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1話 女神消失

この場所は暗く─


音も無く─


足元は床なのか、水面なのか─


金属の様な水面が少し揺らぐ…


漆黒の世界には似つかわしく無い白く美しい女神が佇んでいる─


水の様な面がさざめくと そのさざめきの少し上にまるい ぼんやりとした光が発生する。


それが無数に舞い上がり暗い世界を僅かに照らし出す

日本の蛍を彷彿させる様…………


-----ここは魂の回廊


 女神はそれを手で救い上げる。


 それはまるで、人に懐いた蛍がいるようだ。

女神はわずかに微笑み


「そう……大変でした、もう一度おゆきなさい」


 そう言うと光は強さを増し、急ぐように消えた。


 女神はここで人の輪廻を監視している。彼女の判断によって、人は再び輪廻するか、又は、適した存在領域に行くのかを監視している。


「貴方は未だ………」


「とても頑張りましたね……もう少しです」


「あの場所は…そう…、頑張ったのですね……」


 女神は輪廻の管理だけではなく、この作業を通じて世界のゆがみや、秩序、構成を確認もしているのだ。


 無数に舞い上がる魂を、一つ一つ 救い上げるようにしては労いの言葉を優しく呟く。


その声はまるで鈴の音のように……


ここには時間の観念は無く無数の魂を整理するには丁度よい空間なのだ


 ふと、一つの魂を救い上げる。

女神が声を発するより早くその魂は女神に話しかけた。


「―私はとても、幸せでした…十の神々よ…微笑んでください―」


 それは、言語ではない共通思念、女神の心にスッと入ってくる

初めての事に、女神の動きが止まる。何故だろう・・女神はこの暖かで達観した魂に対し、興味がでてしまったのか動けなくなってしまった。


「ああ、また会いたいなぁ………」


 その魂は無邪気につぶやく……


「これは……想い……願い……感謝…」


 女神の中で何かがざわめく

魂の記憶が女神に語りかける、あまりにも無邪気に感謝の念と想いと希望。

そこに働く強い魔力のような……


「あなたは……」


ここで女神ライカは意識を失う。


――――――


女神と天使たちはライカが倒れてしまった空間の修復に追われていた


「エルンスト様、ライカ様の具合はいかがですか?」


天使たちは慌ただしく移動しながらも女神エルンストに声をかける。


「大丈夫よ、今は寝ているわ。」


 天使たちを安心させようと笑顔で答える。


実際には未だ意識はない状態で眠っている状態だ。


 永いあいだ、こんな事は起きていなかった事であるが、全く無かった訳では無いことであった。管理する世界が荒廃して文明が変な方向に向かうと起こることもある神への干渉である。


 しかし、ライカはとても優秀で管理する世界はとても穏やかな世界に移行することに成功している。


 まだ、構築したばかりでは有るが、各種族の負の側面を魔族が管理し、持て余す部分をダンジョンに蓄積管理させ負の想念も循環出来る平和な世界システムがデザインされていた。


「可能性が有るとすれば…」


エルンストは神に干渉する禁呪の類を心配していた

ライカの眠っている部屋に入り、ベッドの横の椅子に腰を下ろす。


「…ライカ…」


女神の中でも飛び抜けて容姿が整っているライカの寝顔に見とれてしまう。

美しいだけでなく少し幼さも残る顔立ち、


「もう、ずるいわね……」


エルンストは色々な心配をしながらも、ライカと居る事がちょっと嬉しく思ってしまう。

そんな事を思っている間にライカが目を覚ます。


「あ、エルン」


ライカは子どもの様な笑顔をみせて申し訳無さそうに微笑む、

エルンストは気がつくとライカの頭を撫ぜていたのだ、


「んんっ。ライカ目が覚めた?」


“エルン”と 愛称で呼ばれちょっと恥ずかしそうにエルンストは話を始める。


「コホン。さっそくだけど ライカ、何か特別な魔力や干渉を感じた?これは普通では無い事よ」


女神の意識をこの空間で干渉するなど本来あり得ない。

喋り終わる頃にはエルンストは真剣な顔になって行った


「エルン、私すごく素直な魂に出会ったわ、何か喋ったのだけれど……んー。」


エルンストは次に出る言葉は欲望や憎悪を連想し身をすくめる。


「感謝と想いと希望……それが いっぱいになって…」


記録にある神への干渉出来る禁呪の類のエネルギーとは真反対のものだ。

ライカの話からは禍々しい禁呪の要素は見いだせなかった


「エルン…ねみゅい…」


エルンストはライカの眠そうな声で本調子では無い事が解る


「そうか……何か別の要因かな?まぁ…ライカ、少し おやすみなさい」


ライカを安心させる様に軽い感じの適当感のある言葉をかける


「うん。ありがとうエルン」


 数えきれぬ歳月を共にした同期の女神。

 こういう事もあるだろう──

 そのときはそう思っていた。


――――――


 ライカの居た空間は今、エルンストが処理を行っている

 魂の回廊の外は騒動が有ってから騒がしいが、それとは裏腹にこの回廊はいつもにまして静かだ。

 通常ならもっと多くの魂が訪れるはずなのに。


「ライカ……本当に優秀ね……この世界はよく出来ているわ……」


感心しつつも、エルンストの表情は曇る。


作り上げた世界の均衡が揺らぐ時、行き過ぎた力が乱用される

禁呪もそのサインの一つで有ると経験則で知っているのだ。


 しかし、その禁呪思われる術はどの様に調査をしても悪意と言う物が見受けられない。


 そもそも禁呪なのかも不確で、不安に思うのだ。


「ふう……」


心配性のエルンストは声に成らないため息を付く。


何かの間違いで そのまま 放置していいのかも知れない。しかし、

女神の回廊で不確定要素が有る事自体が問題なのだ。更に上位の領域は女神たちをまとめる神達の領域、そこはもう理の世界である

その領域の神に何と伝えるか。


「なんか、変なことに成っちゃったけど、大丈夫みたい~…」


とは言えない訳だ。どうすれば…


「エルンスト様!!」


 けたたましく飛ぶ天使や、慌てふためく他の女神たちに気がつく


「どうしたの?」


 回廊へ戻ったエルンストは、驚愕する。


「はぁ?」


 ライカを今までに見たことの無い呪文式が囲っている、


 認識と表現が正しければ、呪文式が育っている様に見えるのだ。

短時間の内に植物の様に成長し、その植物が見たことが無い文字を構成し、立体的に実り、そして種を落として発芽する様に呪文式が織り込まれ更に成長をみせる。


 同時に幾何学模様の様な霧が成長に合わせて漂う

その霧は時より粘りの有るプラズマの玉のように成ったかと思えば

呪文式の植物の成長のうねりに合わせ、発光し飲み込まれ又、呪文式が育つ。


 その度に全体に激しく光る。光る度にライカの気配が薄くなる気がした。

それを何度も繰り返す。


そんな光景がライカをほとんど見えなくなるほど覆って居るのだ。


 もはや見たことも無く尋常では無い術式に女神たちは放心状態に成ったり、恐怖したり、美しいと祈る者までいる。そう、そこには全ての感情や事象が圧縮されてそこに存在しているかのようだ


「とにかく……ライカを……!」


 エルンストは我にかえり、呪文式の隙間から僅かに見えるライカを救い出そうと近づけば何故か脱力し嘔吐する。


「……うぐぇぇ……」


「女神に吐かせるなんて……何の冗談よ……!」


 ゲロを吐きながら、怒りをにじませる。


 エルンストはライカを助け出そうと渾身の力で近づき、女神の力を行使する。


神域偏移(ディヴァイン・シフト)


一瞬、近づけた様に見えたが、空間ごと見事なまでに弾き返され、その反動で有りえない場所で全身を殴打する。


「かはっ……! 空間干渉すら通らないなんて……!」


 それに気がついたライカが微笑む。


「大丈夫よ……エルン……みて、こ■まで■■し■■行し■■なんて……」


 ライカが何かを喋って居るが、魔法陣から発せられる音と魔素によって言葉はかき消される


「でも…あぁ…解ったわ…■■目の■体と、■■の■■を■て、も■に■■…」


「うん……でも……■■■逆で、神■し■■呪とも■在し■■る……」


 ふと、何かに気がついたように明後日の方向を向き見上げる

 そして、ライカの様子が変る、


「……」


 何故だろう不完全性と不安がエルンストの心を支配する



「待って、ライカ。その術は……どうなって……

 それに……」


 殴打された体を引きずり、近づこうとする


魔力の収束──呪文の終わりが近い。


 悲壮感が漂う同僚女神達を後目にライカは優雅に・・

魔法陣の中心で祝福される花嫁の様な笑みを浮かべながら…


「ありがとう、エルン……」


「え……ライカ……?あなた……誰……?」


 矛盾した言葉をエルンストは言う。

 知っているライカの顔が何故か知らない人の顔に見えたのだ。


 魔法陣は光を放ちながらも蜃気楼のように空間を歪めはじめ、急に引き込まれると感じる瞬間と同時に凄まじい光と爆風を出し、空間ごと消え、震えた。


 物理世界でないこの場所がまるで地震が来たかのように。

 消えた空間に多量の魔素が空間を一気に埋めるように詰まり、また引き込まれる現象が起きる。


 ここで殆どの女神、天使は意識を失う。過去ここまでの禁呪被害は初めてのことであった


 ――――


 禁呪は失敗だった。


 この次元へ干渉するなど、ライカの制御する世界ではそもそも不可能なのだ。

 それでいて、肉体を贄として術を成す――それは、対をなす存在たちが女神へ嫌がらせとして行う常套の手段でもあった。


そんな矛盾を合わせ持つ今回の禁呪は今までで最も斜め上な失敗の結果だった。


 淡く揺らぐ魂がそこにあった。

 消え入りそうなほど弱いのに、驚くほど純粋で、開かれている。


 かすかな囁きが届く。

 それは、少女の残滓のような声だった。



「ごめん■さい。でも届い■た…」


 ライカの内に、微かな憂いがひろがる。

 柔らかな光となった彼女の声が、魂へ寄り添う。


「禁呪を妨害されながらも即席で再構築するなんて……すごいわ。あなたの名前は……?」


 魂は虚ろに漂う様な雲のように伝えてくる。

「私はサナ・ククル…」


 ライカは意図的に名前を言わせた。

名を言わせた途端に魂の輪郭がはっきりしてくる。


その名の響きの奥に、ほとばしる願いと祈り、そして感謝があった。

「そう……この魔力の源は、サナの強烈な“感謝”なのね」


感謝から来る整ったエネルギーが可能性を司る神の領域に今も尚干渉していた。


「感■して■の、だ■らカームの、守護霊に成るの…」


その感謝は、女神の領域を超えて、理である5神の領域まで届いていた

しかし、未完の禁呪ゆえ魂の損傷が激しい


「保てない…わね…」


 魂は突然、後悔の色を濃くしていく。

「あぁ、なん■事を……ごめ■なさい」


 沈黙が落ちる。

 その沈黙を破るように、魂はまた揺れた。


「え?女神様、ちょうかわいい、あ、すごい、身■の次は、たましいが削れるぅ」


サナの魂の光は欠損しながらも、無邪気さや探究心さえ覗かせる。


 ライカの光が穏やかに揺れ、包み込む。


「繋ぎ止めるわ……貴方は、もう転性の必要は無いようだし、興味が湧いたの…」


 ライカは小さく微笑むように光を瞬かせた。


「私も含め、理から観測されたわ、ここに区別は存在しない」


「でも感謝が理に干渉し現実に具現化し始める…」



「感謝すべき■■に収束するわ」


「わたしは、おてつだいするわね…」



 そして最後に、ライカの光が深く静かに揺れた。

「あまね■思い、は■神の理をへて…」

「■■■■■サナ……」


 本来なら、人は死ぬと肉体に依存しない情報構造体となり、親しい魂達と共に人生を追体験し、気づき、学び、成熟した魂となって女神の回廊へと至る。

 それでも、女神と言葉を交わせるわけではない。

 しかし、この魂は多くの段階を飛び越えて来たが、転生の必要は無い程の魂だった。

 

 女神ライカは、ふと何かを思いついたように、術式の綻びを解析しながら紡いでいく。

 本来なら転生という形で魂の消失を繋ぎ止められるはずだったが、間違えた理解で行われた禁呪の影響なのか、行き先がなく、うまく結びつかない。


 

「どうしたら……」


 

 そのとき、ライカはサナの記憶の断片を目にする。

 彼女の周囲を、ふわふわと記憶の欠片が漂い始めた。


 

 ライカは視線でその断片を追い、上下左右に揺れる欠片を睨むようにして読み取っていく。

 ただ、残るあどけなさのせいで、その睨み方は――叱られた子供が親を睨み返しているかのようにも見える。

 それもまた、彼女の愛嬌だった。


 

 記憶には音がない。ただイメージだけが流れ込んでくる。


 

【特殊職業を習得するサナ】

【※ソウルラウンダーとして、祖霊と向き合う日々】


※ソウルラウンダー=エレメントや霊、祖霊と話せる職業、沙庭職の一つ。唯一、女神の近辺まで干渉できる

 

【愛しい人との出会いと日々】

【禁呪を学ぶ過程】

【愛しい人との別れ】


 

「なるほど……こんな方法で……」


 

【組織が禁呪法の開示を迫る場面】

【捕らえられ、禁呪の強制執行を受けるサナ】

【数名がサナを拉致する光景】


 

「え? どちらかと言えば……」


 

 ライカの表情が歪む。黒く濁った空気が周囲に滲み始める。


 

【威圧された人間の本性】

【“人間のみを至高”とするサタニズム】

【道徳…倫理…歴史…伝統…絆…祖霊を破壊しようとする心】


 

「根絶したはずよ…神から…遠ざかる為の仕掛け…」


 

 絞り出すようなひと言が漏れた。


 

 サナの魂にまとわりつく仕組まれた幻想…やがて記憶の断片は見えなくなり、視界はブラックアウトしていく。


 

「私たちが存在する以上……やはり必然なのかしら……」


―――――――― 

(報告書:エルンスト/)


女神ライカがある魂と接触して意識失うが、程なく覚醒した。


他の女神達や天使からの報告で療養中記憶が無いような素振りを見せていたが直ぐにいつものライカに戻ったと報告があり、この事は頻繁に起こったとされている。


禁呪事件(推定)のあと、闇系とも聖属性とも違う何かの力を多くの女神が観測している。之については調査中である。


そもそも、禁呪なのかも情報が乏しい。これも調査中


女神ライカと禁呪に関わる魂の所在が掴めていない。


管理者ライカの世界は消滅していないので、ライカ自身無事で有ることを認識


また、ライカの管理下の世界で一瞬“世界開闢”の痕跡が見られた。

現在はその痕は確認できない

開闢した世界にもう一度開闢がある入れ子構造は女神達では不可能で禁止もされている為、緊急に調査を行う予定。

ライカの管理する世界に1人分の強制転生の跡が見られる。その生体はエルフで有るが、母体そのものの情報は無く謎の受肉ではないかと考えられる。調査する予定


女神エルンストが引き続きライカの世界を管理するが、構造も複雑なので簡単に干渉ができず、解析中


「と、まぁ、こんな感じかな?」


エルンストは眉間にシワを寄せながら報告書を作成していた。


「苦手なのよね…」


作業が終わって、浅く腰掛けていた椅子に深く座り直す。


「探し出してあげるわ、ライカ。待っていてね」


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