(五)問いの届き方
◆ (十七)問いを整える
若い神官が、エルネストの記録を見る。
「神官長……祈りでは足りないということでしょうか」
エルネストは白い女性を見上げた。
「祈りを捨てるという意味ではありません」
「では」
「祈る者が何を求めているのか、私たち自身が分からないままでは、返された言葉も正しく読めません」
理人は顔を上げた。
「白倉村の神託は届いていました」
「はい」
「しかし、私たちは予言として読み、起きる時を待った」
「条件を確認しなかった」
「ええ」
エルネストの視線が、自分の記録へ落ちる。
「女神のお言葉が足りなかったのではない。私たちの問いと受け取り方が足りなかった」
リナが尋ねる。
「ちゃんと聞くために、質問するの?」
エルネストはうなずいた。
「ええ。ちゃんと聞くためです」
理人はノートへ書いた。
祈りを疑うのではない。
聞き落とさないために、問いを整える。
祈祷を行う前に、何を問うのかを明確にする。
追加確認事項。
応答の規則。
開示の規則。
◆ (十八)次に問うべきこと
理人は新しいページを開いた。
次に問うべきこと。
一、あなたは誰か。
二、女神とは何か。
三、その姿は本体か、表示か。
四、神託はどのように作られるか。
五、応答できる範囲は何か。
六、応答できない範囲は何か。
七、俺に関する履歴は存在するのか。
八、存在するなら、どこまで照会できるのか。
九、対象個体照合はどのように行うのか。
十、開示範囲は何を基準に決まるのか。
そこで筆が止まった。
地下へ降りる前に見た勇者碑文が、頭に残っている。
ガレス。
レンシ。
ミサキ。
カスマ。
ハルト。
トーマ。
特に、ミサキ。
あの名前だけは、古い異国名として片づけられない。
そして、エルネストが説明した女神の加護。
危機に応じて与えられた力。
勇者たちが言葉に苦しんだと読める記録はない。
自分は言葉でつまずいた。
もし勇者たちも外から来た者なら、同じ苦労があってもおかしくない。
だが、記録には残っていない。
◆ (十九)つながらない線
理人は続きを書いた。
十一、勇者とは何か。
十二、過去の勇者は、この世界の人間だったのか。
十三、外から来た者だった場合、どのように来たのか。
十四、呼ばれたのなら、誰が、何のために呼んだのか。
十五、勇者が来た時、言葉は通じていたのか。
十六、通じていたなら、それはなぜか。
十七、勇者に与えられたという加護とは何か。
十八、外から来た者に、何かが与えられることはあるのか。
十九、祈りと問い合わせの違いは何か。
二十、応答と開示を定める規則は何か。
そこまで書いて、筆を止める。
多すぎる。
いくつかは、まだ聞く順番ではない。
ミサキという名。
外から来た自分。
女神の加護と、言葉に苦しんだ記録のない勇者たち。
線は見える。
だが、まだつながらない。
問いの順番を間違えれば、返された答えの意味も間違える。
最初に聞くべきことは、内容ではない。
応答と開示の規則だった。
◆ (二十)理人の祈り方
理人はページの一番上に、新しい一文を書いた。
まず、あなたの応答規則を確認する。
その下へ続ける。
開示条件を確認する。
エルネストが、その文字を読む。
「女神に対して、規則を問うのですか」
「女神が何であっても、返答には条件があります」
理人は白い女性を見る。
「条件があるなら、先に確認した方がいい」
エルネストは少しだけ苦笑した。
「やはり、あなたをここへ連れてきてよかった」
若い神官は、まだそう思えていない顔をしていた。
リナは白い女性をじっと見ている。
「女神さま、困ってるかな」
「困る、という感じではないと思う」
「じゃあ、待ってる?」
白い女性は淡く光っている。
消えない。
急かさない。
ただ、次の入力を待っている。
「たぶん、待ってる」
女神は答えた。
願いではなく、問いに。
そして、問い方を選ぶことができた。
理人はノートの表紙へ手を置いた。
祈る前に、問い合わせる。
問い合わせる前に、問いの届き方を確認する。
それが、山科理人の祈り方だった。
◆ (二十一)ログ
ログ
祈祷入力:未確定
照会形式:成立
人型表示:生成
応答範囲:限定開放
注記:
未登録形式の対話が開始。
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※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/




