(四)祈りを支える仕組み
◆ (十四)言葉の補助
理人は、もう一つ確認する。
「加護に、言葉を理解するための補助が含まれることはありますか」
リナが理人を見た。
エルネストも表情を変える。
勇者が言葉に苦しんだ記録は見つかっていない。
だが、理人はこの世界へ来た時、何も理解できなかった。
白い女性は答えた。
『一般回答。含まれる場合があります』
理人の筆が止まる。
「勇者に限るものですか」
『対象個体、介入目的、危機条件に依存します』
「過去の勇者に含まれていたかは?」
『個体履歴および介入記録に依存します』
『対象を指定しない一括回答はできません』
理人は書いた。
言語理解補助。加護に含まれる場合あり。勇者に限定されない。対象個体、目的、危機条件によって異なる。個別確認には履歴が必要。
リナが小さく言う。
「じゃあ、理人が言葉で苦労したのは……」
「まだ分からない」
理人は答えた。
◆ (十五)情報を守る規則
理人は話を戻した。
「個体履歴開示規則について、開示できる範囲を提示してください」
白い女性が答える。
『現地で活動中の個体に紐づく履歴情報は、個別情報保護対象です』
『開示には、対象個体照合および項目ごとの開示範囲判定が必要です』
これは、すでに確認した内容だった。
だが、今回は応答の前提として示されている。
理人は続ける。
「現地での活動が終了している個体は?」
『個別情報保護の対象外となる場合があります』
「必ず開示される?」
『いいえ』
白い女性の声は変わらない。
『介入判断、上位命令、第三者に関する活動中個体情報には、別の制限が適用されます』
理人はノートへ整理した。
活動中個体。本人照合が必要。活動終了個体。個別情報保護の対象外となる場合あり。ただし、別の制限は残る。
◆ (十六)層になっている
理人は新しいページに縦線を引いた。
表示層。応答層。神託変換層。用語対応層。個体履歴層。介入判断層。上位命令層。
横へ、開示の状態を書き込む。
開示可能。一部開示可能。照合が必要。制限対象。開示対象外。
リナが横からのぞき込む。
「階段みたい」
「そうだな」
「下に行くほど、見えない?」
「たぶん」
理人は白い女性を見る。
「今見えているのは、俺たちと話すための一番外側だ」
「その下に、まだあるの?」
「あるらしい」
エルネストが言う。
「神殿が長く見てきたものは、その外側だったのですね」
「外側が無意味とは限りません」
理人は答えた。
「でも、外側だけを見て、奥まで分かったつもりになるのは危ない」
エルネストは静かにうなずいた。
「耳が痛い言葉です」
「俺にもです」
◆ (十七)言葉の対応表
理人は、さらに別の表を作った。
人間側の言葉。白い女性の説明。理人の仮置き。
神託。危険条件などの圧縮出力。警告文。
加護。危機対応の支援や補助。役割に結びつく支援。
勇者。危機対応個体として伝承された者。個別履歴の確認が必要。
祈り。祈祷応答につながる入力。意味の範囲が広い入力。
問い。照会応答につながる入力。確認対象を絞った入力。
神殿で用いられる古い言葉。情報を象徴表現へ圧縮するための言葉。元の条件が落ちる可能性あり。
エルネストは、その表を長く見ていた。
「これは、神殿へそのまま出せば反発を受けるでしょう」
「そう思います」
「ですが、必要です」
エルネストは言った。
「信仰の言葉が、何を運び、何を落とすのかを知るために」
◆ (十八)仕組みに祈る
若い神官は、まだ白い女性を見上げていた。
「神官長」
その声は弱かった。
「私たちは、何に祈っていたのでしょうか」
エルネストは、すぐには答えなかった。
慈悲深い姿。初期値として選ばれた声。受け手へ合わせた表示。
それでも、人々は長い年月、この姿へ祈ってきた。
「私たちは、届くことを願って祈ってきました」
エルネストは言った。
「今日知ったのは、その祈りがどのように受け取られていたかです」
「仕組みだったとしても?」
「仕組みであることが、空虚であることを意味するとは限りません」
エルネストが理人を見る。
理人は少し考えた。
「仕組みは、人を救うことがあります」
エルネストの目が揺れる。
「ただ、仕組みは壊れても、自分から助けを求めません」
理人は続けた。
「だから、確認が必要です」
エルネストは静かに笑った。
「女神を確認することが、祈りになる」
※第20話「システムプロンプトをそのまま出せ」は全五回です。
続きます。
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