第9話:陽の当たる場所
「……さっきからうるさいわね」
ずっと俯いて牌を見つめていたサラが、ふっと顔を上げた。
その表情には、絶望も、焦りも、一切なかった。
ただ冷たく、そしてどこか小馬鹿にしたような目で、対面のキララたちを見据えていた。
「ところで、あなた達は一体誰なの?」
「……はぁっ!?」
サラの突然の言葉に、キララが素っ頓狂な声を上げた。
「あんた、頭おかしくなったの!? 私たちよ、キララとシズク! あの海コーデのコンテストで準優勝だった、GGGの期待の新人よ!」
「ああ……そうなの?」
サラは、興味なさそうにフッと鼻で笑った。
「ごめんね。私、下は見ないようにしてるから」
ピキッ、と。キララの額に青筋が浮かぶ音が聞こえた気がした。
「こいつ……っ、舐めやがって……!」
「自分たちが罠にハメた相手から、顔も名前も覚えられていない」という最高の屈辱。
プライドの高いキララとシズクにとって、それはどんな暴言よりも深く刺さる挑発だった。
二人は顔を真っ赤にして、ギリッと歯を食いしばりサラを睨みつける。
しかし、サラはそんな二人の殺気立った視線など意に介さず、ゆっくりと首を動かして、頭上――地下室のコンクリートの天井を見上げた。
「今はこんな薄暗い地下室で、無機質な天井しか見えないけど……」
ポツリと、サラが独り言のように呟く。
その唐突でな行動に、怒りで我を忘れていたキララとシズクの毒気が一瞬だけ削がれた。
「……は? 何言ってんのよ」
「私たちはまた、空の見える明るい場所で輝くのよ」
サラの澄んだ声が、静かな地下室に響いた。
その言葉の響きに引き込まれるように、私は思わずサラの視線を追って、頭上の冷たい天井を見上げた。
(あ……)
そして、向かいの席に座るキララとシズクも。
「あなたたちはこの地下室の方がお好みだったかしら」
「バカ言ってないでよ、このまま地下から出られないのはあんたたちよ、私たちこそ上へ上へとあがっていくんだから」
「そう。できると、いいわね」
全員が視線を卓へと戻す。
「……さあ、いくわよ、ユラ」
私は、口元だけでニッと笑って頷いた。
「うん」
「……ふん、いきなりしゃべりだしたかと思ったら、ほんと意味わかんない。負け確定でついに頭がおかしくなったの?」
キララが鼻で笑う。
シズクも「無駄な時間使わせないでよね」と呆れたように牌に手を伸ばした。
対局は静かに終盤戦へと突入した。




