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学園の古木

――誰かが叫んでいる


「落ち着いてください。ああ、そっちは駄目だ、携行箱など持ち込み禁止です。」


騎士団長のロレインだった。


彼は厳つい身体からは想像が出来ない細かな事に気がつく男だった、

兜を外せば、その容姿は野性的では有るが、少年のような好奇心あふれる瞳をしており年齢不詳で、誠実さにあふれ、多くの女性を魅了する


そんな彼は、大盾を持ち鉄壁の防御を有する“国の大盾”と異名を取る。


そんなロレインもセシアン・コーディックスの無茶な行動に困っている様子だ


「ロレイン君、いったいどうなっているんだ」


そうしている内にソウルラウンダー達が大勢で入ってくる。

かなり物々しい光景だった。


その中でも正式な祭祀服装を着たサナが直ぐに教皇に声をかける


「彼らを止めてください。祖霊やエレメント、日不見の神までもが警告を伝えてきています」


いつものサナとは違い喋り方が随分と緊迫している。


そんな事を言っている内に教皇は奇妙な黒塗りの箱が霊廟を取り巻いて置いて居ることに気づいた。


「いったい何を…」


その黒塗りの箱は、先ほどセシアン・コーディックスの面々が持っていた携行箱だった。


「しまった、それが…。異世界の聖遺物…」


そう言って居るうちに携行箱が開けられる

サナは慌ててソウルラウンダー達に指示を出す


「やはり止められないか、皆、十二天将陣の用意を、そして私に…」


――暗転


「止められない……もう、私が……」


「大丈夫か?」


うなされていた、カームが心配そうに覗き込む

サナは覗き込んできたカームの顔を両手で挟み


「おはよーのチュウは?」


――あれ?なんか、シワシワでやわらかい??


「ちょっと、サナ、そう言う事は、私の居ない間にしなさい」


どうやらクララも居たらしい、寝ぼけて間違えてしまっている


「うわぁぁぁっ、カームがしおれたぁ」


――ぼふっ


クララに枕で叩かれる。


「あんたも、何十年か経てば、おんなじさ、まぁ、私はしおれても、あんたより大きくて、しおれて…いないがな」


サナは胸の前で腕をくみかまえる


「くっ、朝からその話か、その年で垂れて無いとか、おかしいし……。でも私は成長する、きっと、たぶん。」


――ぼふっ


また、クララに枕で叩かれる


「はいはい、バカなこと言ってないで、さっさと用意する」


“しおれた”の論点が少しズレてる。

とても会話に入れないなとカームはそう思いながら苦笑するのであった。


そんなやり取りをしながら今日は学園に行く日である

サナはダラダラと起き上がりながらクララにとう


「えへへ、迎えにきてくれたの?」


クララはちょっと嬉しそうに言う


「ああ、大サービスさ」



――王都神授守聖護学園へ


サナは馬車に揺られていた。

石畳の住宅を通り抜け市場の角を曲がる街の景色は少しずつ変わっていく。


その町並みを見ながらクララは呟く


「サナ、校長は“アラミール”だよ、知ってるかい?」


「あ、あの“飄々《ひょうひょう》たる誠実”と言われるエルフ?枢機卿、引退したんだ?」


サナは余り興味が無さそうだ


「色々と配慮してもらってるよ、サナには興味津々だけどね」


「あー、強者だねぇ、ガチのエルフだよね、ヤダヤダ、何処まで知ってるんだか……」


アラミールはひと目で人ではないと分かる容姿をしている。

細く長い耳、透けるような白い肌、淡い銀髪。整いすぎるほど端正な顔立ち、更に態度は軽く、若者らしさを感じさせ長命種らしさを感じさせない。


「まぁ、彼は見えるタイプじゃないからね、サナが隠したい部分までは、解らないじゃぁ無いかな。……まぁ、もし……」


クララは途中で話を止める。


アラミールを校長に任命したのは実はクララであった。


エルフはライカ聖教には恩恵が深い。

サナが隠していることは、おそらく女神ライカ絡みだ、

万が一発覚しても、悪いことに成らないだろうと、クララも感じ取っていた


「ふうっ……私も祖霊の思いが解るように成ったかねぇ……」


途中で話を止めて、そんな事を言い出すクララに


「え?あ、ホントは、みんな関わってるよ、受け取れないだけかな?」


そう言いながらサナは窓から風景を眺めて目を細める


「エルフが校長って、どうなの?あ、良いのか?卒業して何年経っても同じ校長とか面白い」


クララは呟く


「サナはどこまで行けるのかね……、」


サナは気まずそうにするが、多分、気を使ってくれているんだなと、気まずそうに頭をかく


「どうかなー」



石造りの家々の間に書店や筆記具を扱う店が増え、

通りを歩く若者たちの腕には本や書類の束が抱えられている。


やがて家並みの向こうから、礼拝堂の尖塔や古い講舎の屋根が覗き始めた。


「そこは騎士団施設だ、その向こうが学園だね、」


クララは軽く説明を入れる


「町の利便を学園にしちゃったんだね……」


サナは少し感心していた


「ああ、今の国王は合理的なんだか、面倒くさがりなんだか……」


クララは少し楽しそうだ


王都神授守聖護学園は、一つの広大な敷地にすべての施設を収めた学校ではない。


その成立以前、この一帯には神殿に属する学問所や修道院の講堂、王家の庇護を受けた学院、騎士や術士を育てる施設が点在していた。


王権と聖教が手を取り合い、未来の守護者を育成するための機関を設けた際、それらは取り壊されることなく、新たな制度のもとへ組み込まれた。


クララもこの構想には関わっている足りない施設は増築し、古い建物の間には新たな講舎や寄宿舎が建てられ、周囲の街区そのものが学園の一部へと変えていった。


だから、どこからが学園なのかを示す明確な境目はないが、利便性に長けている


「覚えられるかなー」


サナは面倒くさそうにする


古い学院の隣には商家があり、その向かいには学生寮がある。


路地を曲がれば研究棟、その先の広場を抜ければ図書院。


気づけばとうに、学園の入口に到着したようだ。


馬車は止まった。


「よっと、」


サナは元気よく馬車から飛び降り


「ありがとうね」


クララはゆっくりと降りる。


御者は学園の入口を指さす。


見ると学生たちは入口からそれぞれの講義へと行き来していた

サナとクララは、その人の流れに逆らうように歩いていく

とりあえず、向かうは校長室だ、


―――


「失礼します、アラミール校長」


クララは軽くお辞儀をする


「いやだな、クララ。私とクララの仲じゃないか“アラン”でいいよ」


軽快に校長椅子から立ち上がり、笑顔で近づいてきた


アラミール・シルヴァリオン。

長い時を生きる彼は、人の寿命に歩調を合わせるように、これまで幾度となく職を変えてきた。

親しくなった者たちが年老い、やがて去っていくたび、アラミールはひとつの時代が終わったのだと受け止め、その場所を離れる。そして新たな職に就き、新たな人々の中で、また一から歩き始めるのである。

それは単に別れを避けるためではない。

彼は思慮深く、長く生きる者であるからこそ、ひとつの役職や地位を長く占め続けるべきではないと考えていた。

寿命が長いことと、権力を長く握ることは、まったく別の話なのだと。


「まぁ、特別教員の件も色々お話をせねば成らないのだが……」


アラミールは席を立ちサナの前から横からとサナを覗き込むように見ている


サナは何とも知らん顔でツーンとそっぽを向く


「へぇ……丸耳なんだ、」


サナの横の髪を軽く掻き上げる、何とも女性に失礼な奴である


「わぁ、さわんな、」


小さな拳がアラミールの腹部にめり込む、サナはアラミールにボディーブローを入れていた、


「げふん」


アラミールは軽く吹き飛ばされてよろける

クララが仕方無さそうに言う


「今のはアランが悪いわよ」


「ゴホゴホ。あー、ゴメンつい」


「つぎは祖霊魔術を使って本気で行くっ」


サナは軽く臨戦体制だ


「いやいや、ゴメンゴメン、なるほど、君は只者じゃ無さそうだ、身体強化と聖属性防御をガチガチにかけていたのに拳がすり抜けてきたね」


「「あ、」」


サナから女神ライカに似た気配を感じ取れる者は、上位の聖職者や一部の術者にはいる。

ただし、そのことについてはクララから事前に口外を禁じられていたし、

クララ自身も、実際のところでは半信半疑だ。


アラミールも何かを感じ取っているらしいが、確証までは持っていない。

彼なりに、それを確かめたらしい。


「いや、すばらしい、これからが楽しみだよ」


ちょっと強者感のあるセリフを言いながらでは有るが、実際はお腹を押さえながら椅子によろけながら座るアラミールであった。


「しかし、前の見た目と大きく違うので、クララとも相談していたのですが……自己紹介と同時にサナ君の祖霊魔法の……実演をしてはどうかと……思うのですが、どうですか?」


クララは思い出したって顔でサナと話す


「あ、そうだったな、サナ、何かやりな、色々説明するより手っ取り早いだろう」


サナもそれが良いよねって感じでボヤく


「ああ、そうだねー、何しようかな?」


アラミールはかすれた声で言う


「まぁ、何か大勢にみて解か…る…タイプの魔法…で、その方が……い……うぅ……」


「ん?」

「あれ?」


アラミールはお腹を押さえて机に突っ伏していた


「ええ?そんなに強くしてないよ?」


「あーなるほど、アラン、純血のエルフだろ、ライカ様に不敬を働くとバチが当たんだよ」


「あー、アラミールさん?」



へんじがない。ただの しかばね のようだ。



じゃなかった、エルフ族は女神ライカの恩恵を受けている種族である

ライカ能力を敏感に察知出来る分、効果も大きい

そのため、アラミールのダメージは想像以上だったようである

彼は女神から腹パンを食らった、唯一のエルフになった


サナとクララは救護班を呼んだ。


「さて、邪魔者は逝ったようだし、祖霊魔法はどうするかね」


クララは少し楽しそうである


「クララ、ひどい言いようだねー」


サナとクララは学園内を見て歩きながらどんな祖霊魔法を実演するか悩んでいた

ふと、サナは見慣れたモフモフの尻尾を見つける


「あ、コルサ?」


学園の中庭にある古いイチイ大木の前でじっとしていた。


「あ!!サナ、心配したんだから、今まで何処に??」


コルサとサナは手を取り合いながらくるくる回る


「コルサ、試験受かったんだね、レンジャー科かな?」


狐の尻尾が左右に揺れる


「うん。受かった、サナは何処に行っていたの?試験、どうなったの?」


「あー、それ大丈夫なんだ」


「ここって、職で棟が変わるから別の場所だったのかな?」


「あー、まぁそんな感じぃ」


相変わらず、いい加減なサナである


「あれ?レンジャー科って向こうの棟では?」


「実はね、このイチイの木にお別れを言いに来たんだ」


学園のシンボルの予定だった古くからあるイチイの木は

根元は一抱えでは足りないほど太く、幾本もの幹が寄り集まるように立ち上がっている。

昔からレンジャーに弓の材料として何度も消すられているが、

その度に癒合剤を塗られまた元気を取り戻す様にと大事にされてきた


その習慣に習い入学時に採取し卒業の時まで乾燥しロングボウを自分で作る予定だったらしい。

しかし木が根腐れを起こしており伐採が決まったらしい。


コルサは枝を頂いたものの、この木が伐採されてしまうのがさみしい


「そうなんだ……」


枯死寸前の古木……それでも未だ生きて居る所だけで赤い実を付け深緑の葉で日を受けようとしている


そう言うとサナは赤茶色で縦に裂けた木に手を当てる


「うん、まだ……」


そう言うと詠唱を始める


「――Harken to the Tree……根に触れ心を……根心照応(こんしんしょうおう)」


枝葉が揺れサワサワと音を立てる

コルサはサナが木と同化したように感じた存在そのものが認識しづらく成る。


「サナ、どこ?」


コルサの心配をよそにサナの声が微かに聞こえる……


「うん、そうか、レンジャー達に愛されてたんだ」


「うん。……そう?」


「白いカビ?」


「うん、ああ。」


「そう、」


「……なのよ」


「ええ、じゃあ、任してくれる?」


「うん、大丈夫、貴方達が一つに成っても良ければ……」


突然霧が晴れた様にサナの存在が濃く元に戻る


「サナ、あんた何処に行ってたんだい」


クララが慌てて走ってくる


「クララ、使う祖霊魔法が決まったわ、コルサ、この子(イチイの木)は大丈夫よ、許可は取った」


クララとコルサはサナが何を行っているのかこの時点では解らなかった


後にクララ達は稀有な禁呪の名前を聞くのであった


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