第7話:再戦の代償は『二人揃っての奴隷』
「もう一回……! もう一回だけ、私たちと勝負して!!」
私の悲痛な叫びに、地下室の冷たい空気がピタリと止まった。
しかし、次の瞬間、キララとシズクの甲高い嘲笑が響き渡った。
「はぁ? あんた馬鹿じゃないの? なんで私たちが、そんなの受けなきゃいけないのよ」
「そうそう。勝負はもう完全に終わったの。お姉ちゃんがドナドナされていくのを、泣きながら見送ってなさいよ」
シッシッ、と犬でも追い払うように手を振る二人。
ぐうの音も出ない正論だった。
圧倒的な勝利を手にした彼女たちにとって、必ず勝てる勝負とはいえ再戦を受ける理由なんて、これっぽっちも存在しない。
「そこをなんとか……っ! お願いします!」
私がさらに頭を下げようとした、その時だった。
「――よかろう。再戦を認めてやる」
静寂を破ったのは、腕を組んで壁際に立っていたGGGの幹部だった。
「えっ!?」
驚きの声を上げたのは私ではない。
キララとシズクだ。
「ちょっと幹部さん! どういうことですか、もう私たちが勝ったのに!」
「黙って聞け。ただし、ただの再戦ではない。条件を変更する」
幹部はギラリと蛇のような目を光らせ、私たち双子と、キララたちの両方をねっとりと見回した。
「我々としても奴隷は多い方がいい。次は最下位を出した者とその相方――つまり敗北したペアの『二人とも』が、我がGGGの奴隷となり、一生かけて負債額を返済してもらう」
「なっ……! 奴隷が二人……!?」
その凄惨な条件を聞いて、今度はキララたちが青ざめて抗議の声を上げた。
「冗談じゃないわ! なんで私たちまで奴隷になるリスクを負わなきゃいけないのよ! 意味がわからない――」
キャンキャンと喚くキララに、幹部はスッと歩み寄り、その耳元でボソッと何かを囁いた。
『……案ずるな。この卓の仕様を知っているだろう。お前たちが負けることは絶対にない。勝てば、お前たちにも特別ボーナスを出してやろう』
幹部の囁きを聞いた瞬間、キララとシズクの顔から不満がスッと消え、代わりに底意地の悪い笑みが浮かび上がった。
「……なるほどね。特別ボーナス、期待してますよ?」
「ああ、約束しよう」
幹部との密約を終えたキララは、クルリとこちらを向き、これ以上ないほど見下したような目で私たちを鼻で笑った。
「ふん。一人の犠牲で済んだのに、わざわざ二人揃って奴隷になりたいなんてね。本当に大バカな双子」
「絆ごっこも大概にしなよ。あ、言っておくけどね……」
シズクが、卓の上に肘をついて私に顔を近づけてくる。
「この麻雀の自動卓のイカサマを見つけるなんて、絶対に不可能よ。だって、私たちは『何もしてない』んだから」
「そうそう! たまたま、さっきと『まったく同じ配牌』が出てきても、それはただの偶然なんだからね!」
ケラケラと腹を抱えて笑う二人。
それは、絶対にイカサマを見破られないという確信があるからこその、悪辣なネタバレ(煽り)だった。
プログラムで完全に制御された卓。
彼女たちは座っているだけで、私たちが勝手にフリテンの地獄に落ちて自滅していくシステムになっているのだ。
「……ユラ」
隣から、静かな声がした。
振り向くと、サラが真っ直ぐに私の目を見ていた。
その瞳には、さっきまでの絶望や怯えは微塵もなく、静かに燃えるような強い光が宿っていた。
(サラ……)
そうだ。私たちは、絶対に負けない。
だって私たちは、一人で戦っているんじゃない。二人で一つ(ニコイチ)なんだから。
「ええ。それで構わないわ」
私とサラは顔を見合わせて深く頷き、同時にそう言い放った。
その力強い返答に、キララたちは「強がっちゃって」と鼻で笑いながら、再び自分の席へと腰を下ろした。
「では、再戦をスタートする」
幹部の合図とともに、卓の中央が開き、ジャラジャラと牌が洗われる音が地下室に響き渡る。
ゴトッ、という重い音とともに、私たちの目の前に真新しい牌山がせり上がってきた。
祈るように、そして確かめるように、配牌をめくる。
一、九、字牌が綺麗に一枚ずつ並んだ、あの悪魔の配列。
(……本当に、さっきと全く同じ……)
『国士無双13面待ち』。 またしても、仕組まれた最強で最悪のテンパイ。
アガれば相方が地獄へ落ちる、フリテンの呪縛が再び私たちを襲う。
「さあ、始めましょ? 大バカな双子ちゃんたちの、最後の思い出作りを」
キララの醜い笑い声とともに、私たちの運命を懸けた、最後の戦いの幕が上がった。




