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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第21話 開示権限がありません

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(一)生命活動停止

◆ (一)照会対象


白い女性は、静かに待っていた。


『判定対象項目を指定してください』


理人はノートに書いた自分の名前を見る。

山科理人。

この世界へ来てから、何度も名乗った名前だった。

だが、今から見るのは、自分が知っている自分ではない。

この仕組みが、自分をどう記録しているか。


理人は石台へ手を置いた。


「山科理人の個体履歴」


白い女性の輪郭が淡く揺れる。


『照会対象を確認』

『該当個体、一件』


空中に文字が浮かんだ。

山科理人。

自分の名前なのに、他人の記録のように見えた。


『対象個体照合、成立済み』

『項目別開示範囲を判定します』


短い間が空く。


『個体履歴には、原世界情報および制限情報が含まれます』

『同席者への開示許可を確認してください』


理人は顔を上げた。


◆ (二)同席者への開示


若い神官が筆を止めた。

エルネストも理人を見る。

リナが不安そうに尋ねる。


「理人だけで聞く?」


理人はすぐには答えなかった。

何が出てくるか分からない。

自分でも、聞きたくない情報かもしれない。


「ここから先も、神殿の記録として残す必要がありますか」


理人が尋ねると、エルネストは若い神官へ向き直った。


「筆を置きなさい」

「神官長」

「階段まで戻り、そこで待ちなさい」


若い神官は迷った末、筆を置いた。

理人へ頭を下げ、降託の間から出ていく。

足音が遠ざかると、エルネストが言った。


「あなたが望むなら、私も退きます」


理人は首を横に振った。


「いてください」


それから、リナを見る。


「リナは――」

「いる」


即答だった。


「理人が聞くなら、隣にいる」


理人は小さく息を吐いた。


「分かった」


白い女性へ向き直る。


「同席者二名への開示を許可します。公的記録への全文転記は許可しません」

『開示範囲を設定』

『対象本人、許可同席者二名』

『記録制限を適用します』


◆ (三)部分開示


空中に文字が並び始めた。

白い女性の声は、照会応答のままだった。


『山科理人、個体履歴照会』

『開示範囲、対象本人への部分開示』


理人はノートを開く。

山科理人 個体履歴照会記録。開示範囲。対象本人および許可同席者への部分開示。

文字は続いた。


対象個体名。山科理人。現地流入区分。外来個体。現地運用分類。現地不足補助個体。

分類説明。記録密度不足、制度定着不足、神託実務変換不足、危険条件照合能力不足を補助する個体。

そこまでは、すでに聞いた内容だった。

だが、今度は正式な個体履歴の一部として表示されている。


理人は一字ずつ書き写す。

そして、次の項目へ目を移した。


◆ (四)生命活動停止


原世界肉体状態。生命活動停止。

理人の筆が止まった。

文字は続く。

流入時点。原世界肉体生命活動停止後。死因欄。急性内因性停止。詳細、開示制限。

地下から音が消えた。

少なくとも、理人にはそう感じた。

水の流れる音も。

リナの呼吸も。

自分の心臓の音さえ遠くなる。

原世界肉体状態。生命活動停止。流入時点。生命活動停止後。

何度読んでも、文字は変わらない。

仮説ではなかった。

可能性でもない。

記録だった。

リナが、理人の袖を握る。


「理人?」


理人は答えなかった。

ノートへ写そうとして、筆先が止まる。

手が震えていた。

エルネストが静かに言う。


「無理に記録する必要はありません」


理人は首を横に振った。


「書きます」


声が、自分のものではないように聞こえた。


「書かないと、逃げるので」


◆ (五)やっぱり死んでいた


理人は、ゆっくりと書き写した。

原世界肉体状態。生命活動停止。流入時点。原世界肉体生命活動停止後。死因欄。急性内因性停止。詳細、開示制限。

書き終え、筆を置く。


「……やっぱり、死んでたんだな」


誰もすぐには答えなかった。

考えていなかったわけではない。

むしろ、最も可能性が高いと考えていた。

知らない世界。戻れない場所。通じない言葉。

元の世界で眠っていて、長い夢を見ている可能性も捨てきれなかっただけだ。

だが、記録には生命活動停止とある。

リナが小さく尋ねた。


「元の場所には、帰れないの?」

「少なくとも、元の体には戻れない」

「元の体……」


リナが、その意味をどこまで理解したのかは分からない。

それでも、袖を握る手は離れなかった。

エルネストが深く頭を下げる。


「この場へ立ち会わせてしまいました」

「俺が聞いたんです」


理人は白い女性を見た。


「必要でした」


必要なことと、痛くないことは別だった。



※第21話「開示権限がありません」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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