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霊廟事件後#02:時層の奇跡と逃げる神

結局、忍び込むのは止め、見舞いを装って普通にロレインの部屋へ向かった。


こっそり治療してロレイン本人には秘密にしてもらうことにしたサナ達だった。


「カルラ総長、来て頂いたんですね。」


総長と呼ばれカルラは少し照れた仕草をする


「ああ、まだ総長と呼んでくれるんだな……どうだ、調子は?」


「はい。神官たちの努力も有って、命は繋がったようです、ちょっと不便ですが」


残った腕で器用に車椅子を自在に回していた。


ヴァリシアは治療履歴を見ながら難しい顔をする。


「※神癒と神性生体もあまり効果なくて…でもエレメント治療が効いたんですね」



※この世界では1神癒 2神性生体活性 3元素治療 4祖霊治癒 5魔工医療

の5系統があり状況によって使い分けられている


「あ、それ、ちょっと呪いの匂いもするね…」


サナがロレインを前にクンクンと嗅ぐ動作をする。


「でもその呪い、向いている方向が違うね……あ、だから助かったんだね」


ロレインは 何この子?って感じでのけぞる


本当は霊廟で見たセシアン界のライカの世界を腐食するための力がそこに残っていたが、

サナはそれ以上喋らなかった。


ヴァリシアはやっぱりねという感じで察し、話を進める


「さて、今から起こることは秘密にしてほしいのですが」


ヴァリシアは両手を後ろで組みお尻を突き出すような仕草でドアの鍵をかけ、

簡単な封鎖術を扉へ掛けながら優しく語りかける。


セクシーなヴァリシアには似合わないその仕草のギャップ萌えは

ロレインを色んな意味で緊張させる。


「えぇ? あ、は…い? 一体どうしたんですか? 俺、もう死ぬんですか?」


ロレインはヴァリシアの色気に押されるがサナがロレインの傷を興味津々で見に来るので少しタジタジに成る


そこにカルラがロレインの肩に手を置く。

絵図からして何かロレインが追い詰められているようにも見える


「上手く行くか解らんが、新しい治療法を試そうとおもう。」


ロレインは治療と聞いて安心する。

ヴァリシアが居ることを察して祖霊系の治療なのかと思い


「沙庭系の方の治療は珍しいですね」


「ええ。あ。でもサナ、欠損の回復って本当に可能なの?」


ヴァリシアは心配そうにサナの方を見る


「うん。時間のレイヤー を使って事象を書き換えるって」


「時間のれいやー?」


一同不思議そうな顔をしサナを見るが、

そこに いつものサナは居なかった。


「時間は未来から流れ……」


先程まではロレインの傷を興味津々で見ていた面倒くさい子どもはそこに居なかった、

ヴァリシアは不安そうに声をかける


「えーと、サナさん??」


「浅瀬の川の様に人が何処を向くかで……早くも成れば遅くも成るの……」


サナの瞳は金色に光り、動かす手には光の粒子の様なものが纏う


「サナと私はその流れの外に……」


もう、その姿はライカであった、しかし姿そのものが変わったわけではない。


幼さを残した表情は消え、声音も、目線も、立ち方さえも別人のように静まっていた。


そこに立っているのは確かにサナの身体だったが、

それでもヴァリシアたちには、もうサナには見えない。


前に出ているのは――女神ライカだった。


「量子場は固定されて無く…創発的で媒介を状態化する」


淡々とヴァリシア達の理解できない言葉が続く


「因果関係の形而上は…いや…」


ライカが動く度に空間が揺れ、光の粒子がその揺れに合わせて舞う


「未来から過去、過去から未来へ閉じた繰り返しを…いま…」


「時層事象改編」


――Chrono Layer Recast (クロノ・レイヤー・リキャスト)


突然、空が泣いた。

不気味な空の異音、ラッパや金属音のような謎の大音量が響く。


その音は荘厳でありながら、どこか破滅を予感させる音だった。


まるで天蓋そのものが軋み、

世界の終幕を奏でているような響きが辺りを満たしていく。


――揺れる。


地震ではなくその音に建物が響く振動だった。


空が暗くなり音が鳴り止むと、暗くなった空から薄明光線がさし。


建築物の一部がスポットライトを浴びたような状態に成る。

そこから数人の天使がゆっくりと降りてくる。


しかし、時間の観念が変わったのだろうか?

ゆっくり降りてきているはずが、認識した瞬間には建物をすり抜け、

ロレインの周りに天使たちが降り立っていた。


「あ、ああ…」


ロレインは天使らしき物をかろうじて認識する。


天使たちはロレインを囲むと手をかざし…


「………………」


もはやその言葉は聞き取れず、形も光としての認識しか出来なかった。


その瞬間、再び謎の大音量が響く。


すると視界が戻り——


ロレインは床に倒れていた。


その手足は復元されている。


呆気に取られていたヴァリシアが涙目で言葉をもらす


「ちょっと、何が “こっそり”よ、これ」


カームもカルラも軽いパニックに成る


「おいおいおいおい。」


一番に動いたのはライカ聖教の者たちだった。

ロレインの治療に来ていた神官と、

霊廟事件の調査係の神官たちは魔力の流れを感じる


「あの波動が女神ライカ様の波動!!」


凄い勢いで足音が近づく


「今直ぐ光の中心だった場所に向かえ!!」


ものすごい緊迫感が漂う声を出している。


それはそうだ、霊廟事件でさえ、女神ライカ降臨では無いかと言われている。


その状況で、再び女神ライカの波動を感じさせるこの騒ぎだ。


カルラはとっさに逃げる準備をしながら声をかける


「カーム、どうする?」


カームはサナを肩に抱える


「とりあえず逃げるか」


いま、神官達にサナを会わせるわけには行かない。

その波動自体がサナから発せられている事に気づかれれば話はややこしくなる。


カームとカルラが窓に手をかけた瞬間——。


「聖威収束――ホーリー・ブレイク!」


正属性の光が扉へ殺到する。

表面を覆っていたヴァリシアがかけた術式が白く浮かび上がり、細かな亀裂を走らせた。


「下がれ!」


戦鎚を持った神官が一歩踏み込む。


「聖別――コンセクレイト・ブレイク!」


轟音。

蝶番ごと扉が内側へ吹き飛んだ。

正属性の魔法と武器でドアが破れる


「やだ、慣れてますの?」


神官たちの解錠、突撃の連携の旨さに驚く。

ヴァリシアは慌てて呪文を紡ぐ。


「念のため……」


心、霞め。識、散れ――煙惑心散

※――Mind Haze(マインド・ヘイズ)



※煙惑心散(えんわくしんさん)/Mind Haze(マインド・ヘイズ)

焦りや動揺に干渉し、相手の注意と認識を一時的に散らす精神系術式。

記憶を消すものではなく、判断や思考の焦点を曖昧にする。



それは高度な魔法では無く慌てている人を煙に巻く程度の民間魔法、

隠蔽・攻撃・強制干渉など一定以上の術式強度では無いので警報魔法陣も作動しない。


状況的に神官達は効果が有ったようだ。


「ここに、居る人はこのまま、御留まりください」


ギリギリのタイミングでカームとカルラは外に出ていた


入ってきた神官たちは女神の残滓を探る。


「あ、貴方はヴァリシア様では?」


ヴァリシアはちょっと表情が強張る


「はい」


神官たちは落ち着きを無くしている


「ここで一体何が」


ヴァリシアは仕方なさそうにしたが、直ぐに表情を変え、跪き胸の前で指を合わせて祈るポーズを取る


「素晴らしい御力でした。眩しくて何も見えてませんけど」


そう言いながら倒れているロレインを軽く足で小突く、

神の御業を受けた人に対して結構ぞんざいな扱いをするヴァリシア


「ううううっ」


呻く、ロレインを見て神官たちは歓喜する


「おお、ロレイン殿、手足が戻っておられるぅ」


「ヴァリシア様、これは神が、女神ライカ様が来られたのではありませんか?」


ヴァリシアは変わらす跪き胸の前で指を合わせて祈るポーズで言う


「素晴らしい御力でした。眩しくて何も見えてませんけど」


「おお、神よっ」


「ヴァリシア様、神は何処に女神ライカ様はぁ」


「素晴らしい御力でした。ソウルリンカーの私では上位の神には届きません。それ故に、きっと……」


「まさしくライカ様が来られたのですねヴァリシア様っ」


「素晴らしい御力でした。眩しくて何も見えてませんけど。それと私に対して“様”呼び、止めて……」


一方、カームとカルラは屋根伝いで逃げていた。


少し路地が賑わっている。

神官の護衛として派遣されていた騎士団第一部隊が路地の出入りを制限していた


「騎士団……第一部隊か、ちょっと突破するには骨が折れるな」


「カルラ、あんたが昔鍛えた部隊か、面倒だな」


上手く隙を突いて路地に降り、


施設のある段丘を抜けた……


「ふう、ここまでくれば……」


カルラは安堵する


「だな」


カームもため息交じりだ


「うう。カームの肩がお腹に食い込んでゲロ吐きそう」


サナは青い顔をし、ふらふらしている。


そこにもう、ライカの気配は無かった。


「でも、そんなに逃げなくて良くない?誰も追ってきてないよ」


カームとカルラはそのセリフに“はっと”気がつく。


「それも……そうか?」


カームは落ち着きを取り戻したがサナに問う


「しかし、治療って言ってたのにありゃ何だ?」


サナは呑気な顔で言う


「あー、ライカ様基準?」


「なぜ、疑問符?」


そこに、ひょっこりとカルラの後輩が来る。


「あ、カルラ総長、ちょうど良かった。」


カルラとカームは“びく”っとし、ゆっくり振り返る。


今にも武力行使しそうな二人であるが……


そんな事は、お構い無しに後輩は続ける


「リゾート施設の宿帳にサインもらうの忘れていまして、サインもらえますか?」


ふと見ると護衛隊の宿舎前だった。


「所で、観光ですか?カームさん。あれ?可愛い子連れていますねー」


「娘さんですか?あれ?こんな大きい子居ましたっけ?あ、こっちも聞き取り署名全員分お願いします」


サバサバと作業を進める後輩にカルラは面倒そうに、ヴァリシアも含めて4人分の名前をまとめて書き込んでいく。


先程の騒ぎの対応を聞き出そうと問いかける


「所で、さっきの騒ぎはどうなっている?」


「え?何か有りましたか?確かに神官たちが騒いでましたが…」


「あれ?さっき凄い音が鳴ってただろ?」


「え?そうですか?まぁ、そんな事より早く戻ってください。

新しい教皇も来るって話ですよ。」


カルラとカームは毒気を抜かれサナを連れて施設に帰った


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