護。なし。
「言語理解支援は」
『付与記録なし』
「身体能力の補正は」
『付与記録なし』
「魔法を使うための補助は」
『魔力経路接続なし』
「記録や照会を行うための能力補助は」
『付与記録なし』
返答はすべて同じ方向を示していた。
言葉も。身体も。魔法も。記録も。
理人へ追加されたものはない。
リナが、ノートを見つめる。
「じゃあ、理人が今までやってきたことは?」
◆ (九)仕事の残り
理人は少しだけ笑った。
「俺の仕事の残りだな」
「仕事の残り?」
「前の世界で覚えたことの残り」
理人はノートへ表を作った。
加護・支援有無確認。言語理解支援。なし。身体能力補正。なし。魔力経路接続。なし。危機対応加護。なし。記録・照会能力補助。なし。
何もなかった。
本当に、何も与えられていなかった。
だから言葉を一つずつ覚えた。
数字を拾った。形を比べた。人に尋ねた。間違えた記録を直した。
「特別な力がないのに、ここまで来たんだね」
リナが言う。
「一人では来られなかった」
理人は答えた。
白倉村の人々。セリア。エルネスト。そして、リナ。
与えられた力はなかった。
だが、助けられなかったわけではない。
その二つも別だった。
◆ (十)勇者ではない
理人は白い女性へ向き直った。
「俺は、勇者呼出対象ですか」
『否』
短い返答だった。
理人は書く。
勇者呼出対象。否。
「勇者としての加護は」
『付与なし』
「勇者としての役割は」
『該当なし』
リナが理人を見る。
「理人、勇者じゃないんだね」
「最初から、そうだろうとは思ってた」
剣はない。魔法もない。言葉すら通じなかった。
「でも、ここまで来た」
リナが言う。
「勇者だからじゃない」
理人はノートを見る。
記録。照会。条件の比較。
持っていたのは、それだけだった。
「勇者じゃなかったから、見えたものもあるかもしれない」
エルネストが顔を上げた。
理人自身も、その意味をまだ説明できなかった。
それでも、ノートへ残した。
※第21話「開示権限がありません」は全四回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/




