(四)守られる履歴
◆ (十三)保護対象
理人は白い女性へ向き直った。
「照会応答で、開示に条件がある情報を教えてください」
白い女性の微笑みは変わらない。
『現地活動中個体に紐づく履歴情報は、個別情報保護対象です』
空中に文字が続く。
『開示には、対象個体照合および開示範囲判定が必要です』
若い神官が眉を寄せた。
リナが理人を見る。
「本人なら見られるの?」
理人は、そのまま尋ねた。
「対象本人による照会なら、開示できますか」
『対象個体照合後、要求項目ごとに開示範囲を判定します』
「本人でも、全部ではない?」
『開示範囲は項目ごとに異なります』
理人は書き写した。
現地活動中個体。
個別履歴、保護対象。
対象個体照合が必要。
照合成立後、項目別に開示範囲判定。
本人照会でも全項目開示とは限らない。
理人は筆を止める。
自分について聞く前に、確認するべきことが増えた。
誰に対して、どのように本人だと認めるのか。
何を基準に、開示範囲が決まるのか。
そして、その規則は誰が定めたのか。
◆ (十四)三つの見出し
理人は石台から手を離した。
光は少し弱くなったが、白い女性の姿は残っている。
待機状態。
理人には、そう見えた。
それまでの走り書きを見返し、新しいページを開く。
確認できたこと。
判断できないこと。
追加確認事項。
確認できたこと。
祈祷句には、古い神託語による象徴的な返答があった。
具体的な問いには、自然な言葉で返答した。
応答形式は選択できた。
照会応答では、危険条件が個別に示された。
確定した未来を返しているわけではない。
活動中個体の履歴には、照合と開示判定が必要。
判断できないこと。
白い女性の姿が、女神そのものなのか。
受け手へ見せるための姿なのか。
祈祷と照会が、同じ相手へ届いているのか。
対象個体を何によって照合するのか。
開示範囲を何が決めるのか。
最後の一行へ丸い印をつける。
要確認。
◆ (十五)一つではない
リナがノートをのぞく。
「分かったことより、分からないことの方が多いね」
「分かったつもりにならないために残してる」
リナは白い女性を見た。
「女神さまがいることは、分かったんじゃないの?」
「何かが答えていることは分かった」
「女神さまじゃなくて?」
「女神ではないとは言ってない」
理人は答えた。
「女神という言葉が、何を指しているのかが分からない」
リナは少し難しい顔をした。
「姿の人?」
「それも候補」
「声の人?」
「それも」
「石台の向こうにいる人?」
「それも分からない」
リナは白い女性と石台を交互に見る。
「一つじゃないかもしれない?」
理人の筆が止まった。
姿。
声。
応答を作るもの。
記録を持つもの。
開示を決めるもの。
理人はノートへ一行加えた。
表示、応答、記録、開示判定の主体が同一とは限らない。
「リナ、ありがとう」
「何が?」
「見る場所が増えた」
◆ (十六)見たままを書く
少し離れた場所では、若い神官も記録を続けていた。
その筆は何度も止まっている。
書いては消し、また書き直す。
エルネストは、その記録を見た。
「見たままを書きなさい」
「ですが、神託として残すには」
「まだ神託と決めなくてよい」
若い神官が顔を上げた。
「女神のお言葉ではないと?」
「そうではありません」
エルネストは静かに答えた。
「私たちがどの形で受け取ったのかを、先に決めつけてはならないということです」
若い神官は戸惑いながらも、紙へ向き直った。
エルネストも自分の記録を開く。
女神の白き姿を拝した。
祈祷句への応答を賜った。
山科理人による問いにも応答があった。
問い方に応じ、御言葉の形が変わった。
照会による応答は、従来の神託文より明確だった。
エルネストの筆が止まる。
しばらく考えたあと、続きを書いた。
神託を正しく受け取るためには、祈りだけでなく、問いを整える必要がある。
※第19話「祈りではなく、問い合わせ」は全五回です。
続きます。
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※ネタバレ範囲にご注意ください。
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