第6話:無情のダブロン
「ツモ……切り」
「……ツモ、切り」
カツン、カツンと、無機質な牌の音だけが地下室に響き渡る。
局は完全に終盤へと差し掛かっていた。
私たち姉妹は、完全に手足を縛られていた。
手牌は『国士無双13面待ち』という最強の形のまま、微動だにしない。
いや、動かせないのだ。
私かサラ、どちらかがアガれば、もう片方が最下位になって莫大な借金を背負う。
その呪縛がある限り、私たちは引いてきた不要な牌をただ河に並べるだけの機械になるしかなかった。
(ごめん、サラ……! この場を打開するための策が思いつかない……!)
唇を噛み締めながら、隣に座る姉を見る。
サラの顔には疲労の色が濃く滲んでいた。
当然だ。
親である彼女は、ただでさえ失点のリスクが大きい上に、妹を守るために自分からフリテンの地獄へと足を踏み入れたのだから。
「あーあ、つまんないの。まさか一回も勝負してこないなんてね」
「ほんとほんと。ビビって降りてるだけの双子ちゃん、ウケるー」
キララとシズクの嘲笑が、静かな室内にねっとりと絡みつく。
彼女たちの河には、これ見よがしに危険な牌が並べられている。
明らかに高い手を作っているテンパイの気配。
そして、運命の巡目がやってきた。
サラのツモ番。
彼女が牌山から引き寄せたのは、『五筒』だった。
国士無双には不要な牌。
サラはそれを指先で摘み、小さく息を吐いてから河へ置いた。
「五筒」
その瞬間だった。
「「ロンッ!!」」
鼓膜を劈くような、キララとシズクの弾んだ声が重なった。
「え……?」
サラが目を見開く。
キララとシズクは、ニチャァッと醜い笑みを浮かべながら、同時に自分の手牌をパタンと倒した。
「タンヤオ・平和・ドラ4……跳満よ」
「こっちもロン。三色同順・ドラ3……同じく跳満!」
ダブロン――。 一人の捨て牌に対して、二人が同時にアガリを宣言する最悪の展開。
親であるサラの点棒は、この二つの跳満(1万2000点ずつ、計2万4000点)の直撃を受け、一瞬にして空っぽ同然へと吹き飛んだ。
「サラ……っ!!」
私は思わず椅子から立ち上がっていた。
サラは真っ青な顔で、自分のほぼ空っぽになった点箱を見つめている。
「はい、終了〜! これでサラちゃんの最下位が確定ね!」
「あーあ、妹を庇ったせいで自分が億単位の借金背負うとか、バカみたい!」
手を叩いて爆笑する二人を見て、私の頭の中で何かがプツンと切れた。
「ふざけないでよっ!!」
ドンッ! と両手で麻雀卓を叩きつける。
「こんなの……こんなのイカサマじゃない! 最初から私たちをハメるために、配牌から全部仕組まれてたんでしょ!?」
私の悲痛な叫び声が地下室に響く。
しかし、キララとシズクは全く動じることなく、冷ややかな、まるでゴミを見るような目で私を見下ろした。
「はぁ? 対局が済んでから何言ってるの?」
「そうそう。イカサマを訴えるなら、その『現場』をおさえなさいよね。証拠もないのにイチャモンつけるなんて、ほんと底辺の負け犬って感じ」
「くっ……!」
何も言い返せなかった。
この全自動卓がどうやって国士無双の配牌を仕込んだのか、私たちにはそのタネ(証拠)を見抜く術がない。
言いがかりだと言われれば、それまでなのだ。
「サラ、ごめん……私のせいで……」
「ユラのせいじゃないわ。……私たちが、甘かったのよ」
サラは震える声でそう言うと、悔しさに顔を歪めた。
これで終わり。
事務所の違約金も、損害賠償も、すべてサラ一人が背負うことになってしまった。
私たちの完全な敗北だ。
「さあ、見苦しい言い訳はそこまでにしておけ」
その時、部屋の奥の暗がりから、GGGの幹部がゆっくりと歩み出てきた。
その顔には、獲物を完全に罠にハメた悪魔の笑みが浮かんでいた。
「ルールはルールだ。最下位となったサラ君には、我がGGGの奴隷として、一生をかけて負債を返済してもらう。……さあ、連行しろ」
屈強な黒服の男たちが、無言でサラに歩み寄る。
「待って!!」
私は幹部の前に立ち塞がり、声を張り上げた。
このまま姉を奪われるわけにはいかない。
「もう一回……! もう一回だけ、私たちと勝負して!!」




