24話 サナ≒ライカ
「サナ、方法は無いのか?」
気がつけば、サナは今虚ろな状態だった。
カルラの呼びかけにサナは答える。
しかしその声と口調は全くの別人の声とサナの声が二重に聞こえるようだった
「エルンが用意した霊廟を起動するわ」
「え?」
「ん?」
「は?」
三人は各々に間抜けな声を出した。
それも伝説の聖女の名前と聞き慣れない言葉を聞けば当然だろう。
それをよそにサナは、いや、ライカは続ける。
「起動する支柱はあれね…エルン凄いわ…」
ライカは滑るように優雅に歩き霊廟の奥に成る古代文字が書かれた柱まで行ってしまった。
明らかにサナではない動きに慌ててヴァリシア達も追いかける。
ライカは古代文字を見ながらホコリで見えない部分を手で払っていた
ヴァリシアが追いつき呟く
「その古代文字は解析が途中で読めずじまいの…」
単体では古代語で読めるが文章として並べると意味が成立しない。ヴァリシアとサナはこの古代語に以前から興味津々だったことを思い出す
「そうね、これは言葉じゃなくCodeなのよ」
「こーど?」
ヴァリシアはキョトンとしていた
そんな事をしている内にセシアン界の生命体が肉塊に引き寄せられてサナとヴァリシアに気がつく。
妙な言葉を発しながら金切り声なのか高い金属音と地を揺るがすような低い声を出しサナとヴァリシアに向かいはじめ飛びかかる
まるで、探し続けていた存在を見つけたかのように…
巨体が凄まじい速さで動き飛びかかろうとする
「おい、やべぇぞ」
「来るか?」
カルラとカームは攻撃と防御で動きを止めようと間にはいった。
――しかし。
セシアン界の生き物は物理的にカルラとカームをすり抜けてしまう。
「かはっ」
「ぐぅ」
と同時に力無く二人は倒れる。
「これは…」
セシアン界の化物は障害も無くサナとヴァリシアまで迫る
――グオォン!!
鈍い音がした。
サナは左手で6メートルは有るであろうセシアン界の化物を止めて見せた。
手は触れていない、僅かに空間が空いており、
その隙間にエネルギーが凄い勢いで反応しているのが見て取れる
小さなその手は力を入れて居ないようだが、見えない手が怪物の頭全体を握り締めているように見える
化物はもがき苦しむが、それでも勢いは衰えない。
触手の様な触覚の様な物が押さえつけられても尚、接触しようと蠢く、
しかし近づいた触覚は墨汁を水に拡散したかのように薄く消えていく
サナは怪物を押さえたまま、闇の向こうを覗き込んだ。
影が一つ、二つ――数える途中でやめたように、小さく息を吐く
「面倒ね…そんなに戦えないのよ」
サナは右手を斜め上から振り下ろすと、
勢いが反転したかのようにセシアン界の化物は弾かれてバウンドする。
バウンドし巨体が跳ね上がろうとした瞬間、
水晶の結晶が無数に槍のように床から突き出て串刺しにし、
更には空中から化物を包むよう水晶の槍が化物を差し止めた。
水晶の結晶の槍は紫や複数の色を巡り、
その光が照らす空間がいきなり爆発…のように見え空間が爆縮する。
一瞬引き込まれる力が作用すると同時にその空間に空気が充填されるのであろうか?
風圧に押し戻される
するとセシアン界の化物は空間ごと跡形も無くなっていた
ヴァリシアは何が起きているのか必死に理解しようとしていた。
その様子を見てなのか、元々サナと繋がっているからか解らないが少しだけ解る気がした
ライカはカルラとカームを見ながら言う
「存在するための周波数が違うのよ…魂を少し痛めただけ、少し休めば二人は大丈夫よ」
サナはヴァリシアとも繋がっている。
ライカはヴァリシアの心配する心を感じたのだろう更に続ける
「さっきのは、古い技で…量子物理学で言う光の周波数を自在に操る物理法則…物質的波律転成よ」
聞いたことのない言葉をそれでも復唱しようとして口ごもる
「リョウシ…? ハリツテン…?」
問い返す余地も、理解を待つ間も無いまま、ライカは静かに遠ざかっていく。
そしてゆっくりと、ライカは霊廟を中心に囲むように8本ある一本に手を触れる
「エルン、見ているかしら?…」
そう言うとライカは呪文を唱えた。
ヴァリシア達には認識出来なかった、所々認識は出来るが、
言葉自体聞いたことの響きで聞き取れない。
「本来なら大陸ごと…せめて国ごと…けれど、サナが霊廟だけって言うからね…」
サナは――いや、ライカはちょっと仕方なさそうに囁く
「――――」
ライカは愛おしそうに両手を天にかざす
それにつられてヴァリシア達はおもむろに上を見上げる
ヴァリシア達の目に写ったのは地下の霊廟の天井ではなかった
まるで水の底に沈んで水面を見ているような空の揺らぎ…空間はいつの間にか書き換えられている
その揺らぎからは幾筋もの光が降り注ぎ、霊廟の中を静かに射抜いていた。
「これは…」
ヴァリシアはその光を見ながら涙を流していた
カームもカルラも自然と涙が出し、そのなんとも言えない感情に困惑していた
セシアン界の化物はその光に当てられナメクジのようにその体は溶けているような飛散しているような状態に成って小さく成っていく
それは夜でも昼でもない。海でも空でもない。
世界がまだ名前を持つ前の、祈りだけで満たされた場所のように見えた。
そして静かに…
光が霊廟中心に魔法陣の様な物を書く。
その魔法陣は美しくひかる。
天井は空のようにも見えはじめ、いつの間にかその天井は空高く感じられる
薄く雲のかかった空にぽっかりと円い裂け目が開いてその中に幻日環の様に光る。
雲はその縁を淡く白ませながら稲妻の輪を描き、
その内側だけが、まるで夜の深みをくり抜いたような青を湛えている。
そこには無数の小さな光が散っていた。
ヴァリシアは気がつく――
その幻日環は自然を使った高度な魔法陣、
幻日環には複数のアークが存在する。
パリーアーク、ラテラルアーク、環天頂アーク、タンジェントアーク、等
そのアーク自体が魔法陣の役割を果たす。
その自然を使った…いや世界を使った高度な魔法術式。
「あぁぁ」
ヴァリシアは声を漏らす。
女神の呪文は私たちの常識の域を余裕で超えている。
そして、ゆっくりと八つの影が降りてきた。
誰もが最初、それを天使だと思った。
だが、翼を持つ者は二体しかいなかった。
一体は幾重もの白銀の翼を広げ、もう一体は透き通る羽から光の粒子を降らせている。
その傍らには、長い光の帯をまとい、空を泳ぐように降りる者がいた。
背に幾重もの環を負う者、亡き者の面影を宿す者、獣とも護法神ともつかぬ姿の者もいる。
さらに一体は、輪郭の内側に星空を湛えていた。
最後の一体だけは、翼も光輪も持たず、もっとも人に近い姿をしていた。
それでも、その者が降り立つと、ほかの七体は自然と姿勢を正した。
ヴァリシアには、彼らが同じ種族だとは思えなかった。
天使、飛天、祖霊、護法神、星霊。
どれにも似ていて、どれとも違う。
だが、いずれもオーバーソウルであることだけは、ヴァリシアにも分かった。
ライカの元に集い、彼らは何か一言ずつ言葉を交わしているように見えた
オーバーソウルたちは、ふわりと魔法陣をなぞるように巡る。
翼や光帯、幾重もの環から、淡く光る粒子が振りまかれていく
それが魔法陣の光を埋めボンヤリと間接的に淡い光に変える。
オーバーソウルたちは一人一人 柱の前まで行くとそっと触れた。
8個の音が分散和音となり心地よい響を成す
それぞれに異なる印を示し 各々の魔法陣を展開する
そうすると 柱の 古代文字が淡く脈打ち、その魔法陣と共鳴する。
そして、オーバーソウルたちは柱に溶(解)け込むように消えていった
それを見たライカが再び呪文を唱え始める。
――それは呪文を超えて歌のよう
しかし、人間にはライカの声は聞こえるが認識は出来なかったが、
ヴァリシアだけはサナと魂が繋がっているため少しだけ呪文の意味は理解が出来た
優しい祈り、根源的な救いの祈りを感じその場に座り込む。――
Da bedenn ha ma fedenn
あなたと、わたしの祈りは
Evel an dud, skoet gant ar glav hag ar glizh,
人が雨露に打たれ一つに結びつき
en em liammont en unan,
hag a-nebeudoù e cheñchont o doare-bezañ.
やがて“ありよう”を変える
Ha pa vez gwan nerzh pep hini,
pa zastumer anezhañ tamm-ha-tamm,
個々の力は弱くても積もれば
e saver ur bed evel ur roc’h,
na c’hall den ebet terriñ.
だれも壊せない巌のような世界を作る
Pa grog ar bed da ziskregiñ,
世界がほころび、
ha pa ne vez ket gwelet ken gant Doue,
神から見てもらえなく成っても
hep ma c’hallfe den ebet hon harzañ,
誰にも邪魔されること無く
evel ur mennad da viken
a gresk sioulik, sioulik.
静かにそだつ常しえの、祈りのように
――
オーバーソウルたちの残した光の粒子がライカの歌声に共鳴し、魔法陣の上に幾何学模様を描く。
その幾何学模様は形が変わる度に空間に溶け出し光が天に舞い上がっていく
共鳴はオーバーソウルの消えた柱にもリンクし、魔力が高まるのが解る。
ライカの呪文なのか歌なのか解らないがその声に柱に消えたオーバーソウルたちも追随して歌っているようだった。
――柱の内部を、人類はまだ知る事は無く
――人の認識では捉えられない空間。
――今そこを歩めるのは、オーバーソウルだけだった。
その場の誰も知らぬ柱の内部で――
中は水晶の様な螺旋階段が有り天使の素足が触れるたび煌めき、
柱に配していた古代文字が共鳴する。
一歩、また一歩とライカの歌声に合わせて――
――
オーバーソウルたちは柱の中をゆっくりと降りていた。
一段――
その身に光の粒子が蓄えられる
一段――
身体を包む光から粒子が舞い上がる
一段
舞い上がった光の粒子は柱の中に書かれた古代文字と共鳴する
一段
共鳴した古代文字は外のライカの声と共鳴をする
一段
オーバーソウルたちはライカとの共鳴に歓喜し又歩みを進める
ライカ密教の謂れでは階段は英石と魔石…
それと人類では作ることの出来ない物質で出来ていると言われている。
魔力も、魔素も、魂も、一歩一歩増幅される
何かのエネルギー装置とまで解って居たが、
その使用方法は聖女エルンがこの世を去って永遠の謎とされていた
ライカの歌声に合わせて…
一段降りるごとに魔力は増幅され、さらに深部へと導かれてゆく。
一歩ごとに、蓄えられるエネルギーが増していく。
先程の幻日環の光のアークが全て魔法陣で構成され、空がまるで天体のように見える
エネルギーの増幅によってオーバーソウルの落としていった粒子は、美しい幾何学模様を作りながら跳ね上げられ、その粒子はまた空に舞い戻っていくようだ
その一粒から幾何学模様が作られ 幾重にも重なり向こう側が見えなくなるほど重なって無数の光点は像を結び始める
凄まじい開放感と浮遊感が押し寄せる。
カームとカルラは、その感覚に呑まれるように身を委ねているが、
受け止めきれてはいないようだった。
修行の賜物だろうか、サナと繋がっているからだろうか?
ヴァリシアだけが幽渡エリゾンの状態を思い出す
幽渡エリゾンよりも圧倒的な開放感
それと同時に、四人の走馬灯が、まるで一つの川へ合流するように混ざり始めた。
いや、走馬灯とは違う。
ただ互いの過去を眺めているのではない。その時に感じた喜びも、
痛みも、言葉にできなかった思いも、自らの経験として内側へ流れ込んでくる。
カームはサナがライ麦畑を歩く姿…
ヴァリシアは、幼いサナと出会った日
カルラは二人の弟の世話をしていた頃を
誰の記憶なのかという境界さえ、次第に意味を失い…相互する。
「えへへ、ヴァリシア、朝起きると角に枕刺さってない?」
「カルラ総長任命おめでとうございます」
「サナさん、アレほど地形を変えるほどの秘術は止めてくださいと…」
「ねぇカーム、一緒に暮らそうよ」
「ヴァリシア、この人間の子を頼む…」
幾つもの出来事を追体験する。
それは自分自身の記憶だけではない。誰かの人生さえ、自分の経験として流れ込んでくる。
やがて心が解き放たれた時、自分たちのいる空間が、ひどく小さな球体になっていることに気づいた
それはライカの手のひらで宇宙が青く光っていた
今度はその光も色とりどりに光り始める
ここに世界を開闢しているかの様…
自分たちはライカの手のひらの中の宇宙にいると感じるのに 更に俯瞰して女神ライカの全体像も見える
「私たちはライカ様の手の球体に居るのに ?」
ヴァリシアは…自分達は死んだと思った。
しかし、全てを、手放してしまい…とても心は楽だ
そして、柱の中の空間のオーバーソウルたちは深部に近づいていた。
足元の階段は薄く見えなくなってくる、
エネルギーの周波数が変わりオーバーソウルしか認識できないのであろう、そ
れでも一歩、一歩、ライカの歌声に合わせて――進む。
一段
歩みを止めない
Pa grog ar bed da ziskregiñ,
一段
ライカの世界とセシアン界の境界近くまで来ていた。
ha pa ne vez ket gwelet ken gant Doue
一段
もう見え無い階段を降りる
hep ma c’hallfe den
一段
既存の空間は無く、
オーバーソウルたちは認識する…
ebet hon harzañ,
一段
ここはもう非終端領域
evel ur mennad
一段
8本の古代文字の帯が螺旋状を描いている
da viken
一段
その螺旋の中心を祈りと言う一本のエネルギーの柱が通りぬけ…
a gresk sioulik, sioulik.
やがてオーバーソウル達が願いと祈りにほどける時、ヴァリシアだけは感じていた
「空間が畳まれているの…それを解き始めている?」
ライカの手のひらの中に有る宇宙は更に光り
ライカはその宇宙を愛おしく見つめる。
やがて、ライカの正面上にふわりと、もう一人の女神が現れる
随分と大人の雰囲気を醸し出す 女神だ
ライカの手のひらの球を上からそっと包むように手をあてがう、
「あー、ここで エルンスト様が来るのかぁ、すごーい」
その声は サナの声であった
エルンストとライカは
ハッとその呑気な声に気がつき 二人とも微妙な顔をする
だが、すぐに2人とも クスクスと 笑い…
―― そして ――
全ての認識力を失う
さらに世界を追体験し、そのあまりにも多い追体験にヴァリシア達は意識を失う、
その狭間で女神の声を聞いた。
それはライカの声だったか、エルンストの声だったか、
もしくは声ではない新しい共通思念言語なのかも知れない。
「あなたの地に願いを送るわ」
「あなたが蘇る為の、眠らされたソースコード」
「使えると良いわね…。いいえ、きっと使えるわ、見つけてね…セシィー」
霊廟は消えて無くなって居た、正確に言うと中心の霊廟墓標の有った部分、直径10メートル程の床が抜け堕ちてその穴に霊廟全体にかかっていた結界が凝縮されて蓋をしていた。
その時の空はヴァリシアの見た空と同じ空が展開されていたようだ。
人々は口々に言う
「星と雲と光と虹が魔法陣に成っていた」
「天使が8人降りてきた」
「エルン様が戻ってきていた」
「きっとライカ様の祈りだ」
などなど、人々は驚きと恐怖と例えようのない安心を感じ、皆、
感謝の祈りを捧げていた。
奇妙なことに、ヴァリシアたちの認識が途切れたその瞬間、世界には何かが起きていた。
だが、その一瞬だけは、国中の誰にも知覚されず、誰の記憶にも残らなかった。
そして、ヴァリシア達が気づくのは3日後である
小説中の詩の部分です。
あくまでイメージの足しにしてください
https://on.soundcloud.com/4jUaCDju0SwY5QlCgy




