21話 閉ざされた霊廟
ヴァリシアは力なく座り込み、目の前の結界を見つめていた。
「手詰まりよねぇ……、リンク出来る霊達はいるかしら……」
それでも、ソウルリンカーの力を使い、周囲の霊達へ干渉を試みる。
眼の前の現象について、霊達に情報を求めたのだ。
これは本来ソウルラウンダーが得意とする分野だが、他に手立てもなく、
不慣れな降霊と霊視にまで手を出していた。
「そう、なるほど……ラウンダーの新しいタイプの防御術……そんな事する人は多分……」
霊達から伝わる断片的な情報を頼りに、術の構造を探る。
完全に理解できた訳ではないが、解除の糸口らしきものは見えた。
ヴァリシアはそのまま、解除を試みる。
「あん゙、ん、あぁ…」
ヴァリシアは相変わらず、術で自分の能力以上の事をすると無自覚に甘い吐息が出る
カームはぎょっとして言葉をもらす
「ま、またか…」
何で術を使う時こんな声出すんだろ?とカームは不思議だった
当のヴァリシアは自覚がない
「どうして?誰も居ない?…」
ヴァリシアは周囲を探るように視線を巡らせる。
その様子を見てカームは問いただす
「どうゆうことだ?」
ヴァリシアは気怠そうにカームを見上げる、なんともセクシーだ
カームはそれを見てたじろぐ。
「不謹慎な話ですが、ソウルラウンダー達が死んだのであれば、私たちの属性上伝えたい事を残滓(空気中の水ストレージ)に残すはずなので…それが叶わないなら同胞に知らせる為に霊として残る事も多いのです…」
ヴァリシアはノロノロと立ち上がりながら言う
「それが、全く残っていないこれではまるで即身成仏したかのようで…」
信じられないと言う風に頭を振るヴァリシア
「しかも他の方々は霊そのものもが何かに縛られているような…しかも数十人生きている様な気配もします、ですが…とてもか細く…」
カームはあまり事態が呑み込めていないが相槌を打つ
「うむ…?」
「結果、情報が得られないのです」
その時、カルラとサナが現れる。
気配を消していたのか、それともカームがヴァリシアの色気に気を取られていたのか分からないがいつの間にか二人はすぐ後ろまで来ていた。
「まぁ、それはそれで、私ら沙庭職は逆にやりやすいがな。ったくお前はちょっとエロいんだよ、ヴァリシア」
サナはカルラの後ろで黒い剣を抱いていた
「枢機卿から聞いてよ、人間じゃ無理な封印らしいじゃないか」
そう言うとサナから黒い剣をもらい受け軽くかがける。
「そう聞いて、この倶利伽羅剣が効くのでは無いかと思ってね」
神がかりの物は神の異物で…、
ライカ聖教の者や、セシアンに目を付けられて無かった修験道たちはそう考えた。
それは余り表に出して良い物で無く、霊界にも影響がある。
武器の選択も容易に選ぶことは難しい。
しかし、この剣を持って行けと言ったのはサナだった、
祖霊の記憶から倶利伽羅剣なら干渉出来るのでは無いかと推測したからだ。
「セシアンもとんでもねぇ術使うよな」
カルラは準備運動をしている。
ふと、サナは霊廟の封印を見てやっと思い出した、
――この術…禁呪の…私が…立ち上げやつだ
突然激しい頭痛がサナを襲う、
――肉体と魂は美しい虹の光となり…
「門を止められず…うーはー…んー…あーうー。」
そう思い出し、冷や汗がダラダラと出る。しかし、
記憶が曖昧で解除方法どころかどんな術かも思い出せない
――でも普通の刻界結晶ドミニオンじゃないわよね?
――私さえ思い出しさえすれば…確か…思い出せ、私……?
――思い出せない……
「んーんー。へへへー。笑うしかないや、」
冷や汗をかきながら色々思い出せず焦っているとカームが声をかけた
「おい、カルラ姉、子供…こんな所に連れてきてどうしたんだ?」
カルラは何故か得意げに
「ああ、この剣は不動明王の化身みたいなもんだ、普通の人間には持てないんだよ」
カームは呆れて居たが人知を超える聖遺物は、普通の人が長く持つと体力気力を保てない、
短い間でも霊力の高い人間が数人で持ち回り術者に負荷をかけないようにしていた事に、
はっと気が付き
「その子も沙庭系か修験道系の子か?」
カルラは剣を振り回しながら言う
「あー? サナは一人で全然平気だもんな、いつも優秀だ、」
カームには、ちょうど“サナ”の部分は剣が空を切る音で聞き取れない
「そうか、なるほど、だからそんなに汗をかいているのか、辛そうだな…」
いや、汗は冷や汗で、生前の自分の術の解除方法が思い出せなくて焦っているだけだった。
「その剣で何とかなるのか?」
「ああ、刻界結晶ドミニオンみたいに動きを止めねぇみたいだしな、おそらく干渉出来る筈だ」
そう言いながら羂索を肩に掛けカルラは術準備に入る
「その先の世界はサナが知ってるはずなんだが…」
「え?サナ?その子が?」
「ん?」
「え?」
カームと、ヴァリシアは変な声を出してしまう
その時、サナは喋りだす、
「何となく、思い出して来たのだけれど…暴走したの、セシアンの禁呪を抑える為に、私たちも禁呪を…」
しかし途中から、声のトーンは変わり……
「でも、失敗だった。でも禁呪は禁止された訳では無いわ。この世界では成立しない術式……だから禁止されただけのこと。私は……」
言葉を続けるうちに、その声はいつの間にか大人のものへ変わっていた。
だが、「私は……」を最後に、そこで途切れる。
「おい、カルラ、ヴァリシア、これは一体?」
カームはサナと言う名前を聞いて驚く。
それと同時に別人に成るような喋り方をする少女に言葉を失う。
「あれ?」
サナはふと何を言ってたんだろう?な雰囲気で首をかしげる。
マジマジとカームはサナの顔を見ていた、それに気がついたサナはちょっと困ったような恥ずかしがるような感じで話しかける。
「えへへ。目が合ったねっ」
カームは驚き息を飲む
「それは…」
昔、サナとカームが初めて出会った時のサナからの言葉だった
そんなやり取りやサナの喋り方を聞いてヴァリシアは固まっていた
「あのこ…」
既視感の有る挙動を見て、フラフラと近づこうとしているヴァリシアの横でカルラはすでに倶利伽羅剣を構えていた。
カルラがいきなり扉に術を放つ。
「龍脈、焔に断て――空を裂け」
――倶利伽羅断界
剣が振り下ろされた瞬間、空間に赤い亀裂が走る。
それは炎ではなく、空の奥を流れていた“何か”が露出した色だった。
一気に結晶が離散し向こう側が見える。しかし直ぐに再構築し始める
「ふん、足りないか、ならば…」
カルラは身体を横へ捻りながら宙を回り、勢いのまま空間に対して剣を突きつける
「位相、定まれ、焔に止、」
――不動・羂索焔静
結晶と空間の赤い亀裂が押し合う。それでも微妙に押されている。
結晶と亀裂が押し合う中、その僅かな隙間をカームは見逃さなかった。
――焔雷白熾刃
術をいつでも出せる状態では身体は強化される。
それを利用し、そのまま空間を押し広げようと、身体一つで割り込んだ、それは自殺行為に近い。
――ビキビキビキビキ…
気味の悪い音がカームを侵食し、触れているところが結晶化していく、
カームが叫ぶ、
「今の内だ」
同時にサナが動く
「――だめ、」
――サナの虹彩が光る。
無意識に何かの呪文を唱えながら動き、サナがカームを引き剥がそうと勢い良く飛び出す、
つまずく様な勢いでカームにむかって突っ込んでいく
――神域界層偏移
ヴァリシアだけには聞こえて居た、少女が唱えた呪文を…
「え?これは?」
ヴァリシアは考える間もなく、飛び込んできたサナを受け止めようと腕を伸ばした。
「うぐっ」
子供をしっかり受け止めたはずだが、しかし、ライカから得た新しい身体は、
見た目に反して身体能力が高くヴァリシアとカームを押し込む形で空間にもつれ込む、
その瞬間――
三人を中心に、刻界結晶が“逃げるように離れた”
結晶化による抵抗が一気に無くなり刻界結晶の向こう側に三人とも飛び出て、カームは床に叩きつけられる
「ぐ…ああ…」
身体にまとわりついた結晶が床に飛散すると共に、カームの意識も飛散する
ヴァリシアはその驚きと共に
触れた瞬間盟友の魂と共鳴し、呼吸が止まる。
「サ…」
声が、呼吸が…
――あなた、サナ、やっぱりサナなのね
サナはカームの上に乗り、その上からヴァリシアが覆いかぶさるような形で倒れ込んでいた。
「おいおい、おまえら気が早いなーしかし、カーム無理しやがって、」
カルラは余裕でくぐって来たらしい。
その時ヴァリシアはサナを後ろから抱きしめていた。
――Medium’s Ally
盟友との再開、断片だったものがソウルリンクする…
違和感も、気配も、神の言葉も…
大きく遠回りしながら、放物線を描くように一点へと結ばれていく。
「ヴァリシア、泣いてるの?」
サナは後ろから抱きしめられて居る手をそっと包み、優しく撫でる。
ヴァリシアはその言葉を聞いてギューと更に抱きしめる。
「んん、ヴァリシア、お胸成長したね?」
「ふふ、やっぱりサナだ、きっと会えると思ってた」
「ただいま」
ヴァリシアは涙腺が崩壊しそうだったがカルラの声に我に帰る
「そのままだったら、カーム死ぬぞ?」
ふと見るとサナとヴァリシアはカームを下敷きのままだった。
「うわぁ、」
慌てて離れる二人、カームは気絶していた。
ヴァリシアはサナの額をチョンと付き
「ちょっと、サナ、前より可愛く成ってない?」
頭を掻きながら生前と同じ笑顔でサナは笑う
「へへー、良いでしょー」
その喋り方だけは、何も変わっていない、今の姿でも違和感は無かった。




