修道院の大掃除は進まない
「昨日はクララが、しおらしかったねー」
カームは感慨深そうな顔をする
「あんな枢機卿は初めて見たな」
サナは、くすくすと笑いながら
「怖い顔してるけど、実はやさしいのよ」
そんな事をカームに話しながら、今日から住む修道院跡を生活拠点にすべく色々な物を買い込んでいた
その中でもとりわけ大きい農具を手に取る
「とりあえず草刈りかな~」
そう言いながらサナの背丈よりも長柄の草刈り鎌を手に取り草刈りを始めようとする
「これは、初めてなんで、教えてもらわないと……」
柄は木の癖をそのまま残し、両手で扱いやすい位置に握りが付いている。
その先に据えられた鎌刃だけが、異様なほど大きい。
よく見かける“死神の鎌”だ
幅広の根元から細長く伸び、緩やかに反りながら鋭い先端に成っている。
「よっと、……んー。」
――ズサッ
「違うか?あー、一振り一撃じゃないのね?」
――ザンッ
「肩だけで回さず?うん。」
――ザザザツッ
「肩を上下させないように中心を取って?半円を……足先から肩までの可動部分を使って滑らかに?」
――シュッ、シュッ、サァッ
「なるほどー。」
いつもの事だが、サナが何かから学習している。井戸を修理しながらも、少し不安なカームであった。
「サナ?」
「ん?どしたの?」
「いや、何かやっぱ居るのか?」
サナは何もない空間を指さす
「シスターが教えてくれるって、ほら、私、“技魂インヴォーグ”出来ないし」
カームは井戸の手押しポンプに肘を置き、ちょっと仕方なさそうに見回しながら
「また、霊的な者がいるのか?」
サナは鎌を止めて言う
「あー、ちょっと違うかな、水記憶にフォーカシングして私が引き出してるのよ、言葉で言うから会話みたいに聞こえるけど、まぁ実際は情報を読むための解除キーみたいなものよ」
「居ないのか?」
「居ないけど、居るよ。今はまだ、この現象を言語化する概念は確立していないね」
「うーん」
「居る部分は、私たちがここで生活して記憶を重ねていけば、だんだん居なくなるよ」
「そんなもんか?」
「うん、そんなものだよー。えへへ。ちょっとコツを掴んだよ、後は黒いローブを着れば完璧かな?」
「それ、死神だよね、誰も見てないぞ?」
「いや、シスター居るじゃん」
「おい、生きてる人間以外もからかうのヤメロ」
「へへー。面白いじゃん、シスターに草刈りを指導される死神とかー」
「誰も見え無いから、やめなさい……」
相変わらずでは有るが、サナの見えている世界は普通の人の世界とは少し違うのかも知れない。
そんな事をしている内にヴァリシアとヨハンがやってくる。
「サナ、手伝いに来ましたわ」
ヴァリシアは魔族を何人か連れてきていた。
馬車にはいろんな資材を積んでいる
「お家が石造りでしょう?人工ダンジョンの職人を連れてきたわ、環境の整備のエキスパートよ」
「ありがとう、ヴァリシア、裏の切通しの部分、気の流れが悪いのよね」
屈強な男達が馬車からわらわらと出てくる
ヴァリシアは凛々しくも直ぐに職人に指示を出す
「あ、裏の様子を見てもらえるかしら?」
「任せてください、お嬢様の盟友とあらば、丹精込めて働かせていただきます。」
カームは不思議そうにして小声でサナに問う
「なぁ。サナ、ヴァリシアって神官達から様付けで呼ばれたりするし、今もお嬢様って……」
「ああ、魔族の方ではちょっと良い所の家みたいね」
「え?初耳だ、それって……」
そこに荷馬車の隅から仲介者のヨハンが出てくる。
「ふー。着きましたか、馬車を同伴出来て助かりました」
屈強な魔族の男衆と一緒だった為か疲労の色が見える。
ヴァリシアに馬車の相乗りを誘われてホイホイついて行き、
馬車に乗れば屈強な男衆がいて驚き、
断るに断りきれずここまでむさ苦しい中我慢したのは内緒である。
因みにヴァリシアは御者の横で道案内していた
「あ、おつかれさまです。どうでした?」
サナはなんとなく察したのかちょっとニヤニヤしている
「はははは、いやはや、大変でした……。カエローリア王国の基準を満たしており、問題ありませんでした。あ、これを」
少し厚手の生成り色の紙を一枚取り出し渡しながら
ヨハンは、サナに目配で“イジらないで”と、お願いをする。
サナは“いいわよー”と言った笑顔で答える
「環境値 静置 煮詰 金属板試験 クリーン反応……全部問題なさそうね」
ヨハンは安心して報告する
「はい。少し前に騎士団も飲料補給を行って居ますので、確かかと思います。サナ様なら、既にお分かりに成って居たのでは?」
「念のためよ、私たちが見える世界を、この世界に落とし込むのは意外と難しいのよ」
書類を見てサナは満足げだ。
ヨハンは井戸の様子を確認する
「手押しポンプも問題無さそうですね。一杯頂けますかな?」
こういう時ヴァリシアは機転が利く
「はい、どうぞ、めしあがれ」
ヴァリシアはそう言うと水の入った木のカップを渡す
ヨハンはヴァリシアに水を用意してもらって上機嫌だ
「くううぅ。確かに、美味しいお水です。」
ちょっとしたパフォーマンスなのか、ヨハンは毒見と言わんばかりに、美味しそうに飲む。
一仕事終えたように満足げだ。
「ヨハンさん、よかったなぁ……。内見の時は、イジられっぱなしだったからなぁ」
カームは、ヨハンさんの気持ちが痛いほど解った
「お嬢様、確かに裏の土留めの部分は水と空気が滞っていますね」
「じゃあ、土壌改善からの土留の作り直しね、任せるわ、私は家の中をするわ」
そう言うとヴァリシアは部屋の中に消えていく。
何とも、動きが早い。
馬車は資材を下ろし次の資材を取りに行こうとする。
「俺達も足りないものを買い出しにいくか、ヨハンさんも町に戻りますよね。一緒に行きましょう」
ヨハンはお辞儀をして笑みを浮かべる
カームも買い出しをして魔族の職人になにかご馳走を作りたそうだ
「助かります」
「そうね、……ヴァリシア留守を頼めるかしら?」
そう言いながらサナはヴァリシアを探す
「行ってらっしゃいませ、奥様、旦那様」
「へ?」
変な言葉を投げかけられ、振り向いたサナは、カエルが潰された様な声で驚く
「ゔぁ……うぎゃう」
何の冗談だろう?ヴァリシアはメイド服に着替えて居た。
「家の仕事をする時は、その格好が普通だと……我が家にも居るし……」
ヨハンは何故か直立不動で涙ぐみながら
「すばらしい……」
とピクリとも動かない
ヴァリシアのメイド姿は露出こそ少ないが、普段の露出度の高い服からのギャップでよけいに艶めかしい姿だった。特に一部サイズが合っていない場所は何とも言えない
カームは驚きながらもかろうじて問う
「だれが?言ったんだ?そんな事……」
自然と視線がサナに集まる
「そんな事……言った……ような……きが……ぁ」
カームが何となく納得する。
「いや、こんなエロく成るなんて聞いてない、眼福眼福……あ、でも素敵ヴァリシア」
そう言いながらヴァリシアに抱きついて誤魔化すサナだった
ヴァリシアは抱きつかれたまま冷静に言う
「奥様、明日は学園へ顔合わせに行くのではないですか?ご準備は大丈夫でしょうか?」
ヴァリシアは成りきっている。
サナの顔が青ざめる
「あ、まずい……何の準備も……」
そんな中、凛とした声が響く
「大した準備は要らないよ、明日は身一つで、おいで、」
クララだった。
「私も推薦している以上、ついていくよ、容姿も変わってるから、その説明に付き合うわ」
突然のクララの登場にサナは驚きながら
「あ、そなの、へへ、よかった」
クララは怪訝な顔をして言う
「なんだい、こりゃ、ヴァリシアに何させんだい?まったく、」
ヴァリシアは深くお辞儀をして恭しく言う
「クララ枢機卿猊下、今日は、お越し頂きありがとうございます。大変申し訳ありませんが、当家は家財道具が揃っておらず……」
「ちょ、ヴァリシアやめて、やだ、あなた、※技魂インヴォーグつかってない?」
※技魂インヴォーグ
主にソウルリンカー系の能力。
霊や魂に残る技能や記憶へリンクし、その技能の一部を術者自身の身体を介して使用する能力。
クララは少し呆れている
「誰の魂をインヴォーグしてるんだい、まったく、魔法を無駄に使いやがって、魂の許可をよくだしたね?」
クララは霊や魂ににもツッコミをする
恭しくヴァリシアはカーテシーをして見せる
ヴァリシアの本気が何処までか解らない一同であった




