↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/44

14話 ヴァリシア視点 憑依ポゼッション歌姫になる

ヴァリシアは小さく独り言をこぼしながら足早にバーを出る、ふと見ると


直ぐ横の樽のオブジェは花がいける鉢に成っている。夜もふけているが、

燐光石でライトアップしていて可愛くもキレイだ。じっとそれを見つめる・・・。


余人が見たなら女性が綺麗な花に見入って居る様に見えるが、

それはちょっと、ちがった、ヴァリシアは、そこに人ならざる者を見ていた。


その鉢にちょこんと座った女の幽霊だった。いでたちや波動から見るに熟練の“吟遊詩人”のようだ、


「あ、うん。そうか・・丁度良いかも知れません」


ヴァリシアは手で印を組む。

その動きは胸の前で一度、来迎印(らいごういん)を作り、

その手が降魔印(ごうまいん)の形になり何かを手繰り寄せる仕草をし、


――私は囁く、声なき言語で――


いつの間に刀印(とういん)で空を切った後、手繰り寄せながら智拳印(ちけんいん)を組み、目を閉じる。


――想いをひらけ御心に届かん――


刀印を切った軌道に光が舞い周囲の空気が変化し幽隠の解が展開されその霊は、沈黙の中でヴァリシアに気がつく


「ああ、こんにちは魔族さん」


「どうしました?霊道は開かれていますわ?何か心置く事でも?」


ヴァリシアは同じ様に横に座り優しく微笑む

その吟遊詩人の霊は空中に目を泳がし何かを思い出そうとしていた。


「返事を・・していないの・・・」


霊は左の手を前に伸ばし薬指を見つめる

「私は、ここに居て、彼が来たら歌おうと、ずっと待っているのに、彼はもう来ないの」


「さびしいの・・・」


霊は顔に手を当てる


「そう・・人族は生き急ぐわよね・・私も同じよ・・」


ヴァリシアも短命な人族の友が早くに逝く悲しみは知っていた。


「歌いたい」


霊はヴァリシアの同じ周波数のある心を感じ、泣き伏せる


「技術を貸して、私が代わりに歌うわ、」


――遂げられぬその想い、再び――


幽隠の解の空間が光り始め二人の魂の共鳴を幽隠の解が馴染ませていく

ヴァリシアは右手で施無畏印(せむいいん)左手で与願印(よがんいん)を作り、くるりと手の位置を回し入れ替える。


「お願い・・届けて・・・」


声なき言語で・・・想いをひらけ、御心に


遂げられぬその想い再び・・


――汝の技を我が灯とせん――


そのまま両手を広げ霊を…抱きしめるような仕草をする。


――此の肉を媒とし


――技魂、インヴォーグ――


ヴァリシアの身体は薄っすらと全体にひかり、幽隠の解のひかりと馴染む様になると同時に幽隠の解の光ごと霊がヴァリシアに吸い込まれ同時に幽隠の解は解け、街の喧騒が聞こえてくる。それ同じくしてヴァリシアには彼女の歌声が心に響いていた


※幽隠の解(ゆういんのかい)

生者と死者の狭間に、束の間だけ結ばれる境界。この中でのみ、魂と直接言葉を交わすことができる。



ーーー



ヴァリシアは夜になると情報収集も兼ねてバブで歌っていた。しかし、今日は霊達やエレメント達からの享受が有る。


吟遊詩人の彼女の思いを遂げるのには・・


「風、星の角度、霊たちの導き・・・今日が一番良いわね・・」


ヴァリシアはそう言いながら、思いにふけり、彼女に波長を合わせバブに入っていく。

夜の風が遠くの坂を越えて、扉の隙間から忍び込む。

古いパブには、長い年月を刻んだ木の香りが満ちていた。

油の抜けた床板が軋むたびに、誰かの過去が語り出すようだ。

客は十数人。皆、彼女の歌を待っている。


ヴァリシアは歌う前に軽く客に声をかける。


「Ar ganaouenn-mañ a guzh soñjoù ur barzh kozh na c'hellas ket bezañ lavaret.」

訳:「この歌は、古き吟遊詩人の届かぬ思いを秘めた歌になります」


その声に少し注目が集まり皆、思い思いに思考を巡らす。

歌い手が古代語で挨拶する時は娯楽ではなく願いを込めた歌を歌う合図であった。


バーテンダーのジェルマンはカウンターの奥でグラスを磨いていたが


“ピク”っとグラスを磨く手が止まり…

また、手が動き出す、その瞬間から気配が変わる


この店でだけ、夜に何度も歌うが、今だけは、亡き恋人の霊を弔うように。あるいは、語り継ぐように。


ヴァリシアが、ランプの光に照らされて現れた。


吟遊詩人とは思えぬほど艶やかな衣装で客を魅了するが、笑みも浮かべぬまま歩み出す。

先ほどの楽しい雰囲気ではなく誰もが何か空気が違うと悟り、誰も声を発さなかった。

やがて、静寂を裂くように、ヴァリシアの唇が開いた。


Kanta vet, an draezhenn ruz a zeu,

何度と茜を迎え

ma ene a losc’h e tan dourenn.

魂を焦がす


C’hwi, marteze, zo distroet pell ?

貴方は帰ってしまったかしら?


Me fell lavaret, an amzer a gollas he hent,

聞きたかった、未来は迷子になって


kouezhet e’n dorn ar c’hleuzioù.

澱みの中に消えたけれど


Me, emaon amañ o c’hortoz,

私は、ここで待っている。


sioul ha dous.

ただ静かに


彼女はカウンターをゆっくりと手でなぞる。


そこは、かつての二人が座っていた場所だった。


ジェルマンは意図を察しその2つの席に〈コープス・リバイバー〉を並べた

奇しくも、先日ヴァリシアが口にしたカクテルだった。


余人には吟遊詩人の洒落た演出にしか見えない。


Emañ va c’halon amañ. Ganit, ma c’haro.

私はここにいる。貴方と共に


Me fell kanañ son ar dazont.

未来の歌を歌いたい


Ha klevi a rit va mouezh ?

声は貴方に届くかしら?


ソウルリンカーの力は願いを込める歌だけで術が発動し、

魂の彼女と彼を再びこの場で引き合わせていた。


周囲のエレメント、ここにとどまる霊達が共鳴し酒の神までもが祝福を送る

更に上位の周波数に至る神に・・


一人で歌っているはずのヴァリシアの声はまるでゴスペルのように祝福に溢れた、そこにまるで合唱団が居るかの様に心に響く


Bez’ ez eus ur respont kaer.

きっと、素敵な答えが有るわ


Me oa o tougen ar respont-se.

私はその答えを持っていた。


Me ’z kar ac’hanout.

愛してる



年老いた客が、目を閉じたままグラスを掲げる。


若い恋人たちは互いに手を握り合い、静かに聞き入る。


失った人、遠ざかった人、言えなかった言葉。


それらが、彼女の声と共に蘇っていく。


Kanta vet, an draezhenn ruz a zeu,

何度と茜を迎え


ma ene a losc’h c’hoazh.

魂を焦がす。


Pa ne welan ket,

貴方に伝えたい。


pa ne c’hellan ket touchiñ.

触れられなくても


彼女が歩くたび、床が微かに鳴る。


その音が、まるで返事のように響く。


確かに、先程のカウンターに仲の良いカップルが居るように感じる。


実際にはソウルリンカーの力は発動していないが、願いを込める歌だけで

魂の彼女と彼を引き合わせ、結ばれていた。


Kanta vet, an draezhenn ruz a zeu,

何度と茜を迎え


ma ene a losc’h c’hoazh

魂を焦がす


Pa ne welan ket,

見えなくても


e bloñv me amañ evel bleunioù an heol.

ここで咲き誇る


最後の旋律が店を包み、蝋燭の炎がふっと揺れる


――沈黙。


やがて、誰からともなく、グラスが高く掲げられる。


ヴァリシアはわずかに微笑し、ただ唇を動かす。それは誰にも聞こえない、小さな祈りだった。


(Doue, ra vezo d’it va pediñ :)

 (神よ…ねがわくば…)


(Ra unano adarre an daou garantez-se,)

 (愛し合うふたりを…)


(Ene ha korf, e peoc’h ar bed-mañ.)

 (再び結ばせたまえ)


その囁きが空気に溶けた瞬間、二つの魂の気配は消え、外の風がドアを揺らした。


ランプの火が円を描き、ひとひらの白い花弁がカウンターに落ちる。


まるで、神が――又は目に見えぬ者たちが…

彼女と彼の思いに応えたようだった。


ヴァリシアの胸の内で、静かに何かがほどけていくと同時にバブの空気も、いつもの雰囲気に戻って行く。


「ジェルマン、ありがとうございます。」


ジェルマンに先程のコープス・リバイバーを誰も居ないカウンターに出してくれたことにお礼を言う


「良いんですよ」


ジェルマンはグラスを拭きながら軽くウインクをする。その仕草は、おじさんにしては妙に可愛らしかった



そんなやり取りをしていると、奥から油じみた男たちが笑いならやって来る。


「姐さん、いい声してるじゃねぇか!」


「聖女様の気取りかよ。ケッ、今夜はいい夢見れそうだな」


ヴァリシアは笑顔を崩さず、肩をすくめる。


「あら、ありがと。あたしの歌、気に入ったのね?」


「そりゃもう! この街じゃあ、あんな良い声出す女いねぇよ。」


その下卑た笑いに、ヴァリシアの指先がわずかに震える。


怒りではない

人の俗を見たときの、どうしようもない“落差”だった。


男の袖口から、黒い石の刻印が入った腕輪が覗いた。


――あら、あれ……。


どこかで見た意匠だ。

そういえば、ダンジョンで倒れていた戦士の遺留品にも似た刻印があったと、報告書にあったはず。


「あなた、その腕輪……素敵ね、どこで手に入れたの?」


ヴァリシアは歌うような口調のまま、探りを入れた。


「そうね……歌いすぎて喉が渇いたの。少しだけ、ね」


彼女は男の隣に腰を下ろし、ワインを一口だけ舐めた。淡く笑って杯を傾ける。


 その笑みは、見た者を酔わせるほど艶やかで――しかし、どこか空ろ

 男は勘違いしたように肩に手を回してきた。


「この街、最近ざわついてるじゃない? 怖い話、よく聞くの。でも歌にはピッタリじゃない?」


ヴァリシアは歌詞のネタを聞き出す様な事を言う


「明日の夜には俺たちも活躍するぜ、セインの野郎が余計な真似ばかりするからよ」


「セイン……?」


「おうよ。あの獣人野郎、ギルドの副長だからな、……明日の夜、北の裏通りで仕置きだぜ」


「獣人にお仕置きねぇ・・歌になるかしら??」


「うひひ、仕事だよ、仕事。お偉いさんの依頼さ」


「あら、お偉いさんって?」


「そりゃ言えねぇなぁ……あー、でも姐さんになら」


男は声を落とし、耳元に口を寄せる。


「“コーディックス”様よ。まぁ、慈善事業ってやつよ」


「まぁ、どんな風に“お仕置き”するのかしら?ゆっくり聞かしてくれる?」


 彼はヴァリシアの胸元をちらと見て、下卑た笑いを漏らした。


「聞かしてやるぜ、その金で一晩どうだ?」


 ヴァリシアはグラスを傾け、赤い酒を舌の先で転がす。


「……まずは、その“お偉いさん”の話を聞かせてよ、長い歌になりそうね・・」


 笑いながら、彼女の目は冷たく光っていた。名も無い護身用の呪詛が男にかけられる。

それはサナがヴァリシアに護身用に教えた術であった。


「八塩折(やしおおり)の盃を廻せ、八度の渦に魂を沈めよ」


男たちは たちまち酩酊していく。記憶には楽しく酒を飲んだ記憶しか残らない。

明日の計画を喋った事も、秘密を全部自慢した事も・・


「ふんっ」


ヴァリシアは少し苛ついた様子で立ち上がる。


酩酊した男たちを見下ろしため息を付きながらカウンターの方に声をかける


「ジェルマン、この男たちお願い」


ジェルマンは笑いながら残念そうに


「スキルじゃ無くてお酒で酔わせれば売上、上がったのに」、


ヴァリシアは腕組をして即答する


「――無理よ」


ヴァリシアは、何故かこの瞬間サナから習ってた時の事を思い出して少し笑顔に成っていた。

――また会えるよね…サナ…


ヴァリシアは気を取り直す。


「さて、カームに伝えないと」


作中の歌、地の文に埋め込んでみました。

イメージ足しに聞いてみても良いかもです。

https://on.soundcloud.com/UBgormmjVqnf05ZawG

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。