第5話:姉妹の呪縛
「はい、『南』」
キララが河に叩きつけた牌は、私にとって間違いなくアガリ牌だった。
しかし、すでに自分のアガリ牌である『東』を捨ててフリテン状態になっている私は、「ロン」の声を上げることができない。
ただ唇を噛み締め、目の前に置かれたその牌を黙って見逃すことしかできなかった。
「……」
静寂の中、親であるサラにツモ番が回ってきた。
サラは牌山に手を伸ばし、ゆっくりと牌を引き寄せる。
そして、引いてきた牌をジッと見つめ、そのまま河へと置いた。
「……三萬」
パチン、と。
またしても、乾いた音が地下室に響く。
どうやら、サラのツモもアガリ牌ではなかったらしい。
(ここはどうしても、サラに頑張ってもらわないと……!)
私がツモアガリをしてしまうと、親であるサラが莫大な点数を支払うことになり、サラの最下位が確定してしまう。
しかし、親であるサラがツモアガリした場合は別だ。
サラが「トップ」になれば、『どちらかがトップになれば借金はゼロ』というこのゲームのクリア条件を満たすことができる。
私からの支払いも発生するが負債は3等分、サラがトップになってくれるなら全く問題ない。
私たちの勝ちパターンは、キララかシズクのどちらかからロンアガリするか、サラがツモアガリするかの二択。
しかし、私に毎回当たり牌が来るようなら、フリテン地獄に陥ってしまい私はもう誰からもロンできない。
頼みの綱はサラだけなのだ。
祈るように、私は自分のツモ牌に手を伸ばした。
(……『西』)
やっぱりか。
またしても私のアガリ牌。
当然、ツモ宣言なんてできない。アガればサラが沈む。
「……『西』」
私は震える手で、その当たり牌を河に叩きつけた。
その瞬間。
ビクッ!
私がツモ切りした『西』を見て、サラの肩が大きく跳ねた。
(え……? まさか……!?)
さっき私が『東』を捨てた時も、サラは明らかに動揺していた。
そしてこの『西』にも。
もしそれが正しいなら、サラの待ちは『東』と『西』のシャボ待ち? いや、違う。
この異常な配牌……恐らくサラの待ちも、私と同じ『国士無双13面待ち』なんだ!
サラも私を守るために、わざとアガリ牌を見逃した。
つまり、サラもまた、私と同じように『フリテン』の呪縛に囚われてしまったのだ。
「あっははははっ!! 見たシズク!? 今の見た!?」
「見た見たー! また二人して残念そうな顔してる! 一体どうしたんだろうね??」
西家と北家に座るキララとシズクが、お腹を抱えて爆笑し始めた。
その下品な笑い声を聞いて、私はGGGが用意したこの罠の「本当の恐ろしさ」を完全に理解した。
この異常な配牌は、私たちを勝たせるためのものではない。
『双子の絆』という、私たちが一番大切にしているものを逆手に取った、悪魔のシステムだ。
自分だけ助かるために相手を蹴落とすか、それとも共倒れになるか。
GGGの連中は、私たちが互いを思いやって自滅していく姿を特等席で眺めて楽しむために、このイカサマの盤面を用意したのだ。
「あんたたち……性格悪すぎ……っ」
私が睨みつけると、キララは涙を拭いながらニヤリと笑った。
「褒め言葉として受け取っておくわ。さあ、地獄の耐久レースの始まりよ。いつまでその『姉妹愛』とやらが保つかしらね?」
その後も、キララとシズクは私たちを嘲笑うかのように、わざと国士無双のアガリ牌である一、九、字牌ばかりを切り飛ばしてきた。
目の前に並べられていく、アガれるはずの当たり牌の山。
「……ツモ切り」
私とサラは、何もできない。
サラは不要な牌を引き、私は自分の当たり牌を引いては、捨てる。
ただその作業を繰り返すしかなかった。
冷たい汗が背中を伝う。
アガりたくてもアガれない。
終わらせたくても終わらない。
息の詰まるようなフリテンの地獄の中で、盤面はゆっくりと、絶望の終盤へと差し掛かっていった。




