12話 ヴァリシア視点 カームとヴァリシア
ヴァリシアは、意識を取り戻すまでに10日間ほどを要した。
その間に、ダンジョンでは大きな変化が起きていた。レイスが消滅し、仲間たちが祭壇を破壊したことで、内部のゴースト群は弱体化し完全に壊滅出来たという。
さらに奇妙なことに、深層部──ダンジョンコアの近くに至るまで、魔物の姿が一体も確認されなかった。
原因は不明で、構造上の異常も見つかっていない。
だが、それ以上に衝撃的だったのは、ダンジョン内の導声石の記録から、セシアン・コーディックススがダンジョン内で大量殺人を行い、儀式によってゴーストを召喚していた事実が判明したことだった。
ベッドに身を起こしたヴァリシアは、報告書をめくりながら静かに息を吐く。
サナからも羊皮紙で伝言が届いていた。導声石はいまだ不調らしい。
―――
Dear Valicia
ヴァリシア、手伝いに行こうと思っていたけど、霊廟でトラブルが有って、行けなくてごめんね。手が空いたら こっちに来てほしいの
どうやら、麗石導環の破壊と国の乗っ取りがあるようなの。
主犯はセシアンの上官たちよ。下位の奴らは騙されているか、騙されているフリをしてるわ。
信頼できる前衛が欲しいのでカームも呼んでる。カームには説明しないとね・・、
セシアンの奴ら、完全にトチ狂ってるわ。
Best wishes
―――
王国への報告──いや、もはや抗議が必要だ。
ダンジョン管理長として、今回の件は頭の痛い問題だった。導声石の不具合のせいで早馬も使えない。
幸い、魔族の町から王都までは半日ほどの距離だが、サナの気配が読めない。体調も万全ではないようだ。
もう2,3日休んで、サナと霊的交信してから、乗合馬車でゆっくり向かうことにした。
ーーー
車輪の揺れに身を任せながら、ヴァリシアは窓の外をぼんやりと眺めていた。
何よりも気がかりなのは、サナの所在だ。霊的交信で幾度か探ってみたが、存在が不安定で、居たり居なかったりする。まるで生と死の境を漂っているかのようだ。
それでも、ときおり強い存在感を感じ取るときは、むしろ異様に“元気”な印象を受ける。その理由がわからない。
思索の中で、戦闘時に使用した《リバース・オブ・グレイス・ソウル・リターン》の記憶が蘇る。
麗石導環の副作用で曖昧な断片ではあるが、あのとき対話した霊の多くは王国の使者たちだった。
彼らとの会話から判明したことは──
セシアン・コーディックススは薬と魔法を用いて、王国の要人や冒険者たちを洗脳し、反逆へと導いていたこと。
さらに、殺した人間をゴーストとして操る術を持ち、魂を摩耗させ会話をさせなくする技を知っていたこと。
負の観念を霊廟に集め、ダンジョンコアを破壊し、麗石導環を通して異界と霊廟を接続──“大いなる神界”を降ろそうとしていること。
しかもその場所を複数作ろうとしていた
「……うーん、んん……」
ヴァリシアは身をよじり、姿勢を直した。まだ本調子ではない。
これほどの情報があっても、霊から得た証言は比喩や象徴が多く、裏付けが取れなければ公表できない。
「セシアン・コーディックススには困りましたわ……」
その時、馬車が“ガコッ”と音を立てて大きく揺れた。
我に返ると、前方から「いい男がおばさんを口説くとか口説かないとか」との話し声が耳に入ってくる。
「うふふ……」
年を重ねても、女はいつまでも女なのよね。
まさか、その“いい男”がカームだとは、このときのヴァリシアはまだ気づいていなかった。
町に着いたヴァリシアは、宿屋で落ち着き、また、サナの気配を探る、が、また、居ない・・
「ライカ聖教に行くまでにサナに会いたいのですが・・」
ソウルリンカーの力で周辺の霊に干渉し情報を抜き出そうとしても、何もなかった。
何事も無かったでは無く、情報が欠落しているのだ。ライカ聖教の霊廟の近くに行けば行くほどに情報がない。
周辺に微かに何か暗いイメージがあるが、それを上回る温もりに似た何かが漂う。
「サナに相談できればいいのだけれど・・」
サナなら、もっと高位の霊に干渉が出来る。きっとこの状況の顛末も解るはずだ。
再びサナの気配を探る・・・
「え?あら?なに?」
居るのに、何か違う何かも感じられる。
「思念が届くかしら?」
と強く念じようとすると、サナの気配がスッときえる。それを繰り返す度にサナの気配を薄くなり感じられなく成ってきている。
「どうしましょう・・」
ヴァリシアはサナの気配が存在は確認出来るのに薄くなっている事に恐怖を感じていた
「まずは、カームさんを探さないと・・」
そう考えまだ、サナの気配が強かった時に得たビジョンと言葉を思い出す。
――見晴らしの良い小高い丘の双樹・・・
「整数倍で符合する…享受性で解るわ」←※割注《感性の波がピタッと合えば、理屈抜きで理解できる》
感性を頼りに外套をはおり足早に宿をでた。
ーーー
ヴァリシアは自然とカームのいる方向に歩いていた。
遠目に双樹が見え、男が気に持たれてダルそうに座っている。
「あら?あの方は乗合馬車で・・」
特に気配を消すでもなく、後ろから近づき斜め後ろから声を掛ける
「こんにちは、」
「ああ、あんたは・・・」
お互い、顔をしっかり覚えてないので少し変な空気が流れるがヴァリシアはサナのご自慢の旦那の容姿は聞いていたので解っていたが、早くに名乗ったほうが無難だろう・・
「ヴァリシアです。お久しぶりです、やはり貴方がカームでしたか、」
カームは中々いい男だった、イケメンでは無くハンサムと言う類である。
乱れた黒髪が光を吸い込み、濡れ羽色のような艶を帯びて額や頬にかかる
頬骨は高く、顎のラインは力強く引き締まり、
口元には言葉よりも雄弁な男らしさが宿るが、表情は優しい
彼の顔は「野生」と「理性」と「優しさ」の均衡を保つ彫像のようであり、見る者に一瞬の畏れと、抗いがたい魅力を抱かせる
ヴァリシアは“ふむ、なかなか良いわ”と思いながらも表情は変えず、話を進める。
カームと相談して少し身を隠して調べがしっかりしてから動くことになった。
「では、連絡は3日後で・・宿屋横のパブ・・。“バルーハウス”で夕食時にしましょう」
ヴァリシアはそんな約束をしながら情報を集める方法を思案する。
そんなヴァリシアにカームが尋ねる。
「木を隠すには森の中ってことか、で、サナの所在は解らないのか?」
あら?そんな顔もするのね、不安にかられたカームの表情をみてヴァリシアはゾクゾクしていた。
カームの彫刻のように整った顔立ちは、強靭さを感じさせるが、サナへの心配からか表情から優しさと繊細さが香り立つ
ここは、表情が緩んでは恥ずかしいので、ぐっと堪える。
「わかりました・・今、リンクさせてもらって良いでしょうか?」
少し興奮してしまって熱くなったので、外套をするりと脱ぐ。
カームに周辺警戒を委ねて、本気でソウルリンカーの力を行使…
周辺の水粒子の記憶、とどまるエレメント、偶然居合わせる霊達に問いただす。
流れるように、起こったことが解るが、やはり、霊廟の近くは何も無い・・
ふと、サナの気配がまた、感じられた、思念は行けるかと思ったが、しかし、気配が薄すぎる・・この街に居ない?、何か根本的に変わって・・・。
そう解った時には自分の限界を超えていた。
「あの、ちょっと、ヴァリシアさん?」
カームの声に驚いて我に帰る。
無理をしすぎたかしら・・ちょっと息切れでカームに心配をかけてしまっている。
少し挙動のおかしいカームを不思議に思いながら、今までのサナに関しての事を話した。
かなり不安な状況だが、調査を進めれば何か解るかも知れない。あまり目立たないようにするためにも一度、別れて、各自調査をする事となった。




