(五)自分の記録
◆ (十九)本人照合
理人は、個体履歴層と書いた行を見る。
自分の情報へ進むなら、対象個体照合が必要になる。
「対象個体照合の方法を確認したい」
『照会対象を指定してください』
「山科理人」
白い女性の輪郭が淡く揺れた。
『照会要求者を指定してください』
「山科理人本人」
『対象個体照合を開始します』
石台から、一定の振動が伝わってきた。
床の光が理人の足元へ集まる。
白い女性の視線が、理人の顔へ固定された。
『接触個体を確認』
『音声照合』
『対話履歴照合』
『現地行動記録照合』
若い神官が息を呑む。
リナは理人の袖を握った。
短い沈黙の後、白い女性が答えた。
『対象個体照合、成立』
『照会要求者と対象個体は一致しています』
理人は息を吐いた。
名前だけで認められたわけではない。
ここへ来てからの行動まで、照合の材料に使われている。
◆ (二十)現在の分類
「開示可能な範囲で、現在の分類を照会します」
白い女性が答える。
『当該個体は、現地不足を補うための外来個体として分類されています』
理人は眉を寄せた。
「現地不足の内容は?」
『記録密度不足』
『制度定着不足』
『神託の実務変換不足』
『危険条件照合能力不足』
リナがぽつりと言う。
「理人がやってきたことだ」
理人は答えなかった。
記録を増やした。
一度の対応を、次にも使える形へ変えた。
神託を現地確認へつなげた。
危険条件を照らし合わせた。
たしかに、自分がしてきたことと一致する。
だからこそ、引っかかった。
「その分類は、現地へ来る前から定められていましたか」
白い女性の光が、わずかに硬くなる。
『初期履歴情報に該当します』
『項目別開示範囲判定が必要です』
理人はノートへ書いた。
現在分類。初期理由とは限らない。
◆ (二十一)履歴に含まれるもの
理人は次の問いを選んだ。
「個体履歴には、どのような項目が含まれますか。値ではなく、項目名だけを提示してください」
白い女性が答える。
『流入経路』
『現地分類』
『機能補助』
『介入履歴』
『原世界状態』
『関連制限情報』
原世界状態。
理人の筆が止まった。
自分がいた世界。
夜の宿。机の上の資料。最後に書いたメモ。
遠くなっていたものが、一度に近づいてくる。
リナが理人の顔を見る。
「理人?」
「大丈夫」
理人は答えた。
今は、項目名を聞いただけだ。
中身はまだ開いていない。
「各項目は開示できますか」
『項目ごとに開示範囲を判定します』
「介入履歴は?」
『一部制限対象です』
「原世界状態は?」
『本人照合成立後、開示範囲判定対象です』
◆ (二十二)自分の記録
理人は新しいページを開いた。
個体履歴照会準備。
対象。
山科理人。
確認項目。
流入経路。現地分類。機能補助の有無。言語理解補助の有無。介入履歴。原世界状態。関連制限。現在分類の決定時期。初期理由との関係。
そこまで書いて、筆を止める。
聞けば、何かが返ってくる。
だが、どの項目から聞くかで、その後の理解も変わる。
エルネストが理人のノートを見る。
「それは、あなた自身の記録ですね」
「はい」
「聞くのですか」
理人は白い女性を見る。
慈悲深い姿。
初期値として選ばれた声。
その奥にある、自分の履歴。
「聞きます」
理人は石台へ手を置いた。
「個体履歴の項目別開示範囲判定を要求します」
白い女性の像が、淡く揺れた。
『判定対象項目を指定してください』
ここから先は、自分の記録だった。
◆ (二十三)ログ
ログ
対話表示層:開示
応答規則:部分提示
対象個体照合:成立
個体履歴照会:待機
注記:
外部個体による初期指示照会を確認。
項目別開示範囲判定へ移行。
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