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古木との約束

―――再び校長室に戻って三人は話していた


いそいそと校長はお茶の準備をする


「いい茶葉と、エルフを駄目にするお菓子、手に入ったんだ」


この人は、いつも持て成すのが好きで、こんな作業も自分で準備するまめな人だ、さっきのお詫びって言うのも有るのだろうか?


そんな姿をクララは見ながら軽い皮肉で紅茶を断る


「私は“泥水で”いいわよ」


「あ、クララは珈琲ね、深煎りが好きだったね」


アラミールはそんな皮肉には動じない


「やぁ、サナ君、座って、座って」


二人はソファーに腰掛けアラミールを見ていた


「この人、まめだね?」


「ああ。いつもこうなんだよ、まぁ、さっきのお詫びかもな」


アラミールはお菓子と飲み物を出し終えると、特殊教員の本題に入ろうとする。


しかし、サナは突然言い出す


「――実演は命樹葬生(めいじゅそうせい)を行おうと思うの」


その発言を聞いてクララとアラミールは期待と懸念が入り交ざった顔になる。


アラミールはうろたえ……


「そんな魔法を学園だけで行って良いのでしょうか?」


クララも腕組をして悩んでいる。


「そりゃ、サービスし過ぎだろう?」


二人とも難色を見せる


サナは何かやる気満々に言う


「だって、私を知る人達が一番見たいんじゃないかな?」


確かにサナは過去、このカエローリアで一度“命樹葬生”を使って有名に成っている。

しかし、その呪文は禁呪の一種だ、代償は術者の寿命である


「もう、決めたの、イチイの古木とも約束したし」


クララは眉をしかめる


「木と約束って、相変わらず異次元な奴だな、……まぁ駄目じゃないか?」


「そうですよねぇ……」


二人が“絶対駄目だ”と言い切れない事情があった。

そもそも、強力過ぎる上に実行できる術者が極めて少ない、

普通なら術を理解するには、何度も発動例を目にし、記録を積み重ねなければ何も分からない


サナは名案とばかりに言い放つ


「相手が生物系なので代償は無いって、事でよくない?」


大嘘である、この術を知っているものは騙せない


この命樹葬生を行う代償として“寿命”というのが抽象的すぎるのだ。


史実では過去には緑化に巻き込まれ死んだ術者や、完全に術が完了されず、木と魔物のキメラの様なものが生まれてしまった事も……

更には、術後突然死まで有ったとされている。


しかし、史実を知る者はごく限られており

その上、その史実を伝える記録も古く事実関係もはっきりしていない

それほどまでに、命樹葬生は稀有な術であり故に禁呪とされている。


だからこそ、二人の胸中では、幾つもの思いがせめぎ合っていた。


―― こんな子に、危険な事はさせたくない。

―― 祖霊魔法への興味、

―― その興味は明らかに犠牲者がでる可能性が有る

―― 一軍にも匹敵する祖霊魔法


好奇心が勝ってしまった


おそらくライカの権能を行使するのであろうとクララは推測する


「やる、って事は、大丈夫なのかい?」


サナは自信満々である


「おうよ……えへへ。まぁ筋も通るしねぇ…まぁ、大丈夫よ」


ライカ聖教から言えばこの様な命を削る行為はタブーとされている

アラミールは気が気じゃない。


しかし微かにライカの気配を感じる不思議な子を前に、異論を唱えようとする意思そのものが、静かに押し伏せられていく。


「……」


クララはそんなアラミールをみて心配になる

口には出さないが、“サナがやる≒女神ライカが行う”と同じだ、

そう推測し、渋々承諾する


「まいったね、」


クララの「まいったね」は禁呪の件もそうだが、ライカの気配がするサナに、

これからアラミールまで振り回されるのだろうと思っての言葉だった。


クララとアラミールは無言で顔を見合わせながら不安そうにする


その姿をみてサナは、ほっぺたを膨らませて


「もう、なによー、あ、エルフを殺すお菓子おいしー」


ちょっと不満そうだったが、お菓子を食べて上機嫌のサナであった


―――


菓子をみんなで食べながらアラミールは長舌だった…


「花のような香りを含んだ濃い甘みが、舌の上にゆっくり広がり……。その奥から発酵バターのまろやかなコクが重なる、ほんのわずかな塩気が甘さの輪郭を際立たせますね」


サナとクララはまるで食レポの様なセリフに呆れていた


「なんだかなぁ……」


「長命種の弊害だね、長く生きて贅沢すると、こうなんだよ、困ったね、こりゃ」


アラミールは美味しそうに食べていたが

思い出したようにアラミールは話題を変える


「あ、そう言えば、サナくんに関しては、祖霊魔術所持者への技術向上の指導と、希望者への基礎座学から習得までのサポートお願いしたい。」


サナは“ああ、それねー”って感じで答える


「ええ、約束でしたし、でも個人の能力によっては遅い早いがあるから、もちろん才のある子には優先的に来てもらう方向で……」


色よい返答に安堵するアラミールである


「ええ、ぜひ、祖霊魔法が使える子が多くなれば、出勤も多くなるけど良いかな?」


「そうだねー。あ、そうですね、」


サナは、“そうだねー”と、ラフな話し方をしていたが、気がついたのか、ちゃんとした喋り方に切り替える


「出来れば今までの魔法学形態から少しズレる事も有るので、魔法学習得後の余学として行う方向で大丈夫かしら?その方が祖霊魔法の能力は強くなるわ」


突然見た目子供の姿のサナが大人の喋り方をするので、アラミールは背筋を伸ばす


「なるほど、それではこの2~3年は全日で無くなり、お給料も少なく成りますが?」


「ええ、少し調べたい事が有りまして、その方が動きやすいと」


サナはクララをみる、クララは目を伏せながらも頷く

表向きは自分に起きた祖霊魔術の副作用の調査研究となっているが、

実際にはセシアン界に繋がる天然ダンジョンを調査する予定だった、


「そうですか、では特別クラスを作り、授業自体は予約制で行きましょう、はじめの何日間は少し学園に来て講義してくださいね」


サナは快く答える


「ええ、解っています」


アラミールは思ったより話がスムーズに進んだように思えて安堵する


「やはり、中身は成熟した方ですね、理解が早くて助かります」


「ええ?完熟はこっちでしょ?」


そう言うと、クララを両手で指さす


「失礼な奴だね、完熟って誰が言ったよ、成熟だ、成熟、」


サナとクララのいつものやり取りがはじまる


「完熟と成熟」とかけまして、「仲がいい」と解く、その心は?


と考えたかは解らないがアラミールはつぶやく。


「お二人は仲がよろしいようで、熟した仲ですね、二人とも名は売れ(熟れ)ていますし……」


アラミールはにこやかに紅茶をすすっていた




―――




クララは会議室に教員や関係者を集めていた

物凄い圧と、人徳と、枢機卿仕込みの話術で説明していく

サナの容姿が変わったことを、祖霊魔法実験の副作用として説明をして一息つく。


「――そんな訳で、よろしく頼む」


教員一同ざわつく。


それでも皆が信じきれない


「しかし、本当なのか……」


「クララ枢機卿が言うなら本当なんだろう」


「確かに、あの三十路女なら……ありうる」


「しかし、生徒と同じ年頃の子じゃないか、しかも、前より可愛いし……

」

皆、思い思いに言葉を漏らす


「ちょっと、そこ、聞こえてるわよっ」


サナは頬を膨らませて怒っている。


クララはその様子をゆっくりと見まわし言う


「なかなか信じがたいことだろう。ならば一つ、祖霊魔法を実地に示そうと思う」


一同“おおっ”と、どよめく。


普通の人は祖霊魔法をめったに見る機会が無い

教員たちは興味をそそられる


「どんな、祖霊魔法でしょうか?」


「命樹葬生だ」


一同再び、どよめく


「おおっ、あの飛竜を仕留めたと言う祖霊魔法」


若干教員たちは興奮気味だ


「ぜひ、拝見したいが、しかし、対象物が有りませんが?」


クララは彼らのリアクションに少し安心し


「あの。伐採予定のイチイの木……で、よかったな、サナ」


「ええ、イチイの木を対象物に、命樹葬生を行うわ」


ーーー


急遽、その日の授業はすべて取りやめとなり、学園を挙げて祖霊魔法の実演を見学することになった。


教員、その他生徒たちが、祖霊魔法の命樹葬生を一目見ようと集まっていた


「サナ、がんばってー」


コルサが元気よく応援する


「こりゃ、ずいぶんと集まったね」


クララは少し驚いた。


今のところ、この国ではサナしかできない命樹葬生だ、本来なら実演などお目にかかることはない、集まって当然である。


中には知識としてこの魔術の代償が寿命と知っている者も少ないながらもいることだろう。

事前にクララから軽く説明が有ったが、安全が約束できるものではないため、プリーストが配置され、周囲には結界魔法も展開されている


サナは少しの間、木に手を添えてじっとしていた。

集まった人たちはコソコソと会話する


「なぁ、“命樹葬生”って“命樹創生”だと思っていたよね」


「だよな、小さい森が出来るって言うから“創生”だと思ってた」


「“葬生”の方なんだ……」


先ほどクララから説明があり、皆、命樹葬生への理解度は少しは深まっていた。


ざわざわとギャラリーがうるさい中、サナは木から少し離れ、舞を始める


さやさやと、鈴の音を鳴らす。


やがて鈴の持ち手を指四本で浅く握り、手のひらで握り込み、鈴を鳴らす。


――シャン、


地面から木の一番高い先端に向けて……

何度もその鈴音が周りの雑踏を黙らせていく。


いつの間にか、しゃべる者は居なくなり、さやさやと鈴の音だけが響いていた。


サナのヘーゼル色の大きな瞳が光って金色に見える……

祖霊魔術が発動しているようだ


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