第8話:変わらぬ盤面と、鼻で笑う敵
「ツモ……切り」
「……ツモ、切り」
第2回戦が始まっても、状況は先ほどと全く同じだった。
私の手牌も、サラの手牌も、配られた時から微動だにしない。
『国士無双13面待ち』
またしてもこの悪魔の配牌を押し付けられた私たちは、アガれば相方を地獄に突き落としてしまう呪縛に囚われ、ただ引いてきた不要な牌を河に並べていくしかなかった。
静寂の中、局は中盤を過ぎようとしていた。
「あーあ、ほんっとにつまんない。ねえ、いい加減負けを認めたら?」
静寂を破り、西家のキララが退屈そうにあくびをしながら野次を飛ばしてきた。
「どうせ勝つなんてできないんだからさぁ。さっさとどっちかが国士あがって、ゲームセットにしましょ?」
「そうそう。抵抗するだけ無駄だって、まだ分かんないのかなー。どうせ二人揃って一生奴隷になるんだから、少しでも早く慣れておいた方がいいんじゃない?」
シズクも同調して、ニヤニヤと私たちを煽ってくる。
勝てない盤面を押し付けておいて、さらに心をへし折ろうとする陰湿な言葉。
ギリッと奥歯を噛み締める音が、自分の口内から響いた。
(……再戦を申し出たはいいものの、このままではただの時間稼ぎ! なにか、なにか打破する方法はないの……!?)
目の前にあるのは冷たい全自動卓と、私の手牌にある13枚の一、九、字牌だけ。
この配牌を崩せばテンパイは崩れ、流局(誰もアガれずに引き分けになること)した時に罰符を払うことになり、じわじわと点数が削られて最下位へ一直線だ。
かといって、このままテンパイを維持していても、フリテンである以上絶対にアガることはできない。
文字通り、八方塞がりだった。
「もうすぐテンパイよ。さっきみたいに、またダブロンで一気に決めてあげるから、首を洗って待ってなさい」
勝利を微塵も疑っていない、絶対的な強者の余裕。
彼女たちは「ただ座って打っているだけ」で、勝手に私たちが自滅するのを知っているのだ。
「サラ……」
私はすがるような思いで、隣に座る姉を見た。
サラは、無表情のまま自分の手牌をジッと見つめていた。
その横顔からは、何を考えているのか読み取ることができない。
(このままじゃ、本当にさっきと同じようにやられちゃう……! ……ん? 無表情??)
焦りが全身を駆け巡り、額から嫌な汗が滲み出る。
局は、いよいよ終盤戦へと差し掛かろうとしていた。
キララとシズクの河には、もはや危険な牌しか並んでいない。
いつ「リーチ」や「ロン」の声が飛んできてもおかしくない、張り詰めた空気。
「さーてと。じゃあ、そろそろトドメの準備といこうかしら」
キララが、残酷な笑みを浮かべながらツモ牌に手を伸ばす。
その手首の動きが、スローモーションのように見えた。
もうダメだ。 また跳満クラスの直撃を受けて、今度こそ私とサラの二人ともGGGの奴隷として一生、日の光を見ることもなく、この巨大な悪意に搾取され続けるんだ――。
私が絶望で目を閉じかけた、その時だった。
「……さっきからうるさいわね」
ずっと俯いて牌を見つめていたサラが、ふっと顔を上げた。
その表情には、絶望も、焦りも、一切なかった。
ただ冷たく、そしてどこか小馬鹿にしたような目で、対面のキララたちを見据えていたのだ。




