(三)神託と加護と勇者
◆ (十)女神という名前
理人は白い女性へ尋ねた。
「この白い女性型の姿は、本体ですか」
『受信者適応表示です』
若い神官が唇を噛む。
「本体ではない?」
『本体という語の定義が適切ではありません』
「では、この姿は何ですか」
『現地受信者が、女神として認識しやすい表示形式です』
理人はノートへ書いた。
白い女性型。受信者適応表示。本体という表現は不適切。女神として認識しやすい表示形式。
エルネストが低く尋ねた。
「では、女神とは何ですか」
白い女性はエルネストを見る。
『女神は、現地受信者側の名称です』
エルネストの表情が固まった。
「私たちは、名を呼んでいたのですね」
「その名が間違いだとは限りません」
理人は言った。
「ただ、それが相手自身の名前や、存在の定義とは限らない」
エルネストは目を伏せた。
「信仰とは、名を呼ぶことでもあります」
理人は、その言葉を否定できなかった。
◆ (十一)人間側の言葉
理人は勇者碑文を思い出した。
ガレス。レンシ。ミサキ。カスマ。ハルト。トーマ。
そして、エルネストが語った女神の加護。
理人は新しいページを開く。
「用語の対応を確認したい」
『照会できます』
「神託、加護、勇者。この三つについて、人間側の呼び名と、あなた側の説明を対応させてください」
白い女性は少し間を置いた。
空中に文字が並ぶ。
神託。
現地受信者側の名称。
危険条件、予測値、未到達情報、観測情報を、現地語、古い儀礼語、象徴表現へ圧縮して出力したもの。
理人は書き写す。
神託。圧縮された警告や情報。人間が受け取りやすい形へ変換される。変換の過程で、元の条件が落ちる可能性がある。
◆ (十二)加護
次の文字が浮かぶ。
加護。
現地受信者側の名称。
危機へ対応するための支援、機能補助、適性増幅、耐性補正を含む場合がある。
個別の内容は、対象個体と危機条件によって異なる。
エルネストが小さく息を呑んだ。
若い神官は、意味を確かめるように何度も文字を読み返している。
理人は書いた。
加護。一つの決まった力ではない。危機と対象によって内容が変わる。
支援。機能補助。適性の増幅。耐性の補正。
「加護を受けた者すべてに、同じものが与えられるわけではない?」
『同一ではありません』
「危機に応じて変わる?」
『対象個体、役割、危機条件に依存します』
理人は、役割という言葉へ線を引いた。
加護は祝福の名前だ。
だが、その中身は役割と危機に結びついている。
◆ (十三)勇者
白い女性の前に、次の文字が並ぶ。
勇者。
現地神殿側の呼称。
危機対応個体として伝承された者。
個別の定義は、対象個体履歴および介入記録によって異なる。
若い神官が顔を上げた。
「勇者は、女神様がお決めになるものではないのですか」
白い女性は答えなかった。
質問の範囲が曖昧なのだろう。
理人が聞き直す。
「勇者は、固定された職業や種族ですか」
『現地呼称としては固定されていません』
「誰かが勇者になる条件は?」
白い女性の光が、わずかに硬くなる。
『介入判断規則に該当します』
短い間が空く。
『制限対象です』
理人はノートへ書いた。
勇者。神殿側の呼び名。危機対応個体。詳細は個体履歴と介入記録に依存。勇者となる条件は、介入判断規則。制限対象。
※第20話「システムプロンプトをそのまま出せ」は全五回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/




