8話 セインの拷問
セインは書類を見ながら片手にナイフを持っていた、捕縛された冒険者を見下ろす。
「あー、ヒッケルさん、もう貴方、咎人ですね」
冒険者の名前はヒッケルと言う男だった。
それなりに腕の立つ冒険者の一人でゴロツキの部類ではなく、それなりにしっかりした顔立ちをした男だ、短く整えられ黒髪と顎髭は無造作な様でいて輪郭に沿いしっかりと鍛えられた印象をお持つ。
その男をセインは拘束したまま魔獣を捌く素材処理室に追い詰める
そして、セインの声は冷たく響く、
「脅されて居たとは言え、4人も殺しちゃったんですか?」
無表情で平坦な口調でセインは言う
捕縛者ヒッケルは、セインの猫族のキャシャな風貌から まだ余裕を見せていた。
「無駄だ……何も喋らんからな」
セインはヒッケルを見もせずにナイフを鞘から抜く。その肉厚のナイフは……赤黒く…錆びていた…
鋭い所は錆びてボロボロになっている
「良いんですよ、その方が…」
セインはナイフを手のひらでくるくる回しなら言う
「僕は、ギルドマスターから“歯医者さん”って方法しか聞き出す方法をしらなくて…」
ヒッケルの目が泳ぐ
「なっ…」
汗が額を伝い、微かに震える唇から荒い呼吸が漏れる、その“歯医者さん”って名前を連想して
口を固く噤む。
「ああー、良いですね、知っているんですか?」
なんだろう全身の毛穴から汗が滲むのが解るヒッケルとセインの会話が先程から何かズレている気がしてならない
「まぁ、口を閉じても開けても、唇の上から出来ちゃいますので」
「やめっ」
「ふふふ…大丈夫です、本職である※蓄導魔工師は口はあまり影響しませんし…」
ヒッケルは恐怖で部屋の隅までもがいて逃げる。
※蓄導魔工この世界の電気屋みたいなもの燐光石等の整備を行う職業
滑らかな石畳の部屋は少し傾斜が付いて居るため丁度 角に追い込まれてしまう
セインがそれを見て無表情に言う
「ああ、だめですよ、ヒッケルさんソコは血を流す為の排水溝なんです、詰まらせると怒られますので…」
セインの細身からは信じられない力でぐいっとヒッケルをつまみ上げ中央に転がす
「大丈夫です、比較的早くに皆さん喋りたく成るので、安心してください。」
ヒッケルは顔を殴打しながらも、セインの方を向き刃物から逃げようともがく
「なんだ、おまえ…」
「でも、いつも良いところで、終わっちゃうんですよ、ヒッケルさんは頑張れそうですか?」
ヒッケルはもはや自分が人間扱いされていないことに気がつく
「ひぃぃぃ、やめてくれ」
セインは終始無表情で…時折ニッコリとしながら
「ええ、皆さんそう言いますね、でも喋る内容が違いますね。あ、忘れて居ましたが、喋る内容を間違えても、絶命する前にギリギリのヒールのサービスもありますよ、いいでしょう?何回でも逝けますよ」
ヒッケルは顔面蒼白で口をパクパクさせ、恐怖で声がでない
「んー。何を言っているのか、聞こえませんね…馬鹿にしています??」
ヒッケルは恐怖で意識がとおのく
そこにカームが入ってくる
「セイン、町中での魔法使用の申告書だが…ん??」
カームが今まさにヒッケルに手を出そうと言う瞬間だった。
セインはスッと元に戻り
「あー、カームさん、いま喋ってもらうところですよ、」
ヒッケルは我に帰り必死に叫ぶ
「助けてくれ、俺は4人どころか1人も殺しちゃいねぇ、」
カームはポカンとしてセインに問う
「あの人、4人も殺しちゃったの?」
とぼけ顔のセイン
「いえ、嘘です」
「はぁ、なんで?」
「ギルドが勘違いして咎人認定して拷問されると言うお芝居です」
そう言いながら満面の笑みのセイン
「お芝居って、あいつ小便漏らしてるよ?」
ヒッケルが可哀想になるカーム
「はい。迫真の演技です」
迫真の演技はセインなのかヒッケルなのか…
「またかかよ…」
カームは呆れながらも面倒事がゴメンだって雰囲気を出しながら言う
「なぁ、ヒッケル、おれ、血なま臭いの嫌いだから帰るわ」
ヒッケルは未だ まともそうなカームをみて叫ぶ
「頼む、喋るから、助けてくれ、人殺してね-し、まだ、おれは、アイツラとつるんで日が浅いんだ、」
顎に手を添えて剃り残しのヒゲを撫でながら
「セインどうする?」
「そうですね、聞きましょうか」
そういうセインは書類もナイフもいつの間にか片付けていた
セインは芝居好きだ、カームがギルドに来たときも、そうだが会話を混乱させて楽しむ傾向があるようだ。
ヒッケルは観念して喋り始める。
「俺は、カームみたいに※天然ダンジョンに潜る度胸はねぇ、2層目で死にそうに成るし…だから蓄導魔工師より良い稼ぎに成るってセシアンの奴らが言ってた仕事を取ったんだ」
※蓄導魔工師:燐光石やオーブへの魔力補充、魔力流路の接続・調整・修繕を担う専門職。現代で言う電気屋見たいなもの
※天然ダンジョン この国で自然発生するダンジョン危険度は魔族管理のダンジョンの数十倍、しかし、希少鉱石やレアアイテムの発見が有るため一攫千金を夢み、未だに挑む奴が多い
「どんな仕事です?」
セインはメモを取る、その姿は非常に賢い雰囲気を醸し出す
「最初は他国の要人の護衛だったんだ、だが、行方不明の家族の保護を頼まれた」
「ああ、前にちょっと揉めてましたよね…」
腑に落ちた様にヒッケルを見る
「ああ、知り合いの家族だったんだ、保護した後に様子をみたいし、俺が保護するって申し出たんだよ」
「そしたら断られて、このセイン保護の話だ」
セインは意外そうにする
「は、保護?」
「集合したら知らない奴らばっかりでよ、周りはアサシンばっかりじゃねぇか」
「俺もビビりまくってたんだ、様子がおかしくてよ」
カームが成る程と気がついたように言う
「盾みたいな扱いだったもんな、ヒッケル、お前タンクじゃないだろ?」
「そうなんだ、おれは騙されたんだよ」
「うーむ」
カームは剃り残したヒゲをさすりながら唸る
「サナさんの話の二重構造、ダブルスタンダードってやつですね」
セインは色々情報が繋がって検討が付いたようだ、
「カームさん後は物的証拠とライカ聖教さんの情報とのすり合わせでギルドも国も動けそうですよ」
「あ、でもヒッケルさんはちょっと軟禁しますね」
セインはスッキリ爽やかな表情で言う
「えー何でだよ」
今までの情報でしくじった奴は全て不審死をしている。おそらくセシアン達の口封じだろう
「そのまま出歩くと、消されますよ?」
「あ…」
ヒッケルの顔が少し青ざめる
「そうだな、その方が良いだろう、しかしサナは…」
カームは思い出したように言う
「ヴァリシアの所に行こう、さっきのは、沙庭職が行うスキルのハズだ、」
ヴァリシアがスキルを使っているなら何かもっと情報を得てるとカームは推測していた。
それに、未だスッキリしないカームである。
「サナの事が心配だ…」
目を閉じ祈るようにカームは呟くのだった




